私の宝物
私の名前はクリストファー。
本当はもっと長ったらしい名前だ。
愛称はクリス。
この愛称と顔のせいで昔はよく女性に間違えられた。
愛を告白された回数は正直覚えていない。
全部男からだし……。
その上結婚を申し込んできたバカが2人ほどいた。
そのうちの1人は私の宝物を奪っていった。
私は昔は病弱でベッドで過ごすことが多かった。
いろいろ医者が調べたところ隣国の、ある領地にのみ生える薬草が効くことがわかった。
しかも幸運なことにその領地を治めている人物が親の知り合いだった。
おかげでその領地で療養できる話になったのだ。
療養に行ったばかりの頃はやはりベッドにいる生活だった。
しかし、退屈はしなかった。
何故ならとても可愛い天使のような子がいたからだ。
私は男兄弟だった為、妹というものに憧れにも似た感情を持っていた。
そこへやって来たのがリリーナである。
はじめは兄であるリカルドに連れられて私のところへ来た。
まあ、このリカルドも問題なんだが……。
この兄妹は私のことを女性と勘違いしている節があった。
同年代の同性に対する扱いではなかった、あいつは。
ただ面白いことが好きな私は2人に誤解をさせたままにしておいた。
特にリリーナは私が男だとわかると遊びに来てくれなくなるかもしれないと思ったのだ。
リリーナはいつも楽しそうに私に話しかけてくれた。
ただそのほぼ9割が狩った魔物の話しだったのだが……。
なかなかいないよな、あんな子……。
「クリスさま〜〜!今日はお身体の調子はいかがですか?」
「こんにちは、リリーナ。今日は比較的調子が良いよ。リリーナは何か面白い話をしに来たのかな?」
「はい!実は昨日お兄様と2人で魔物狩りに行ってきたんです。そうしたら今まで見たことのない不思議な魔物が現れたんですよ。」
「へえ〜。どんな魔物だったの?」
ここで危ないから魔物狩りなんてやめなさい、なんて暴言を吐いたら二度とリリーナは私のところに来てくれなくなるだろうなぁと思ったりしていた。
そんな思惑など知らないリリーナは楽しそうに魔物の話しをしてくれる。
「あのですね、大きな星型でしたの。」
「ほし?あの空に浮かぶ星?」
「はい!と言っても黄色ではなくて昨日見たのは赤かったです。それになんだが湿ってました。」
湿っている星型って……ヒトデ?
なんでだろう?ここは近くに海は無いはずだけど。
「リリーナはその魔物を初めて見たんだよね?他にも変わったのはいた?」
「うーん、昨日はそれだけです。だけどお兄様がこの間、空飛ぶ魚を見たって騒いでましたわ。」
空飛ぶ魚ねえ。トビウオとか?
どちらにしろ何で海のないこの地域にそんなモノが出るんだろう。
この疑問が解決したのは数年後だった。
この頃の私のリリーナへの感情は確実に妹に向けるそれだった。
可愛さのあまり正直何度国へリリーナを連れて帰ろうかと考えたかわからない。
しかし昔の自分に言ってやりたい。何故あの時リリーナを連れ帰らなかったんだ!と。
あの時無理にでもリリーナを連れて行けば、あのバカにリリーナを盗られ、あまつさえ婚約破棄なんて馬鹿げた芝居をしてリリーナを困らせることなどなかったのに。
私だったらリリーナのことをドロドロに甘やかして、私しか見えないようにすることだって出来たんだ。
だが、たぶんそれでは私はリリーナのことを妹としか思えなかっただろう。
腹は立つが1度あのバカに盗られたことにより自分の感情を認識出来たんだ。
私もまだまだ甘い。
リリーナがあのバカの婚約者になってからもリリーナの情報は手に入れていた。
情報入手の手段なんていくらでもある。
リリーナはあの厳しい王妃教育を持ち前のガッツで着実にこなしていっていた。
正直このままあのバカの妃になってしまうと思っていた。
だがあいつはよりにもよって婚約破棄なんてものをリリーナに宣言したのだ。
話を聞いた時思わず声を出して笑ってしまった。
せっかく諦めてやろうと思っていたのに、黙っていれば転がり込んでくる幸せを自分の手で壊すなんて……私にしてみれば千載一遇のチャンスだった。
この機会を逃せば二度とリリーナと運命が重なるチャンスはないと思ったのだ。
それからの私の行動は素早かった。
たまたま我が国に来ていた前辺境伯を捕まえて一緒に辺境伯の領地へと向かった。
久しぶりに見たリリーナは……綺麗になっていた。
この過程を見れなかった私はなんて不幸なんだ、と嘆いた。
私を見た時のリリーナはとても面白かった。
もともと大きな目をこれでもかと見開き、驚きを表現していた。
やはり私のことは女だと思っていたらしい。さすがリリーナだ。
さて、やっと宝物が私の元に返ってくるチャンスだ。
だがここで焦って失敗したら今度こそ運命は重ならない。
慎重かつ大胆に事を運ばねば。
とりあえずリリーナを私の嫁にする為に面倒だが一度国に帰る必要がありそうだ。
私の妻の座を狙っているハイエナどもを一掃してからでないと安心してリリーナを迎えられない。
婚約破棄騒動がひと段落したところでリリーナへ国に帰る事を伝えた。
「リリーナ、私は一度自分の国に帰るよ。だけどすぐにまた来るからそれまで誰にもついて行っちゃダメだよ。」
そう言って私はリリーナの手の甲にキスをした。
「え、あ、あのクリス様。」
珍しくリリーナが動揺している。
いい傾向だ。
「はは、リリーナ男には油断しちゃダメだよ。君は魅力的なんだからね。だからむやみに男に近づいたらダメだからね。」
リリーナが赤くなっている。
かわいいなぁ〜、もう連れて帰ってもいいんじゃないだろうか?
だけどこの大切な宝物を傷つけるわけにはいかない。
少しでも傷つける可能性があるものは排除しておかないと。
だからもう暫くの辛抱だ。
もう二度と私の宝物は渡さない。




