問題児登場②
うーん、今のナターシャさんの質問にはなんて答えればいいのかな?
お友達は心配ではなくて?っか〜〜。
正直に答えちゃうと話しが続かないんだよね。
だって心配なのは誘拐犯の方ですよ、なんて言っちゃったらこの人怒りそうだし。
まあ、ちょっと探りを入れてみますか。
「あ、あの、私の友人達がどこにいるかご存知なのですか?」
こんな感じで聞くのはどうかな?
私の言葉にナターシャさんは馬鹿にしたような顔をした。
「ご存知ですか?ですって〜。さあ?どこにいるのかしらね。でも、私はこの国にいろいろなツテがあるの。貴方が素直に私の言うことを聞いて下さるならそのツテで調べてあげても良くてよ。」
ふーん、ツテ……か。
っていうか居場所を知っているご本人でしょう?
そこまでして私に言うことを聞かせたい内容って何かな。
……しょうがない、もう少しだけこの茶番に付き合おうか。
「ど、どうすればよろしいのですか?」
私の言葉に気を良くしたのかナターシャさんはその顔に笑みを浮かべている。
「ふふ、そうよ。そうやって私の言葉に素直に従っていれば良いのよ。」
ふむ、思ってた以上にワガママ感満載だね。
たぶんサナ達がいなくなってから結構時間が経っているから、もうそろそろ何か動きがあるとは思うんだけど……。
私が黙っている為か、怯えているとでも思ったのかナターシャさんが妙に優しい声音で語りかけてきた。
「まあ。そんなに怯えないでちょうだい。そんなに難しいことじゃないわ、ただちょっと……ね。私は近い未来この国の王太子妃になる予定なの。クリストファー様は第3王子だけど1番王に相応しい方よ。お父様もそう言ってたわ。……ねえ、貴方はクリストファー様の何なのかしらね?私が調べた情報によると隣国の辺境伯の娘で、自国の王子に婚約破棄されたようね。…………どう考えてもクリストファー様には合わないわ。なのにクリストファー様は貴方の領地を度々訪れている。教えてちょうだい……貴方が知っているクリストファー様の弱みを。」
は?
クリス様の弱み?
もしかしてこの人、私がクリス様を脅して領地に来させているとでも思っているの?
どうやったらそんな考えになるんだろう?
うわ〜〜、どうしよう今までお相手してきた貴族の御令嬢とは根本的に考え方が違う。
「…………教えてくれないの?そう……だったら貴方のお友達がかわいそうね。だって貴方が素直になってくれないとお友達はいつまでたっても行方不明のままだもの。そうね〜、もしかしたら不幸なことも起こるかもしれないわ。」
ナターシャさんはそう言って私を睨みつけてきた。
誘拐の目的はクリス様のありもしない弱み。
この人はこうやって今までも他の御令嬢を潰してきたのかしら?
ユーリさんの仕えていた方もこの人のせいで窮地に立たされているのね。
「ナターシャさん、私はクリス様の弱みなど握っておりません。」
私の言葉にナターシャさんが凄い勢いで噛み付いてきた。
「貴方がクリス様など呼ばないで!それに弱みでも握っていない限り、あの方がたかが辺境伯ごときの領地になんて行くものですか!」
今までは睨んできてもそれなりにお嬢様らしく話していたのに『クリス様』呼びにはキレてきたね。
なるほど愛称で呼ぶことは許されていないようだ。
その時外が何やら騒がしくなってきた。
もしかしてライアンさんとソールさんが援軍を連れて来たのかな?
私がそんなことを考えていたらナターシャさんが笑った。
「ふふ、ようやく来たようね。弱みは聞けなかったけど、まあいいわ。リリーナさん、貴方には役に立ってもらうわよ。」
そう言うとナターシャさんは自分のドレスの胸元の部分を引き裂いた。
……案外、力強い。
ってそんなこと考えている場合じゃなかった。
この人何してるの?
私が呆然とその様子を見ていたらナターシャさんが急に大声を出した。
「キャーーーーーーーー!!」
その声が合図のように部屋の扉が勢いよく開いた。
入って来たのはクリス様、それからお祖父様とお祖母様、ライアンさん、ソールさん、他にもなんかいっぱい人が入って来た。
ナターシャさんはちらっとクリス様を確認するとそのままクリス様の近くに走っていった。
そして涙ながらクリス様へと訴え始めた。
「ク、クリストファー様。わ、私、こちらのリリーナ様とお話しをしようと思いお部屋を訪ねたんです。そうしたらお話しの途中で突然私に暴力を……。私がクリストファー様と仲良くさせていただいていることをお話ししたら怒ってしまって。」
おいおい。
……私は自分の中の何かがブチっとキレる音が聞こえた。
この芝居が果たして成功するとでも思っているんだろうか?
いや、思っているからやっているのか。
私が反論する前にやたら偉そうな人が出てきた。
「おお〜〜!ナターシャ、怖かったろう。王子!見なさいこの娘の姿を!剣神などと呼ばれて良い気になっている奴の孫なんてこんなもんなんだよ。たかが辺境伯がこの城に自由に出入り出来るこの状況をおかしいと思わないのかね。」
何だろうこの人……。
死にたいのかな?
たぶん空気読めないんだね、お祖父様の様子に気づいている人達はみんな震えだしているのに。
どうしようかな、さすがに頭にきてるよ私も。
ちらっとお祖父様を見たら私の気持ちに気づいているようで、好きにしなさいという顔をしている。
じゃあ、お言葉に甘えて。
「あの、一応言っておきますが私は何もしていませんよ。」
「何だと!うちのナターシャが嘘をついているとでも言うのか!たかが辺境伯の娘のクセに!さあ、早くこの者を捕らえるのだ!何をしている早くしろ!」
うん、この人もナターシャさんと一緒か。
まあ、父親がこんなんだからああなっちゃたのね。
「あのですね、では言わせていただきますが、私がもしもお嬢さんに暴力をふるったとしたらこうなりますよ。」
そう言って私は勢いよく近くにあったテーブルに拳を叩き込んだ。
ガッシャーーーーン!!
私の拳を受けたテーブルは粉々に砕け散った。
うん、アレン君に少し習っておいて良かった。
ナターシャさんとその父親らしき人は口をポカーンと開けていた。




