贈り物
「リリーナ、サナは何が好きなんだ?」
人の部屋にノックもせずに入って来て何を言っているのかな?兄よ。
「お兄様……部屋に入る時はノックしましょうね。で、サナの好みですか?本人に聞いたらよろしいのでは?」
「む。お礼をしたら良いと言ったのはリリーナだろう?それにどうせなら驚かせたいじゃないか。」
驚かせるって。
一体何を用意するつもりなんだか。
まあ、少しくらい協力しようかな。
「そうですね、普通に花は好きですよ。良く庭の花の手入れも手伝っているみたいですし。でもお兄様だってサナと接する機会が結構ありますから、サナが何に興味があるかわかるんじゃありませんか?」
私の言葉に兄は「うーーん。」と唸って考え込んでしまった。
出来れば自分の部屋で悩んでほしい。
何で寝る直前だったのかしら……眠い。
「あーー、うーーん?…………そうだ!!」
「ふぇ!」
ビックリして変な声が出ちゃった。
なんか恥ずかしい。
「リリーナ!俺は決めたぞ!」
「お兄様……声が大きいです。……それで何に決めたんですか。」
「ああ、今は言わん。秘密だ。」
おい兄よ、これだけ迷惑かけといて秘密ってどういうこと?
結局兄は何にするか言わずに部屋を出て行った。
…………という出来事から2日後、その兄は未だ帰って来ない。
アレク様が言うには私と話したあとにすぐにアレク様に話しをしに行ったらしい。
3日ぐらいみんなも回復するまで時間がかかるだろうから3日間は休養にする、そして自分はちょっと出かけてくると。
一応アレク様もどこに行くか聞いたらしいが教えてくれなかったらしい。
どこまで行ったんだか。
ちなみにサナは騎士団の人達のちょっとしたアイドルになっている。
サナが戦っている姿を見た2人が他の団員に話しをして盛り上がっていた。
えーっと何だっけ、確か『サナ様の鞭に打たれ隊』とか変なのが出来てたっけ。
あ、あとアンジュ様の戦いぶりを見た人達は『アンジュ様のロッドに打たれ隊』を作っていたっけ。
なんか凄いね。
ネーミングもアレだけど、打たれ隊って。
あんまりサナやアンジュ様の迷惑になりそうだったらご希望通り打っちゃいなよと2人には伝えている。
ちなみに私についた変な名前は速攻潰した。
そうこうするうちに兄が帰ってきたようだ。
はてさて何を用意したんだか。
兄を出迎えに行ってみれば……何かなこれは?
兄がズタボロになっている。
さすがに致命傷はないようだけど全身傷だらけだ。
それに何やら鎧がススだらけ。
騎士団の人達も「隊長がやられてる!」「隊長がこんなになるなんて……」と大騒ぎ。
一先ず兄の治療が先だと、部屋に連れて行った。
「で、お兄様これは一体どういうことでしょうか?」
私は兄の傷に超濃厚塗り薬を塗りながら問いかけた。
「うん?何がだ。」
「何って……もちろんこの傷ですわ!ついこの間死にかけたのに、致命傷はないとはいえまたこの傷。何をしてらしたのですか!」
「ああ、いやだからサナに贈るものを見つけに行ってた。」
埒があかない。
どうしてくれよう。
「お兄様、ではサナに何を贈るのですか?」
「あー、うん。それはサナに渡してから教える。やっぱり贈る相手に1番に見てほしいしな。」
くっ、兄のくせに珍しく正論を。
でも、しょうがない。待つとしますか。
「でも、リリーナにも感謝はしているからリリーナにもやるよ。ほら、コレ。」
兄がヒョイっと取り出したモノを受け取った。
ん?これは……。
え!もしかして!
「お兄様これって……。」
「ああ、なかなか良いだろう?綺麗にとるのに手間取ってな。お前の剣に使えるんじゃないか?」
「ええ、それはそうでしょうけど。サナにはもしかして……」
「おおっとこれ以上は詮索するなよ。俺言っちゃいそうだし。……よし!手当てありがとな。ところでサナを見かけなかったがどこにいるか知ってるか?」
「はい。サナでしたら今日は縫い物があるとかで部屋にこもってましたわ。きっと誰かさんの為ですね。」
「……誰のだよ。」
兄が不機嫌そうにつぶやいている。
誰が教えてやるもんか。
2人で贈りあってなさい。
コンコン
誰か来たみたい。
「あのリリーナ様、サナです。」
おっと、ナイスタイミング。
「ええ、入って良いわよ。」
サナが「失礼いたします」と入って来た。
兄を見てビックリしている。
「え……リカルド様、何でまたそんなにお怪我をしているのですか!しかもなんか焦げてる……。」
サナはそう言うと兄のところに近づいて行った。
兄は心なしか嬉しそうにしている。
そして腰の袋から何かを取り出した。
「サナ、この間は本当にありがとな。サナが何を喜ぶかいろいろ考えたんだが俺にはこれしか思いつかなかったんだ。だから受け取ってくれ。」
そう言って兄が渡したもの。
それは……『龍型魔物の髭』だ。
正直良くとってこれたな〜と呆れている。
ちなみに私に渡してきたのはウロコ。
「俺、サナが鞭で戦う姿かっこいいって思って、それで思いついたのがコレなんだ。コレを使えば良い鞭が作れるはずだ。」
そりゃそうだよ。
最高級品の鞭に使われる材料だもん。
普通、1人で戦う相手じゃない。
「さすがに倒せなかったけど、髭1本とウロコを何枚か取れた。まさか火まで吹くとは思わなかったぞ。」
兄は笑いながら言っているけど、笑い事じゃない。
良く生きて帰ってこれたな。
ところでサナが何も言わないけどどうしたかな……。
サナの方を見ればサナが……泣いていた。
そして兄がうろたえている。
「な!サナ、そんなにコレ嫌だったか?すまん!素直に花にすれば良かったか……。あー、泣かないでくれ。すぐに違うの用意するから。」
「………です。」
サナが涙声で何か言った。
「うん?どうした?あーーー、ほら涙拭くものっと、リリーナなんかないか?」
兄がオロオロしている。
ちょっと面白い。
「リカルド様……私、私嬉しくて……そしたらなんか泣いちゃって……。」
サナが一生懸命兄に伝えている。
「リカルド様が私の為にこんな凄いものを……それにそんなにお怪我までして。嬉しいけど、リカルド様が傷つくのは嫌です。だから次は………私も連れて行って下さい!」
サナさん……さすがです。
「ああ、今度はあの魔物倒そうな!」
兄とサナは案外というか、結構いいコンビだと思うには私だけだろうか?
ちなみに『サナ様に鞭で打たれ隊』は兄にその存在を知られ速攻潰されたのは言うまでもない。




