(33)
私達はお互いににらみ合いを続けた。
下手に動くと王様達に怪我をさせてしまう。
戦力的にはアレン様もかなりの腕前なので明らかにこちらに分がある。
あーー、さっきレオン様が飛び出さなければ終わっていたのに……。
「さあ、リリーナ嬢そのような物騒な物は手放して王達のところに来なさい。」
「私が武器を手放せばすぐに襲ってくるのでしょう?」
「はは、そんな野蛮なことはしないよ。さあ、そんな慣れないものを振り回すのは危険だ。」
公爵は私が兵士を倒したところは見ていないのかな。
慣れない物って……すごく手に馴染みますけど。
剣を手放しても戦うことも出来る。だけどこの格好で格闘はちょっと……公爵じゃないけど淑女としていかがなものなのかしら?
でも、手段を選んでもいられない。
「リリーナ!俺たちのことはいいからお前は逃げろ!」
空気を読まないことに関しては右に出る者がいないレオン様が叫んでいる。
私はレオン様達を守るって約束したのにここで逃げられるわけないじゃないですか。
それに戦略的撤退をしてもそこでゲームオーバーだ。
もう、レオン様達には会えない可能性が高い。
「レオン王子……大人しくしていてくれませんか?王族としていろいろと問題があると思いますよ。」
呆れたように公爵がレオン様に苦言を呈した。
確かに王族としていろいろダメだけど、だからっていきなり反乱だって乱暴だ。
このままいつまでもにらみ合いをを続けていても、援軍が来るかもわからない。
後悔だけはしたくはないので出来ることは全てやりきろう!
私はアレン様だけに聞こえるように小さくつぶやいた。
『私が仕掛けたらついてきて下さい』
私の声に微かにアレン様がうなずいた。
次の瞬間私は持っていた剣を公爵の方へと投げつけた。
公爵が少し怯んだ瞬間にダッシュで距離を詰め、レオン様を捕らえていた兵士を蹴り飛ばした。
この際スカートのことは考えない。
そのままレイチェル様の近くの兵士の武器も蹴り飛ばし、腕を掴んで背負い投げ。
アレン様も先ほどと同じく手刀で気絶させていた。
さあこれでもう大丈夫かな?
私がそう思い周りを見てみると……何故レオン様は公爵とお互いに剣を構えて対峙しているのかな?
「公爵!貴様だけは許せん!リリーナを傷つけましてや亡き者にしようなどとは!」
「……レオン王子は本当にリリーナ嬢のことしか頭にないのだな。貴方はこの国の王になられる人なのだよ。今もし私に剣を向けるのであればその理由は別のことでなくてはいけないのじゃないのかな?」
公爵は少し悲しそうな顔をした。
レオン様は構わず公爵へと攻撃を開始した。
お互いに実力は拮抗している。
なんか邪魔出来る雰囲気ではない。
若さゆえかレオン様が押し始めた。
公爵は攻撃を受けるので精一杯のようだ。
『カキーーーン!』
公爵の持っていた剣がレオン様に弾き飛ばされた。
レオン様はそのまま剣を持たない公爵へとトドメとばかりに剣を振り落とそうとしている。
まずいこのままでは公爵が……。
『バーーーン!』
その時、謁見の間の扉が勢いよく開いた。
さすがに驚いたのかレオン様の手が止まった。
入って来たのは……父と母?援軍?
驚いている私達を無視して父と母は公爵の方へと向かった。
ドカッ!
「っく!」
公爵が母の鉄拳ではなく、父の鉄拳をくらっている。
殴った本人の父も手が痛いみたいだ。
「このバカが!なんで1人でこんなことをしているんだ!」
父が公爵に向かって叫んだ。
「ふんっ、そんなのわかっているだろう?私はこの国のことを考えて反乱を…」
「ああ、考えて1人で犠牲になってこの国を守ろうとしたんだろう?」
ん?守るって……。
それに犠牲になって?
「何を馬鹿なことを……私は王達を排除しこの国を治めようとしたのだぞ。犠牲などと変なことは言わないでもらおうか。」
「何でお前はそう昔から頭が固くて、1人で突き進もうとするんだ?お前が誰よりもこの国のことを考えていることはわかっている。騎士団の副隊長……お前の息子が教えてくれたよ。」
「……ふう。黙っていろと言ったのにな。」
公爵は糸が切れたようにその場に座り込んだ。
先ほどまでの勢いはもうない。
「本当に貴方は昔から自分を犠牲にするのが好きね?」
いつの間にかレイチェル様が近くに来ていた。
「どうせレオンに好意的ではない貴族のグループの勢いが高まって、それこそ大規模な反乱になりそうなことに気づいて、自分が旗頭になって指揮をとり反乱自体を失敗に終わらせようとしたのでしょう。しかもレオンに王族の自覚も持たせようと小芝居までして。」
公爵はレイチェル様の言葉に顔をしかめた。
「貴方って人は本当に……私も途中から小芝居始めちゃったじゃない。」
これはもしかして……。
公爵は最初から反乱を失敗に終わらせようとしていたの?
だからここには他の反乱軍の貴族はいないのね。
「他の、それこそ本格的に王達を排除しようとしていた連中はお前の目論見通り今頃騎士団に捕まっているぞ。あいつらは以前レオン王子に不正を指摘されて領地を没収されたりした者達だろう?確かにレオン王子のリリーナに対するいろいろは王になる者としてどうかとは思うが、あいつらはただの逆恨みだからなぁ。」
あれ?
でも私は本当に襲われてたけど。
公爵は全てばれてどこかスッキリしたのか、私とアレン様の方へ来て話し出した。
「リリーナ嬢、それからアレンすまなかったな。こんなことに巻き込んで。リリーナ嬢に刺客を送ったのは紛れもなく私だ。ただ……君が負ける姿なんて全く思い浮かばなかった。だいたいリーザの娘が普通のゴロツキにやられるなんてあり得んからな。」
あっ、公爵は私の腕前知っていたんだ。
しかも母のことを知った上で言っている。
「アレン。お前とアンジュには本当にすまないことをした。この反乱後には母親のところに戻す話にはなっていたのだが。」
「あんたって本当に馬鹿だな。こんなことしたら自分はどうなるかなんて考えなくたってわかるだろう?」
アレン様は怒ったような、悲しいような複雑な表情をしている。
こんな事情で自分の父親が犯罪者になるなんて……。
パンッパンッ。
レイチェル様が手を叩いた。
「さあ、これで反乱ゴッコはおしまいよ。この兵士は公爵の私兵なのでしょう?公爵の領地にお帰りなさい。公爵は無罪放免とはさすがに出来ないわ。でも、大規模な反乱を防いでくれた功績もある。ここは昔馴染みの者達で良くお話しましょう。いいわね?」
有無をも言わせないレイチェル様の言葉に一同首を縦にするだけであった。




