兄、現る③
私達3人は現場まで急いで馬を走らせていた。
いくら騎士団とはいえ慣れない魔物相手では数が多いのはマズイはず。
それに怪我人だって出ているかも……。
確か兄が「うちには良く効く薬がある」って言って騎士団の人達を励ましていたが使えなきゃ意味がない。
私が魔物と対峙している間にサナとアンジュ様に手当てしてもらえばいい。
むさい男に手当てされるより可愛い2人に手当てされた方が治りも早くなるかも?
とにかく誰も被害が出てなきゃいいんだけど。
しばらく馬を走らせていると声が聞こえた。
しかも複数。
サナとアンジュ様もその声に気づいたらしく、その方角を見た。
よし!アレだ。
私達はそちらの方へと向かった。
近づいて行くと……兄やアレク様はいないが騎士団の服を着た人達が魔物と戦っている。
やっぱり普段と勝手が違うからか、なかなか致命傷を与えられないようだ。
騎士団の人達は10人ほど、しかもみんな既に怪我をしているようだ。
対して魔物は狼型が群れでいる。その数12、3匹ってところ。
怪我人があの数は無理だ。たぶん怪我をしていなくても無理かもだけど……。
私は馬を急がせ、一気に近づいた。
魔物が私に気づいた。
でも、遅いよ?
馬から飛び降りそのまま挨拶とばかりに魔物へ先制キック。
魔物は突然の攻撃に驚いたようだ。
ちなみに騎士団の人達も呆然としている。
いいからみんなは逃げてほしい。
まあ、そういうフォローはサナがしてくれるだろうと考え一先ず魔物を倒す!
突然現れた私に仲間を蹴り飛ばされ、敵意は私に向けられている。
よしよし、狙うなら私を狙え。
私は剣を構え、そのまま魔物へと突撃した。
そこからは私の独壇場だった。
私を狙って近づいてくる魔物をとにかく斬った。
相手から来てくれるんだもん、楽だよね。
そうこうしているうちに魔物は残り1匹。
するとそいつが血迷ったのかいきなり騎士団の人達の方へと走り出した。
私以外になら勝てると思ったのかもしれない。
でもね……心配はしていない。
私は手に持っていた剣を鞘にしまいゆっくりと騎士団、いやサナの方を見た。
しかしさすがの私もこの場面は想像していなかった……。
すっかりサナがいつもの鞭でお仕置きしているかと思って見たら、まさかのアンジュ様がその……ロッドで殴っていた。
あのロッドはどこから現れたのかな?
サナ同様スカートの中に忍ばせていたのかな。
あれ?今日はスカートじゃないし……。
そして的確に急所を狙っていたため、1人で倒してしまった。
あら〜〜、騎士団の人達もビックリだね〜。
みんな信じられないのか目をこすったりしている。
さすがサナが認めていただけはある。
他に魔物がいないことを確認して私はみんなの方へと向かった。
私が戻って来たことに気づいたこの班のリーダーらしき人が話しかけてきた。
「あ、あの隊長の妹様ですよね?」
「ええ、皆さん大丈夫ですか?ところで他の方たちはどちらに?」
「あ、あの俺……いえ私達はもう少し先で魔物と戦っていたんですが怪我人が増えた為隊長の指示で一時撤退してきたんです。ところがそこで魔物の群れに襲われて……妹様達が現れてくれなければ全滅していました。本当にありがとうございます!」
そう言うとリーダーらしき人は深く頭を下げた。
それにならい他の団員も皆頭を下げている。
「頭を上げて下さい。とにかく皆さんはここから安全な所へと向かって下さい。」
そして私はアンジュ様へと話しかけた。
「アンジュ様、先ほどの戦い見事でしたわ。是非とも今度一緒に戦いましょう。そしてそんなアンジュ様にお願いがあります。この方達を安全なところまで護衛して下さい。たぶん私達が通って来た道を行けば大丈夫だと思いますが、今の群れのこともあります。私とサナはこのままお兄様達の元へと向かいます。今こんなことを頼めるのはアンジュ様以外におりませんの。」
「……リリーナお姉様が私の戦いぶりを褒めてくれた……そしてお願いことまで……。リリーナお姉様!私、必ず皆さんを安全なところまで送り届けますわ!だから、今度は私も連れてって下さいね!」
「ええ、今度は一緒に戦いましょうね。では、私達は先を急ぎます。アンジュ様よろしくお願いします。」
そう言って私とサナは再び馬に乗り先を急いだ。
兄のことだから大丈夫だと思うけど、他の人を庇いながらではさすがの兄も厳しいかな。
少し馬を走らせると人影が見えてきた。
あれは……アレク様だ。
どうやら戦闘はしていないようだ。
私とサナが馬で近づくとあちらも気づいた。
「リリーナ様!どうしてここへ?」
「アレク様、魔物が大量に出現していると報告があった為伺ったんです。一時撤退していた方達が襲われているところにも出くわしました。もちろん救出致しましたのでご安心を。」
「リリーナ様ありがとうございます。団員を助けてくれて。……今隊長がしんがりを務めて下さって私達もここまで撤退してきたんです。リリーナ様こんなことを頼むのは間違っているとは思いますが……隊長を助けるのを手伝っていただけませんか?今、魔物と対峙して動けるものはほとんどおりません。隊長は大丈夫だと言っていましたがやはり心配です。」
あら、兄ったら隊長らしく体を張って団員を守ってたのね。
サナを見ると今にも飛び出して行きそうになっている。
わかってるよ、兄が心配なんだよね。
なんだかんだ言ってサナは優しい。
よし、兄を助けに行きましょう!




