新婚約者って?➃
それまでサナが淹れてくれたお茶をガブ飲みし、お菓子を食べ続け、一言も話さなかった兄がボソッと喋った。
「スミレ姫ってさ、昔この国に来てたことあったらしいんだよな〜。えーっと、いつだったかな。………あっ、そうだ。初めてレオン王子が俺たちの領地に来たちょっと前だったかな?なんか正式に婚約を結ぶ前に顔合わせをとかいう理由で来てたみたいだな。まあ、俺も又聞きだから良く分からないけど。ただレオン王子に会って一目で気に入ったとかは言ってたな。」
なんで兄がそんな事を知っているの?
意外と情報通の兄にびっくりだ。
という事は、スミレ様はレオン王子に一目惚れして婚約を結ぶ一歩手前で私にその座を盗られたと思っているのかな?
完全な誤解なんだけど……。
むしろ熨斗をつけて返したい。
「それがどうしたというんですか!たとえ婚約を結べなかったとしてもリリーナ様のせいではないでしょう!何を勘違いしているんだかわかりませんがリリーナ様にあたるのはお門違いです!」
アレン君ありがとう〜〜。
そうだよ!なりたいって言ったわけじゃなく婚約者になったんだよ私は。
でも、まあ恋する気持ちってスゴイね。
方向性は完全に間違っているけどその気持ちを持てるところは羨ましいと感じる。
「リリーナお姉様……今後はどうしますか?領地に帰っても良いんじゃないですかね〜。」
「そうね〜、確かにスミレ様のあの様子だと私が近くにいると余計拗れるだけよね。………お父様にご相談して領地に帰らせてもらえるようにお願いしてみるわ。」
私の言葉に微妙な顔をしている人がいる。
兄だ。
ブツブツ言っているのが聞こえる……。
『リリーナが帰るってことはサナも!?おいおい、この美味しいお茶もお菓子も食べられないし、それより何より顔が見れないだと………。』
なんか独り言を言ってヘコんでいる。
言っておくけどサナは私の侍女だからね!
絶対連れて帰るよ。
サナにも兄の独り言は聞こえているようだけど……無視しているね。
まあ、この間のことが尾を引いているのかな。
万が一、ないとは思うけど、もしもサナが自分からここに残りたいって言えばそれは笑顔で許可するつもりだよ。
ないとは思うけどね。
ーーその日の夜
父の部屋で今日の出来事を報告し、領地に帰りたいことを伝えた。
「ふむ、まずご苦労だったなリリーナ。私もレイチェル王妃の茶会の話しは聞いていてな……。途中レオン王子が乱入してから大変だったらしいな。リリーナが帰ってからもしばらくレオン王子とスミレ姫の攻防が続いたようだ。」
父の耳にも茶会の様子は入っていたのね。
「領地には帰っていいぞ。これだけ迷惑かけられて、これ以上リリーナに何を望むのか分からんがな。明日王には一言言っておく。記憶も戻らないようだし、何より婚約者が出来た身で他の女を追いかけているなんて噂になるのはレオン王子、スミレ姫、そして何よりリリーナに悪影響だ。レオン王子もリリーナに新しい婚約者が出来れば諦めがつくのかもな……。」
む、私に新しい婚約者か〜〜。
確かにそうすればレオン王子にも会わなくてすむし、下手に関わらなくてもいいね。
ただ問題は誰が私の婚約者になってくれるかだ。
今まで来ている見合いの話は正直あまり乗り気ではない。
はあ〜〜どっかに一緒に魔物狩りしてくれる人いないかな〜。
「リリーナ、お前は今すぐ婚約者を選んでも大丈夫なのかい?誰か気になる人とかはいないのか?」
気になる人……。
思い浮かんだ人達は皆、魔物を単独で狩れる人達だ。
これって気になる人っていうのかな?
ちょっと違うような気がする。
「気になる人と言いますか……思い浮かんだ人は皆私よりも強いと思います。もしも可能であるのであれば私よりも強い方に嫁ぎたいですね。」
「……お前よりも強いってなかなかいないのではないか?普通の貴族のボンボンでは太刀打ち出来んだろうし、騎士団よりも強いだろう?残るは……ふむ、そうだな私が思いつくだけで3人くらいか。まあ、リリーナが望めばその3人は喜んで婚約しそうだがな。」
喜んで婚約してくれる?
本当に?
こんな暴れん坊な私をもらってくれるかな。
「とりあえず明日すぐに領地に行くというのも慌ただしいな。2、3日ゆっくりしてから帰りなさい。たまには王都の中を見物するのも悪くないのではないか?せっかくだからリーザの好きな焼菓子の店にでも寄って土産でも持って帰れば良いんじゃないか。」
言われてみればそうだね。
母に土産の一つでも持って帰った方が良いね。
「ええ、そうですわね。お母様にお土産を選びたいと思います。領地には3日後に帰ろうと思います。」
私にも婚約者……か。
そうだよね、いつまでもこのままではいられないよね。
ただ最近思うのは私よりも兄を先に何とかした方が良いのでは?ということだ。
兄はいつになったら気づくのかな?
 




