王子再び➁
冷静に考えるとレオン様の記憶が戻らなくても問題はないのではないのかと、ふと思ってしまったが兄や父、それにレイチェル様が悲しむというなら私が出来ることはやってみようと思い直した。
まあ出来ることといっても会うことぐらいだけど……。
もしそれで何も起きなければとっとと領地に戻らせてもらおう。
翌朝、早速城に行くことになった。
サナやアレン君、アンジュ様も一緒に行きたいと言っていたが一応王子への面会なのでお断りさせてもらった。
みんなが来てくれた方が安心はするけど、記憶がないレオン様にとっては知らない人がいっぱいというのは心に負担が大きいと思ってのことだ。
なのでレオン様に会う時は兄だけが付き添ってくれる。
城に到着してまずは父と兄と共に王とレイチェル様に謁見することになった。
レイチェル様は大丈夫かな?
謁見の間に入るなりレイチェル様が私を抱きしめてきた。
「ああ〜、リリーナ!本当にごめんなさい。貴方にまた迷惑をかけてしまって……。」
く、苦しい。
レイチェル様……ちょっと力弱めて……。
私が苦しんでいることに気づいた王と父が止めに入ってくれた。
「レイチェルよ、リリーナ嬢が苦しんでいるからその辺にしなさい。ああ、リリーナ嬢今回はすまん。いや、今回もすまん!」
言い直したよ、王様。
「あら、ごめんなさいリリーナ。力が入り過ぎてしまったわ。」
やっとレイチェル様の抱擁から脱出出来た。
姿に似合わない力の持ち主だからね〜。
「お久しぶりでございます。今回はレオン様が大変なことになっているようで……。」
王様とレイチェル様は深くため息をついてらっしゃる。
「今まで散々いろいろリリーナ嬢の件ではやらかしてくれてきたが、まさか記憶を失うとは思わなかった。」
「ええ、しかも器用に人のことだけなんて……正直このままの方が幸せなんじゃないかと思ったくらいよ。」
レイチェル様……このままの方がって、もしかしてみんなもそう思っているとか?
まさか……ね〜。
ちょっと不安になった。
「あの、私はこのままレオン様にお会いするということでよろしいのでしょうか?正直私に会ったぐらいでは記憶は戻らないかと思いますが。」
「あらあら、リリーナはレオンに対する影響力を知らなすぎるわ。私はリリーナに会えばすぐに記憶が戻ると思っているわよ。」
レイチェル様の言葉に王と父、兄も何やら頷いている。
ウソ……そこまで信頼されてるの私。
会って何も起こらなかったらごめんなさいで済むかな〜、なんて現実逃避してみたり。
とにかく会わなきゃ話しが進まない!
会いに行こう。
私は王とレイチェル様、それから父に見送られレオン様の部屋に兄と向かった。
気を紛らわせるために歩きながら兄にサナのことを尋ねてみた。
まあ、ちょっと緊張をほぐすためにね。
「お兄様、手紙にサナのことを書いてきていましたがサナのこと気になるんですか?」
結構直球で聞いてみた。
この兄に回りくどい言い方は通じない。
「サナのことか?あれ俺手紙に書いてたか?うーん、覚えてないなぁ〜。」
おいおい無意識なの?
無意識で手紙って書けるんだ。
「でも、そういえば最近王都に帰って来てから毎日必ずサナのこと考えている時はあるなぁ〜。今日はどんな魔物と戦ってるかなぁ〜とか、俺があげた贈り物は役に立っているかなぁ、だとか。うーん、言われてみればサナのこと気になっているんだな、俺。」
……兄よ、それはもう重症だよ。
早く気づくべきだ、自分の気持ちに。
逆に本当に気づいていないのか疑いたくなるよ。
なんか兄と話していたら良い感じに気が抜けた。
うん、なんか気負わずにレオン様に会えそうだよ。
そしてついにレオン様の部屋に着いた。
兄がドアをノックした。
おお〜、やれば出来るんじゃない兄よ。
いつもノックはしない兄がノックをしている姿に感動する私、……レベルが低すぎる。
中から入って良いとの返事があった。
よし!行くよ!
私は兄に続いて部屋へと入った。
レオン様が「ああ、リカルドか。」と言っている。
さすがに記憶を失ってから時間が過ぎているから頻繁に会う人は覚えたのかな。
兄の後ろにいるせいか私にはまだ気づいていない。
しかも机にはこれでもかというくらい仕事のものと思われる書類やら資料が所狭しと置かれ、今もちらっと兄を確認してからは手元の書類と睨めっこを再開している。
うわ〜、そしてスゴい速さで資料を捲りまくっているよ〜。
あれだ!これはもう記憶なんて良いんじゃないかな?
私が兄にもう部屋を出ようとアイコンタクトを送ったところ、兄は気づいてくれなかった。
「レオン王子、もうそろそろ休憩なさった方がよろしいですよ。きっとまた早朝からこの状態なんでしょう?さっき護衛の者にも確認しましたがお食事もあまり摂られていないとか。いい加減倒れてしまいますよ。」
兄が心配そうにレオン様に話しかける。
確かに前見たときよりも痩せたみたい。
「リカルド心配してくれてありがとう。だがな……こうしていないと不安なんだよ。私が役に立てることは仕事以外なさそうだしな。」
レオン様が困った顔をしながら兄に言った。
その時私は気づいた。
兄や父、王、レイチェル様が記憶を戻してあげたいのはこの状態のレオン様が見ていられないからなのかもしれないと。
今のレオン様は仕事だけが自分の価値だと考え、体調も考えずただがむしゃらに働き続けているようだ。
このままではいつか遠くない未来レオン様は倒れる。
私は、……私が出来ることをしてみよう。
そう決心した私は兄の背から抜け出し兄の前に歩を進めた。




