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閑話 兄王都へ

サナが出発する前の日、俺はなかなか眠れなかった。

明日サナが西の国に行ってしまう、考えただけで胸がムカムカする。

イライラも止まらないから夜中に庭で素振りをしていたら後ろから攻撃を受けた。

気付いたら自分のベットで横になっていた。

はて?どういうことだ?


昨日の記憶がない俺は痛む頭をさすりながら食堂へと移動した。

サナとの触れ合いを楽しもうと思って。

しかしそんな俺のささやかな願いは木っ端微塵に吹き飛んだ。



「はあ?もう出発したってどういうことですか母上!」


母は面倒くさそうにこう言った。


「だから言ったでしょう、リリーナ達は夜明け前に出発しましたよ。ほら、あなたもとっとと支度をして王都へ報告に行きなさい。ちゃんと手紙も届けるのよ。」


「いや、何で夜明け前に……というか俺、何も聞いてないですよ!」


「だって内緒にしてたもの。」


あんまりだ。

サナに別れの挨拶も出来なかった。

何の恨みがあるっていうんだ。

俺は凹んだ、非常に凹んだ。

今度いつサナに会えるかわからない。

会えないうちに変なのがサナにつきまとったらどうするんだ?

俺が近くにいればどんなものでも吹き飛ばせるのに……。


バシッ!


「イッテ〜〜。」


「いつまでもウジウジと女々しいわね。そんなんじゃサナに嫌われるわよ。サナは軟弱者が嫌いなの。そんなことばかりしているなら帰ってきた時全部サナに言うわよ。いじけている暇があるなら行動しなさい。自分の役割を果たせない男にサナはもったいないわ。」


……反論出来ない。

もともと口でも力でも勝てない相手だ。

しかしサナに笑われるような男にはなりたくない!

なら今やれることをやるか。


「わかりました母上。俺、王都に行きます。手紙は王妃様に渡せば良いんですね。」


「ええ、そうよ。レオン王子の手紙と、この私が書いたものと持っていってちょうだい。スミレ姫の手紙は何かあった時のために私が保管しておきます。」


スミレ姫の手紙は他人事ながらもう日の目を見ることがなければ良いと思っている。

さすがの俺もアレにはドン引きだ。


「何か伝えることはありますか?」


「そうね〜、…………ああ、そうだわ。結婚式を楽しみにしています、とでも伝えておいて。喜んで参加しますとね。それからリカルド、シノビが役に立ったこともアピールしてきなさい。」


「シノビ……ですか?」


「ええ、そうよ。スミレ姫が寄越してくれたシノビが役に立ったことをアピールすればスミレ姫の評価が上がるでしょう?そうすればきっと婚約がより強固になるわ。来たばかりの王子の婚約者が自身の護衛を魔物討伐に参加させるなんて美談じゃない。」


母上、畳み掛けるんだな。

レオン王子との縁をぶち切る気満々だ。

でもレオン王子には悪いけどここまできたらスミレ姫と結婚してもらわんと困るだろうな。


「わかりました。全て報告してきます。」


「よろしくね。くれぐれも余計なことは言わないように。」


余計なことってなんだ?

……ああ、スミレ姫の手紙か。



サナもいないし俺は騎士団のメンバーを引き連れてその日のうちに王都へ戻った。

もちろん休憩など入れずに直行だ。

今までならヘロヘロになっていたメンバーも、一皮むけたのかちゃんとついてきている。


王都に着いた俺は王へ面会を申し込んだ。

希望はすぐに聞き入れられ謁見の間で王に対峙した。

その場には王妃様と宰相である父もいた。



「…………とういうことで魔物の脅威は無くなりました。奇跡的に犠牲者も出ておりません。」


「うむ、よくやった。これで当分は魔物の大量発生はなさそうだな。」


王が一安心とばかりにホッとしている。

お、そうだ。

母から預かった手紙を渡さねば。


「王妃様、我が母から手紙を預かってきております。こちらを。」


俺は母から託された手紙を王妃様に手渡した。

父は目で俺に『何が書いてあるんだ?』と問いかけてくる。

しかし俺も母が書いた方の手紙の内容は知らない。


王妃様が無言で手紙を見ている。

どうやらレオン王子の手紙と母の手紙、どちらも読み終わったようだ。

なんかすごく疲れているような表情をしている。

王妃様は俺に質問をしてきた。


「ねえ、リカルド。このレオンの手紙だけどリーザだけが読んだのかしら?」


「いえ、違いますよ。もちろんリリーナ宛だからリリーナが最初に読みましたが、内容はその場にいた全員が知っていますよ。」


俺の言葉に珍しく王妃様が青くなっている。


「ぜ、全員って何人ぐらいいたのかしら?」


「えーっと、お祖父様達と、それからクリス達も入れてだから……10人以上はいましたね。」


王妃様がガックリしている。

手紙のことを知らない王と父は不思議そうにしている。

王妃様はそんな王と父に読めとばかりに手紙を渡した。

2人が手紙を読み進めるうちに2人の顔色が変わった。

王は青ざめ、父は黒いオーラを出している。


「あ、あいつは一体何を……」


ついには王が頭を抱え始めた。


「王よ、リーザの手紙にもあるように軟禁して結婚を早く済ませましょう!」


ナニ?母の手紙に軟禁とか書かれてんの?

一応自国の王子に軟禁勧めちゃいかんだろう。


「はあ〜〜、もうリリーナは諦めなくちゃダメね。これ以上はリスクが大きすぎるわ。」


王妃様は何やら残念そうに呟いている。

むしろ諦めんの遅すぎだろ。

お、そうだ。

スミレ姫の援護忘れてた。


「そういえば、スミレ姫が極秘に自身の護衛であるシノビを援軍に寄越してくれていたんです。非常に助かりました。」


「そう、スミレ姫が……」


ヨシ、ちゃんとアピール出来たぞ。

王妃様は何やら考えているようだ。

そして考えがまとまったようでこう言った。


「レオンに今までどれだけ自分がリリーナに迷惑をかけてきたのか一から説明しましょう。たぶんあまりの惨状に自分で自分を殴りたくなるわ。宰相!アレを、レオンのリリーナ拗らせ会議の議事録を用意してちょうだい。これを説明してキッパリ諦めさせましょう。」


うわ〜〜、あの会議の議事録ってすんげ〜いっぱいあるんじゃねえの?

アレを記憶のないレオン王子に説明って……鬼だな。

でもそのぐらいしないと諦めねえか。


しかし好きなやつを諦めるのって理屈じゃ無理だと思う。

俺だってサナを…………。

サナをなんだ?

俺は何でサナにこだわっているんだ?

あああ〜〜なんかモヤモヤする!

よし!訓練所に行って暴れよう!


俺は父達が騒いでいる中訓練所へと向かった。



ーー訓練所


「「「今日こそは隊長を倒す!」」」


部下達が妙なやる気を出して俺に突撃してくる。

ああ、いいぞ。

とことん相手をしてやる。

俺は向かってくる奴らを一撃で沈めていった。


「うおー!隊長が本気だぞ!」

「やべー、ご乱心だーー!」

「おい、何であいつらあんなに吹っ飛んでんだ?あり得ん。」


俺は久しぶりに手加減せずにぶっ飛ばしている。

特に時々聞こえる「サナ様の為に〜」とか抜かしているやつは念入りにだ。


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