兄、現る
兄が帰って来るらしい。とは言っても騎士団をクビになったわけではない。
騎士団の訓練の為に来るらしい。
ここは魔物がいくらでもいるから魔物狩りが訓練になる。
なら私もお付き合いしてもいいかな?
何だったら何人か面倒見ても良いけど……。
私の考えていることがわかったのかサナが無言で首を横に振っている。
そうだよね、ダメだよね……。
いいよ、アレン君を連れて行くから。
アレン君には呼び捨てしてほしいと言われたけど何だか恥ずかしいから心の中ではアレン君と呼んでいる。
なんだかんだで兄に会うのは久しぶりだ。
まあ兄のことだから無駄に元気でしょう。
どうやら兄と騎士団のみなさんが到着したようだ。
一応私も挨拶ぐらいはしておきますか。
私は兄達がいる外に行ってみた。
うんうん、みんな訓練にこのまま入るのか武装している。
さて、兄はどこかな?
あ、いたいた。
しかもアレン君のお兄さんの副隊長さんもいる!
これは是非ご挨拶せねば。
「お兄様、お久しぶりです。お変わりないですか?」
「お、リリーナか。ああ、久しぶりだな。お前も元気だったか?」
うん、兄はすこぶる元気そうだ。まあ、心配はしていなかったけど……。
それよりも隣の副隊長さんだよ。
私は、私が出来る最高の笑顔で副隊長さんにご挨拶した。
「こうやってお会いするのは初めてですね、妹のリリーナです。いつもお兄様がお世話になっております。」
「ああ、これは御丁寧に。私は騎士団副隊長のアレクです。こちらこそ弟と妹がお世話になってます。」
そう言うとアレク様は優しい笑顔を見せてくれた。
ああ、なんて良い人が兄の右腕なんでしょう。
その眼鏡も良くお似合いです。
これは是非とも末長く兄の面倒を……こほん、兄の右腕として頑張っていただきたい。
むしろこの方がいたから兄は自由に動き回れるのでしょうね。
「アレン…いえ、アレン様にはいつも助けていただいてますわ。それよりもお兄様のことを支えていただいて本当にありがとうございます。」
私は日頃の苦労を思い深々と頭を下げた。
「リリーナ様お顔をお上げ下さい。私は好きで副隊長をしているんですよ。だから気にしないで下さい、ね。」
アレク様は私の気を和らげるように軽くウインクをしながらそう言ってくれた。
くう〜〜本当に良い人だ。
よし、もしもこんな良い人を困らせるようなことをしたら私が兄に鉄拳をプレゼントしよう!
私は密かにそう心に決めた。
「あ〜〜、リリーナ。何で俺がアレクに迷惑をかけていることが前提なんだ?」
「あら、お兄様。迷惑かけておりませんの?」
「…………まあ、多少は。」
お兄様が自分で自覚があるという事は確実に迷惑かけている。
ごめんなさい!アレク様!
そうこうしているうちにアレン君も外にやって来た。
「兄上ーーー!」
アレン君は嬉しそうにアレク様へと走り寄って来た。
アレク様も久しぶりに会うアレン君に笑顔を見せている。
「久しぶりだなアレン。元気にしていたか?」
「はい!アンジュ共々元気に過ごさせてもらってます。リリーナ様にもとても良くしてもらってますよ。」
「それは良かった。リリーナ様本当にありがとうございます。私の弟と妹を受け入れてくれて。過ごした時間は短いですが大切な家族なんです。ご迷惑をかけることもあるかとは思いますがよろしくお願いします。」
アレク様はアレン君を優しい笑顔で見ている。
本当に大切なんだね。
大丈夫!ちゃんと私が守りますよ。
それよりも……。
「いえ、お兄様の方が確実にご迷惑をかけると思います。実際もうおかけしているかと……。こんなお兄様ですが本当に、本当によろしくお願いします。」
私の言葉を聞きアレク様は吹き出している。
「くくっ、隊長とリリーナ様は仲がよろしいんですね。わかりましたリリーナ様、隊長の面倒は責任を持って私がみますよ。だから安心して下さいね。」
「……面倒って、俺、隊長なんだが……。」
兄がブツブツ言っている。が、無視だ。
だって絶対迷惑かけまくってるもの。
この兄が机に向かって事務作業をしている姿なんて想像できない。
何だか周りにいた隊員さん達も私達のやり取りを見て笑っている。
見世物状態だよ。
それに気づいた兄が隊員さん達に声をかけた。
「よーし、今笑った奴らは魔物1人5匹は狩って来い。大丈夫だ死ぬ気でやれば出来る。それにうちには良く効く薬があるから心配するな。」
兄が笑顔で言い切った。
それを聞いた隊員の皆さんが青くなっている。
そりゃそうだよね、王都にいる人ってまず魔物に遭遇しないし。
何より普通は魔物って1人で狩るのは難しい。
「隊長……さすがに5匹は難しいと思いますよ。」
おお、さすがアレク様!
兄の暴走を止めてくれるのですね?
「まあ、3匹が妥当でしょう。」
あれ?
止めて……ない?
あっ、アレク様がスゴイ笑顔で隊員さん達に言い切った。
そうか、アレク様はいい性格しているのね……。
隣で兄が「やっぱりアレクの方が……」と何だか怯えながら言っている。
さすがだ、あの兄を抑えられるなんて。
私は妙に感心してしまった。