だからどうした?
手紙のせいでみんなが騒いでいるところにコンッという音が響いた。
うん?どこから聞こえたのかな?
私が周りをキョロキョロ見渡しているとみんなもどうした?というようにキョロキョロし始めた。
その時またコンッという音がした。
方向的には窓の方だね。
でもここ2階だよ?
私が窓に近づこうとしたらアレン君とアレク様に止められた。
「リリーナ様、何があるか分かりませんからここでお待ちください。」
そう言うと2人は窓の方へと警戒しながら近づいていった。
するとその2人にお祖父様が声をかけた。
「たぶん、そこまで警戒せんでも大丈夫だ。どうせ奴らだろうからな。」
奴ら……ですか?
それはもしかして…………。
私が思い浮かべた人物がまさに今、窓の外のベランダにすでに正座の姿勢で待っていた。
…………やっぱり貴方でしたか。
「かさねがさね申し訳ございません!」
定番のハンゾウさんの土下座が炸裂した。
その傍らにはサスケさんが立っている。
「ほら、サスケお前も土下座しろ。」
「イヤだ。」
うーん、ここの力関係はどうなっているのかな。
何やらもめている。
ところでハンゾウさんの土下座の理由はスミレ様の手紙の件でいいのかな?
2人のやり取りにみんなも呆れ気味だ。
クリス様達はハンゾウさんとサスケさんを知らないからかなりの疑いの目で見ている。
「こら、お前達いつまでそうしているつもりだ?用があったのではないかハンゾウよ。」
お祖父様はハンゾウさんのこと知っているんだ。
「ああ、これは鬼神殿お久しぶりです。まさかこのようなところで会うとは……不思議なものですね。」
「その名で呼ぶな、恥ずかしい。それより土下座が目的ではないだろう。用事があるなら早く言え。うちの若者達がイラついているぞ。」
ちなみにイラついている若者達というのはアレン君とアンジュ様、サナと安定の3人組である。
さっきからやたらと殺気が飛び交っているのだよ。
少し落ち着こうね。
「それは失礼致しました。用事というのはもちろんスミレ姫の手紙の件でございます。前にも1度リリーナ様にはお話致しましたがうちの姫様、かなりの捻くれ者でございまして…………。本来であれば私が1度検閲した手紙を届けたかったのですが、今回はまさかのレオン王子の手紙に潜り込ませる手法を取りやがりまして。内容確認ができなかった次第でございます。さぞ不快な思いにさせる手紙だったことでしょう。」
ハンゾウさん……いつも手紙の内容確認までしてるんだ。
シノビの仕事って多岐にわたるんだね。
「それで、遅ればせながらスミレ姫の手紙をわかりやすく普通に書き直した物をご用意しました。要は訳した形になります。どうぞお読みになってみて下さい。」
そう言うとハンゾウさんは懐から手紙を出して私に渡してきた。
ここで読まないっていうのはさすがにハンゾウさんが可哀想なので、目を通すことにした。
『リリーナさんへ
魔物退治が無事済んだようで良かったです。
私のシノビからも報告がありました。
私のシノビもリリーナさんのお役に立てたようで嬉しいです。
魔物退治が無事終わったようなのでいつ頃王都には戻る予定でしょうか?
早く戻ってきてくれることを願っています。
私のところにも寄ってくださいね、楽しみに待っています。
今回、犠牲者が出なかったのはリリーナさんのお力だと思います。
是非その武勇伝もお聞かせ下さい。
スミレ』
…………いやいやいや、これはないわ〜〜。
もう別人じゃん。
何、スミレ様って2人いるの?
私が1人心の中で突っ込んでいたら手紙を母にとられ、読まれた。
そのあと母が笑っている。
いや、あれは爆笑と呼んでもいいぐらいだ。
みんなも回し読みしている。
私はハンゾウさんに話しかけてみた。
「あのハンゾウさん、今読ませていただいた手紙は別人ではないですか?というかハンゾウさんが書き直したんですからもう全然違うのでは……。」
「確かに私が書き直しましたが、その、信じられないでしょうが本当のお気持ちは今の手紙の方なんですよ。昔から天邪鬼でして、最初の手紙のような感じで書いてしまってご自分であとから深く落ち込むんですよ。本当に困った人で。」
でも、ハンゾウさんは困った人と言いながら面倒みてるのね。
そこへお祖父様が口を挟んできた。
「しかしハンゾウ、前のシノビの長であるお前が付くというのはある意味凄いな。それだけ守りたいのか?」
「…………ふう、そうですね。あんな感じでもうちの大事な姫様ですからね〜。幸せになって欲しいんですけどなかなか難しいようで。お相手があのレオン王子ですからね〜。本当、あの王子様なんとかならんでしょうかね?」
あ、あれ?
ハンゾウさん実はレオン王子のこと嫌い?
そしてハンゾウさんって実はシノビの中でも偉い人だったの?
この腰の低さも計算済みですか?
お祖父様の知り合いってだけで何かやらかしそうで怖い。
でも、この手紙が万が一本当のことが書かれているとして、だからどうした?って感じなんだけど。
関わらないほうがお互いの為っていう考えは変わらないよ。




