返事
そんなこんなで旅に出ることは決定した。
最後まで兄がごねていたが問題ない。
何故なら久しぶりの母の鉄拳制裁で落ち着いたから。
あとは面倒だけど手紙の返事をどうするかだ。
すると母がお祖父様が1度は破り、修復されたレオン様の手紙を取り出してこう言った。
「リリーナ、手紙の返事は別に書かなくてもいいわよ。その代わりこのレオン王子の手紙をレイチェル王妃に送りましょう。きっと面白いことになるわよ。ふふふ。」
母が笑顔で提案してきた。
面白いことって……たぶんレイチェル様の扇が飛ぶ。
兄同様鉄拳制裁ってヤツだ。
その話を聞いていたサナがこんなことをつぶやいた。
「それでしたらこのスミレ姫の手紙も一緒に送ってさしあげたらよろしいのでは?」
いやいや、このスミレ様の手紙はかなりマズイって。
ハンゾウさんが手直ししていない原文の方は喧嘩売ってるようにしか見えないもん。
「あら、サナったら言うわね。でもスミレ姫の手紙は送らない方がいいわ。もしこの手紙のせいでレオン王子との婚約が無くなってしまったら、またリリーナに言い寄ってくるだろうから。今だってこんな感じでしょう?スミレ姫にはレオン王子と絶対くっついてもらわなければ困るわ。」
なるほど母の言う通りだ。
スミレ姫の暴言だらけの手紙のせいでレオン様とスミレ様の婚約が破棄されたら困る。
「レイチェル王妃には私から一筆添えておくわね。それから今回の魔物の件についてはリカルドが報告に行けばいいでしょ。なんたって騎士団の隊長なんですから。リリーナに来いって言うのがまず間違っているのよ。」
母がおかんむりだ。
でも、兄が報告に行く方が筋は通っているよね。
それにアレク様だっているしさ。
兄のフォローもきっちりしてくれそうだ。
「というわけでリカルド、ちゃんと報告するんだぞ。」
「…………わかりました。」
兄がお祖父様に念押しされてかなりイヤイヤながら返事をしている。
相当サナが旅に出てしまうことが堪えているようだ。
「ところでリカルドお前この間、龍の巣に行っただろう?」
「え?なんでそのことを?」
龍の巣…………ああ〜、サナの為に取ってきたアレね。
兄が全身ススだらけになって帰ってきたやつだ。
「お前な〜、龍が怒っていたぞ。お前の孫の教育はどうなっているんだ?って。いきなり寝込みを襲われたから思わず火を吹いたが、なんであれで生きているのかわからなかったとも言っていたな。」
…………え?
龍が言っていた?
龍しゃべるの?
私はあまりの衝撃に思わずお祖父様に質問してしまった。
「お、お祖父様……あの、龍って話すことが出来るのですか?そして何よりお祖父様は龍と交流があるのでしょうか?」
私の言葉にみんなも興味津々だ。
お祖父様の返事を待っている。
「ああ、意思の疎通は出来る。話すというよりも頭の中に声が響く感じだな。たぶんリカルドは誤解しておるが、あの龍は魔物ではないぞ。いつからいるかはわからんがこの領地にずっと住み着いておる。龍にしてみれば私達が後から来て勝手に住み始めたと思っているんだろうな。」
兄がちょっかい出した龍は魔物じゃないんだ。
じゃあ、マズイよね。
「 リカルドお前将来この領地を継ぐのだから、今度あの龍に謝って来いよ。くれぐれも悪さをしないようにな。そうそうお詫びの品として甘い物を持って来いと言っていたから、王都で適当に見繕って持っていけ。だいたい普通の人間の100人分ぐらい持っていけばいいから。」
わ〜〜、なんか龍のイメージが激変だ。
甘いもの好きなんだ……ちょっとカワイイ。
私も1回会ってみたいな〜。
「うん?リリーナお前も龍に会ってみたいのか?そうだな、会いたいなら今度連れて行ってやろう。たぶん龍はリリーナを気にいると思うぞ。あやつは強い者が好きだからな。ついでにその者が愛らしい容姿だとなお良いらしい。」
…………うん、龍のイメージがまた変わったよ。
「リリーナ様、きっと面倒なことになりそうですから龍に会うのは止めておいた方が良いのでは?」
アレン君が心配そうにそう言った。
そうだね。下手に気に入られても面倒なことが起きそうだ。
「そうですね。龍には興味がありますが、自ら面倒ごとに正面から体当たりするのはみんなに迷惑をかけてしまいそうですし、今回は諦めますわ。」
うん、厄介ごとに首を突っ込むのはやめよう。
タダでさえ王都には厄介ごとがわんさかあるんだし、心落ち着く領地まで住みにくくなったら本当に世界各地を放浪する旅に出なきゃ行けなくなる。
「ふむ、そうか。ならとっとと西の国に出かけるとするか。あまりゆっくりしていると王都からバカが湧いて出ないとも限らんしな。準備もあるだろうから2日後に出発することにしよう。」
お祖父様がそう言うのを聞いたソールさんがクリス様に何か言っている。
「ほら、クリス王子。リリーナ様も2日後には西の国に来られるようですよ。だから私達は今日帰りましょう。」
「いや、2日後に一緒に行けばいいじゃないか。」
「何言っちゃてるんですか?仕事がたまっているって言ったでしょう?このまま一緒に帰ったってすぐに仕事に連れ出されますよ。それなら一足早く帰って仕事を終わらせた方が良いじゃないですか。」
「そ、そうだな。リリーナと一緒に旅が出来ないのは寂しいが国に帰ってリリーナに仕事が忙しくて会えないのは困るしね。リリーナ、私は一足先に帰ることにするよ。君が来るのを楽しみに待っているから気をつけて来るんだよ。」
クリス様はそう言うと私の頭をそっと撫でて名残惜しそうにみんなに挨拶をして去って行った。
決断してから行動までが恐ろしい程早い。
これが出来る人なのね。




