兄、現る➄
私とサナ、トーマにアレン君による兄救出作戦が始まった。
とは言っても出来ることといえば魔物を狩りまくることだけだけど。
でも、狩るスピードは上がった。
トーマとアレン君が猛然と魔物へと向かって行く。
魔物も2人の気迫に押されてか少し勢いがなくなってきた。
それよりも凄いのはサナだ。
サナが無言で魔物を狩り始めた。
しかもその進路は最短距離で兄を目指している。
鞭の威力が増しているような気がする。
そしてサナからビミョーに距離をとろうとする魔物が増えているような……。
私達の勢いに負けて逃げて行く魔物も出始めた。
いつもだとその魔物も追って行くのだが今日はこれ幸いに兄へと突き進む。
やっと兄へと近づけた時、目を疑う光景が見えた。
兄が……倒れている。
ウソだ、だって母の鉄拳だって大丈夫だったのに……。
その兄を守るようにアレク様が兄を襲った鳥型の魔物と対峙している。
2人の団員も怪我を負いながらも兄を庇って他の魔物の攻撃を防いでいたようだ。
兄の傷ついた姿を見てサナが叫んだ。
「よくも!よくもリカルド様をーーー!!」
サナが切れた。
兄達を囲んでいた魔物に1人で突っ込んで行ってしまったのだ。
それに気づいたトーマが後を追ってくれた。
私とアレン君は未だ魔物に取り囲まれて兄達のところまでたどり着けない。
もう、いい加減にして!!
私とアレン君は協力して周囲の魔物を倒しまくった。
全ての苛立ちを打ち晴らすように。
そしてやっと兄の元へたどり着いた時…………。
それまで兄を守るように鳥型の魔物と戦っていただろうアレク様も剣を握れないくらい全身傷ついていた。
そして代わりにサナが鳥型と向き合っていた。
トーマは2人の団員の代わりに周りの魔物を一手に引き受けていた。
鳥型がサナへと攻撃を開始した。
兄を傷つけたクチバシでサナを執拗に狙う。
私はとにかく兄の様子を見た。
兄は気を失っているようだ。
傷は……ひどい。
でも、私は密かに調合していた超濃厚薬草塗り薬を持参してきた。
普通の人には毒にもなり兼ねない一品なのだが、兄ならきっと大丈夫。
私は特に傷が深い背中に薬を塗りたくった。
あっ、兄が少し動いた。
なんか唸っている?
あれ?効いてるよね?
『クッエエエーーーー!!』
鳥型の叫び声に驚いて振り向くとサナが鳥型に会心の一撃を入れたところのようだ。
ただ、それでトドメだと良かったのだがどうやら逆鱗に触れたらしい。
鳥型が大暴れし始めた。
私は急いでアレク様と2人の団員に普通に良く効く薬を塗った。
これは領内で良く効くと噂になっている私が薬草から作ったものだ。
「っくぅぅーー!」
サナが鳥型のクチバシに押されている。
「サナ!待ってて今行くわ!」
私が一通り手当てを終えてサナの元に向かおうとした時、鳥型のクチバシがサナをとらえた。
「サナに何をするの!」
私が飛び出して行こうとした瞬間、横から凄い速さで何かが通り過ぎて行った。
確認しようと前を見ると、私は我が目を疑った。
さっきまで重傷で倒れていたはずの兄が鳥型をどつきまくっている!
「おい、鳥……サナに何してんだ?……死んで詫びろよ!!」
兄は剣も使わず自分の拳のみで鳥型の魔物をボッコボコにした。
こわ〜、さすがにあそこまでは……。
兄は鳥型を倒すと呆然としているサナのところへ行った。
「サナ、大丈夫か?……こんなに傷だらけに。ごめんな俺のせいでこんな目に合わせて。」
兄はサナの傷を見てショックを受けているようだ。
「リカルド様……。私は大丈夫です!こんな傷すぐに治りますよ。それよりもリカルド様の方こそ重傷だったのにそんなに動いて大丈夫なんですか?」
サナは心配そうに兄の傷を見ている。
「ああ、確かに痛いがサナがあの鳥にやられているのに気づいたら体が勝手に動いていた。何でだろうな?」
兄は心底不思議そうに首を傾げている。
兄よ、それって……。
うーん?2人の関係に何か変化が起こっているのかな。
でも、2人のことだからお互いに気づかなそうだけど。
そうこうしているうちにトーマとアレン君が周囲の魔物を一掃して戻ってきた。
2人も兄がピンピンしていることにビックリしている。
アレン君はお兄さんであるアレク様が無事だったことをとても喜んでいる。
「リリーナ様、今回は本当にありがとうございました。あなたがすぐに行動を起こしていただけなかったらこの騎士団は壊滅していたことでしょう。」
アレク様と2人の団員が深く頭を下げている。
「リリーナ、すまなかったな。俺の判断ミスだ。こんなに魔物が増えているとは想像していなかった。いや、隊長として問題だな。」
兄は悔やむように自分を責めている。
「私は、私が出来ることをしただけです。それに今回はみんなの協力があったから犠牲者を出さずに済んだんです。お兄様、あまりご自分をお責めにならないで下さい。お兄様がいなければもっと酷いことになっていましたわ。」
私の言葉を聞き兄はちょっとだけ元気が出たようだ。
「あとお兄様。お礼を言うなら私だけではなくサナにもしてくださいね。たまにはお花の1つでもお持ちになれば良いのでは?」
兄は神妙な顔をして頷いている。
……ちゃんとお礼の1つぐらい出来るよね?




