閑話 掃除
私とライアン、ソールは一足先に国へと帰ることになった。
本当はリリーナとゆっくり旅をしたかったがそうもいかない理由がある。
ソールにも指摘された通りまだ残っている仕事があるのだ。
私がリリーナと結婚する為に国でいろいろしている時に、今回南の国が馬鹿をしでかしてきた。
発端は王族の婚姻問題だった。
リリーナ達の国もそうだが、我が国でも国同士の政略で結婚が決まることが多々ある。
ただ、今回は政略なんて全く関係無かった。
南の国の有名なワガママな末っ子が私と結婚したいと言い出したのだ。
私の記憶には全くと言って良いほど残っていないのだが、どうやらどこかのパーティーで私のことを見かけたようだ。
だがはっきり言ってその婚姻は我が国に何の旨みもない。
諜報部隊の調べでは末っ子の為かかなり甘やかされて育ったらしく、1人では何も出来ないうえにかなりのワガママ娘のようなのだ。
正直言ってそんなお荷物いらない。
リリーナのことが無かったとしてもとても受け入れられる婚姻ではなかった。
その為、婚約の話しが南の国から打診された時は速攻で断りをいれた。
もちろん父も了承済みだ。
しかし、南の国ではまさか断られるとは思っていなかったようなのだ。
その自信がどこから来るのか本当に1度問いただしてみたい。
諜報部隊の話しでは目に入れても痛くない娘の望んだ縁談を断られ南の国の王が激怒したらしい。
そのくらいのことで感情を露わにするなんて、王の資格なんてない。
だから周辺国にも馬鹿にされるんだ。
最初に南の国が攻めて来た時、私は先頭に立つつもりは無かった。
しかし父からリリーナの領地の秘密を知らされて事情は一変した。
今の南の国の王には一線を退いてもらうことに決めた。
度々リリーナの領地に海の生物の魔物が現れたのは全て今の南の国の王のせいだ。
ならば私がとっとと引導を渡して、南の国に安定をもたらす。
南の国の国民には罪はないし、争いが長引けば余計魔物が増える。
目指すは南の国の城のみ。
もともと評判の悪い王のおかげか南の国には協力してくれるものがたくさんいた。
その中には国の中枢に位置する人物も。
スピード解決が実現したのはそういった人達がいたからだ。
南の国の王との対面はあまりにも会話が噛み合わなかった為思い出したくもない。
速攻で退いていただいた。
そして我が国と南の国との全面対決を阻止出来たので魔物の発生も止まったようだという知らせがもたらされた。
南の国の次期王は、疎んじられていた次男が継ぐことになった。
王である父親から軟弱者と罵られていたようだが、影で国民の為に尽力してきたあの王の子供とは到底信じられない人格者だった。
ちなみにその他の王族は基本王に倣えの者達だったので仲良く拘束されて幽閉されたようだ。
自分の国の大掃除もまだなのにな……。
リリーナも迎えるのにもう少し掃除をしなければならない。
9割は終えているのだが残りがなかなか骨が折れる。
ソールが貴族の令嬢に偏見を持つのも仕方がない状態だ。
1番の問題は公爵家の娘、その名はナターシャ。
家柄、教養、礼儀作法と貴族の令嬢の見本のような娘なのだが唯一性格が問題だった。
もちろん表立って何かをするわけではないのだが、私が少しでも話した女性やパーティーで踊った女性にトラブルが発生する場合、99%このナターシャのせい。
しかも怪しさは全開なのになかなか証拠は上がってこない。
何としてもリリーナが来る前に片付けたかったのだが……。
そんな私の考えを読んだようにソールが話しかけてきた。
「クリス様、あの公爵家の問題児絶対リリーナ様に仕掛けてきますよね。どうしますか?状況証拠だけで何とか排除しますか?」
「いや、無理だろう。あの公爵も黙っていないだろうし。本当はリリーナが来る前に何とかしたかったが……。」
「まあ、でもあの『剣神』の孫って知ったら無闇に手出ししてこないと思いますけどね。実際見てないから俺はわかりませんがリリーナ様もお強いんでしょう?」
ソールの言う通りあの『剣神』の孫であるリリーナに直接ケンカを売る真似はしないはずだ。
もちろん『剣神』というのはリリーナの祖父殿である。
1度うちの騎士団の訓練で暴れてから有名だ。
ちなみに命名者は父。
昔からそう呼んでいたとか。
とにかくリリーナは守らねば。
まあ、ただ守られてくれる子ではないけど……でも傷ついてほしくはない。
さあ、リリーナが来るまでに出来るだけの掃除はしよう!
笑顔で彼女を迎えられるように。




