西の国
サスケさんとはあまりコミュニケーションが取れないまま馬車は突き進み、ようやく西の国へと到着した。
理由が面白いから、の割には話しかけても会話が続かないんだよね。
ハンゾウさん、弟子の育て方間違ってますよー。
それともシノビは寡黙な方がいいの?
西の国のまだ端っこのほうだけどさすが大国、道が舗装されていて馬車がスムーズに進む。
凸凹の道はお尻に悪い。
途中あまりに悪路のところは変な格好してたもんね。
だってお祖父様ったら、そういう道でもスピード緩めないし……スピード狂なのかな?
サスケさんも私のあまりの格好にちょっとだけ表情筋が緩んでいた。
笑いたければ笑うがいい。
でもアレン君とアンジュ様が必死に笑いを堪えているのは地味にショックだった。
今日は宿屋に泊まることになった。
この旅で初めての宿屋って、貴族とは思えないね。
まあ、その方が私も気楽で良いんだけど。
宿屋で食事をしながら今後のことをお祖父様に聞いてみた。
「お祖父様、この後は西の国の王都に向かわれるんですか?」
「ああ、その予定だ。西の王にはリリーナを紹介するついでに今回の魔物の件について報告をしようと考えている。」
うーん、ついでがおかしい。
どっちかと言うと私の紹介がついでだよね。
前なら何でお祖父様が西の国の王様に直接会えるのか疑問に思っただろうけど、魔物の発生原因がわかった今は納得だ。
もしかしてハンゾウさんが呼んでいたみたいにカッコいいあだ名がお祖父様に付いていたりして。
食事が終われば後は寝るだけだけど……。
宿屋の部屋に戻ってからはお楽しみのガールズトークが待っている。
今回の部屋割りお祖父様とお祖母様で一室、私とサナとアンジュ様で一室、そしてまさかのアレン君とサスケさんで一室だ。
最後の2人は大丈夫かなぁ?
まあ寝るだけならきっと大丈夫……だよね?
「で、サナさん!リカルド様とはどうなっているんですか?」
何故か部屋ではアンジュ様がサナを尋問している。
しかも内容が微妙だ。
「…………別に、どうにもなっていませんよ。」
サナが困った顔で答えている。
「えええ〜〜!だってリカルド様あんなにサナさんのこと気にかけていらっしゃるじゃないですか?」
気にかけているというか、兄のアレは本能だよ。
兄は絶対サナへの気持ちに気がついていない。
そして私は、もしも兄がサナへの気持ちに気がついてしまった時が恐ろしい。
「アンジュ様、お兄様はサナに対して意識せずにあの行動をとっているんですよ。本当に本能に従って行動していますの。我がお兄様ながらサナには申し訳ないわ。」
本当にサナには申し訳ない。
将来的に兄に捕捉された時は出来るだけ味方になるよ!
「アレが意識していない行動…………す、すごいですね。」
アンジュ様もビックリらしい。
気づいていなかったのか。
「あ、それはそうとリリーナお姉様。私、前から言おうと思っていたことがあるのですが……。」
「うん?何かありましたか?アンジュ様。」
「そう、ソレです!私のこと様付けで呼ぶのはおやめ下さい。出来れば呼び捨てで呼んで頂けると嬉しいです。」
「呼び捨てですか?でも……」
「アレンばっかりずるいです!私だってリリーナお姉様に名前を、アンジュって呼ばれたいです。ダメですか?」
アンジュ様が涙目で訴えかけてきた。
えーっとアレン君ばっかりずるいって……。
うーん、ここは呼び捨てするのが正しいのかな。
「わかりました。これからはアンジュって呼びますね。」
「は、はい!うわ〜〜すっごく嬉しいです!リリーナお姉様ありがとうございます!」
アンジュ様……いや心の中ではアンジュさんにしておこう。
嬉しそうに笑っているからいいか。
アンジュ様はその勢いのまま私にも微妙な質問をしてきた。
「あの〜、リリーナお姉様はアレンのことどう思いますか?」
アレン君のこと?
うーむ、難しいな〜。
好きか嫌いかで聞かれれば間違いなく好きだ、いや大好きだ。
でもそれは結婚する程かと問われれば、違うと思う。
だけど背中は預けられるぐらい信頼している。
「アレンのことは信頼していますよ。」
どうやら私の答えはアンジュさんのお気には召さなかったようだ。
「そうですか……。」と言って明らかに落ち込んでいる。
おかしいなぁ、信頼しているは今のところ最大級の褒め言葉なんだけど……。
そういえば私達にいろいろ質問してくるアンジュさんだけど、アンジュさんはどうなのかしら?
「ねえ、アンジュ。あなたはどなたか気になる方はいらっしゃらないの?」
私の問いかけにアンジュさんは小首を傾げている。
「うーーーん。…………ああ、そういえば本当に気になるだけの人ならいます。恋愛的な意味ではなく人として興味があります。」
「あら、どなたかしら?」
「シノビです。」
サスケさんってこと?
まあ、気になるっていうなら同感だ。
「サスケさんが気になるの?」
「いえ。シノビが気になるんです。個人じゃなくてシノビそのものですね。」
なるほど。
シノビの存在が気になるのね。
でもサスケさんは教えてくれなさそうだ。
まず喋んないし。




