⑦
はい!着きました!
もう来ることは無いと思っていた王宮に、早くも来てしまった。
でもしょうがない…。
レイチェル様には会いたい。
案内役の騎士に先導され王宮内を進む。
レイチェル様は自室でお会いして下さるそうだ。
奥へとズンズン進んで行くとレイチェル様の部屋の前へたどり着いた。
先導してくれた騎士が部屋をノックする。
「王妃様、リリーナ様をお連れいたしました。」
扉が開き、レイチェル様付きの侍女が招き入れてくれた。
「失礼いたします。」
部屋に入ると直ぐにレイチェル様の笑顔が見えた。
私はまだ歓迎されているようだ。
「あぁ、リリーナよく来てくれましたね。あなたに会うのを楽しみにしていたのよ。さあ、この間手に入った美味しいお茶があるの、ぜひ試してみてちょうだい。」
レイチェル様は近くに控えていた侍女にお茶の指示を出し、私には席に掛けるよう促した。
「リリーナが私に会いたいと言ってくれるなんて久しぶりだわ〜。どう?最近は何か困っていることないかしら?」
うん?
あれ?
も、もしかしてレイチェルに婚約破棄の話は伝わってないの⁉︎
おい!王様かレオン様伝えておいてよ〜。
えーっと、言ってもいいんだよね?
言っちゃうよ?
私が質問に答えないせいか、レイチェル様の表情がくもった。
「どうしたのかしらリリーナ?何か悩み事?またうちのバカ共が何かやってくれたのかしら?」
バカ共って…。
もしかしてレオン様、他も含めてですか?
まあ、やらかしたって言えばやらかしてるよね。
誰にも言わずに婚約破棄って。
本当にしょうがないんだから、お願いだから根回ししてから私に話を通してくれ。
これでは私が話を広めているようではないか。
私は今まで軽くみんなに伝えていた婚約破棄の話を、初めてためらった。
レイチェル様〜すいません!
私、あなたの息子に婚約破棄されてます〜。
脳内一人会議を経て、私は意を決してレイチェル様へ話し始めた。
「あのですね、レイチェル様…。申し訳ございません!私…あの、レオン様に昨日こ、婚約破棄をされました!」
私は深々と頭を下げてレイチェル様へご報告した。
「リリーナ、顔を上げてちょうだい。」
レイチェル様の言葉に私は下げていた頭を上げた。
う、レイチェル様…笑顔なのにコワイ。
なんか上げた頭をもう一度下げたい気分です。
「リリーナ…謝らないでちょうだい。貴方は悪くないわ。むしろ謝らないといけないのはこちらの方よ。毎回貴方には迷惑をかけてしまって申し訳ないわ。」
「いえ、レイチェル様には感謝の気持ちしかありませんわ。いつも助けていただき本当にありがとうございます。」
「いいのよ。リリーナはもう私の娘と言ってもいいぐらいなんですから。でも本当にレオンには困ったものね。今回の件は許せないわね。」
レイチェル様はちょっとからかう様な口調でこう続けた。
「でも、リリーナにとっては朗報だったのかしら?貴方は誰よりも優秀な王子の婚約者として王妃教育を受けていたけど、本当は王妃教育嫌だったでしょう?」
!
バレてらっしゃる!?
いや、バレてらっしゃるって言葉もおかしくなってるよ。
何故私が嫌々受けていたのがわかるのですか?
「ふふ、困った顔になってるわよ。何で分かったのかって思ったんでしょう?当たり前ではないですか、私もその王妃教育を受けての今の立場があるのですよ。私だって当時はそれはそれは嫌で仕方がありませんでしたわ。だからこそ貴方がいかに頑張っていたかがわかります。」
うー、さすがはレイチェル様!
やっぱりレイチェル様にはかなわない。
「さて、私としてはリリーナが私の本当の娘になってくれれば嬉しいけど、今回のことでそれも難しいわね。たぶん貴方の周りの者達は何かの間違いだとでも言ったんじゃないかしら?」
え、レイチェル様は心の声も聞こえるの?
婚約破棄のことは知らなかったのに、周りの反応は分かるって凄いなぁ。
「我が息子ながらバカねぇ、試す様な真似して。リリーナ、私が許可します!領地にお戻りなさい。他の者に何か言われたら私から領地に帰るよう命じられたと言えばいいわ。貴方の様な素敵な子に今のバカは不釣り合いよ。ただ、もしも…いえ、ないわね〜。」
うん?何がないのかな?
でも、レイチェル様の許可が出たから領地に行ける!
久しぶりに思いっきり体を動かせるよ。
「もう、リリーナったら。そんなに嬉しそうな顔をされたらちょっと悲しいわよ。でも、これだけは言わせて。今回のレオンがやった事は許せないわ、だけど私が言うことではないけどあの子貴方のことを本当に気に入っているのよ。今さらって感じだけど。」
え?
レオン様が私を気に入っている?
どこが?どの辺りが?
過去のレオン様の私に対する行いを振り返ってみる。
・遠巻きに観察される(王妃教育の時はほぼ毎回)
・誕生日に花と宝石を毎回渡される。(国花の百合の花だが、昔夢で大きい百合の花に食べられる夢を見てから苦手だ。匂いは好きだけど。)
・パーティーでレオン様のことを好ましく思っていらっしゃるお姉様方に取り囲まれたとき、颯爽と現れお姉様方を全員連れて行きパーティー中ずっとお姉様方と仲良く過ごされていた。(確か私は壁の花になっていた)
まだまだあるけど、私を気に入っているって本当か?
微妙に嫌がらせなのかもって思うことがあるんだけど…。
「ふー、そうね。はっきり言ってレオンはリリーナ相手の時はバカよ。見ていて毎回笑いを堪えるのに必死だったわ。でも、もうそんなこと言ってる場合じゃないわね。リリーナ、レオンに捕まる前に出発しなさい。まあ、レオンが何かしようとしたら出来るだけ私が止めてあげます。」
「レイチェル様…。分かりました、私明日にでも領地に向かいます!レオン様がどの様に考えていらっしゃるかは全く分かりませんが、婚約破棄された身。いつまでも表に出ているわけには参りませんわ。」
「ええ、リリーナそうしなさい。いつまでも言葉にしないレオンが悪いのだから。」
「ありがとうございます、レイチェル様!」
「リリーナ、頑張ってね。」
ん?
何で頑張って?
まあ、励ましの言葉として受け取っておきましょう。
私はレイチェル様とお話出来て気分良く屋敷へと帰った。
ーーその頃王妃の部屋
「ふう、リリーナ逃げ切れるかしら?レオンは年季が入ってるリリーナバカだから。とりあえずこれ以上リリーナに嫌がられる事はしない様に釘をささないといけないわね。」