(24)
屋敷に戻るとクリス様が出迎えてくれた。
いや、ここ私の家なので……。
すっかり馴染んでいるね、クリス様。
どうやら兄はまだ帰っていないようだ。
きっと野生のカンが働いたんだろう、母の怒りの鉄拳への。
ところで気になっていることがあるのだけど、さすがにクリス様と2人で話すのはまずいよね。
一応まだレオン様の婚約者だし……。一応ね。
兄がいれば一緒にお茶でも飲みながら聞けるんだけどなぁ。
私は気になることはあったが一旦自室に戻ることにした。
自室に戻るとサナがお茶を用意してくれた。
サナのお茶を飲むと気が落ち着く。
その時サナが話しかけてきた。
「リリーナ様。あの、話し合いはいかがでしたか?」
サナはすごく心配そうな顔をしている。
そうだよね、ずっと心配してくれていたもんね。
「そうね……レオン様と話しをしたのだけど相変わらず話しが通じないのよね。それにアンジュ様も一緒にいたわ。いっそアンジュ様と話した方が早いのかもしれないわね。あと、途中からお兄様とクリス様が乱入してきて結局曖昧なまま今日は終わったわ。」
「それは……大変でしたね。しかしレオン王子は一体何を考えているのでしょうね。」
「そうね〜、私が1番聞きたいわ。このまま王様やお父様達に任せてしまった方が簡単なのかもしれないけど、仮にも数年婚約していたんですもの。出来れば最後くらいきちんとお話しがしたいわ。」
「…そうですね。本当に今になってリリーナ様がレオン王子に一生懸命お話ししようとなさるなんて、レオン王子にしてみれば皮肉な結果ですね。」
サナがウンウン頷きながらなんか1人納得している。
私だって昔は仲良くしようと話しかけていたよ。
「そういえばサナ、お兄様が帰ってきたら教えてくれるかしら?お兄様に聞きたいことがあるの。出来ればクリス様にもあるんだけどお兄様と一緒の時じゃないと無理だものね。」
「かしこまりました。リカルド様がお帰りになったらすぐにご報告致します。それからクリス様とお話しされるならリカルド様が帰ってきてからの方がよろしいかと。屋敷内とはいえあまり2人だけというのはよろしくないと思います。」
「やっぱりそうよね。うん、それじゃあお兄様が帰ってきたらお願いね。……っとそうだったわ。たぶんお母様に見つかったらお兄様は……。そうなると話しが出来ないからその場合はお兄様はそっとしておいてあげて。その場合は明日以降機会をみて話すわ。」
私がそう言うとサナは「では、今日は無理そうですね」と言い切った。
うん、そうだね。
母から逃れられるはずはないもの。
ーー数時間後
屋敷内に絶叫が響いた。
………母の教育が始まったらしい。
兄よ、私にはどうすることも出来ない。
出来れば明日話しが出来る状態であることを祈るばかりだ。
結局この日は兄ともクリス様とも話すことなく終わった。
ーー次の日
朝からサナが「リカルド様が部屋に来てほしいと言ってます」と言ってきた。
あら、それは好都合。
さっそく兄の部屋に向かった。
兄の部屋に入ると兄には教育のあとが残っていた。
「お兄様おはようございます。そしてお身体は大丈夫ですか?」
「ああ、リリーナおはよう。身体は……見ての通りだ。なあ、うちの母上は何故現役の騎士団の隊長相手にここまで出来るんだ?絶対おかしい。」
兄は母の強さに疑問を持っているようだ。
いや、おかしいことなどないでしょう。
あの祖父母の娘だよ。私を潰すくらいの勢いで抱き締める人達の1人娘だよ。
「ところでお兄様、私に用事があったのではないですか?」
「おっと、そうだった。リリーナ婚約破棄の話しなんだがやっぱり考え直すことは出来ないか?レオン王子にはお前じゃなきゃ俺は駄目だと思う。」
「お兄様それは……。」
何故兄はここまで婚約破棄をないことにしたいのだろう?
理由がわからないから困る。
ここはせっかくの機会だ、聞いてみよう。
「お兄様、何故そこまで婚約破棄をなかったことにしたいのですか?レオン様はアンジュ様という心から好きになられた方が出来たんですよ。私のような家同士の取り決めで決まった婚約者よりもアンジュ様と一緒になられた方が幸せになれますわ。」
私の言葉に兄は顔をしかめた。
そしていつになく真面目な顔でこう答えた。
「リリーナは……わかっていない。お前はレオン王子のことをちゃんと見てきたのか?確かに家同士で決めた婚約ではあるが今までレオン王子と接してきて何も感じなかったのか?お前が王妃教育を頑張っていたのはわかっている。だけど本当はレオン王子との関係を築くことも大事だったんではないのか?」
一呼吸おいて最後にこう言った。
「リリーナは信じないかもしれないがこれだけははっきり言っておく。レオン王子が好きなのは、いや愛しているのはリリーナお前だ。それは婚約してから今まで変わったことはない。今回の婚約破棄の話を出したことはレオン王子の完全なミスだ。この件に関しては俺もレオン王子に苦言を呈した。ただ本当に信じてほしい。レオン王子の気持ちを」
……レオン様の気持ち?
レオン様が私の事を…好き?
いや、でもだって今までのことは何だったの?
私は兄の言葉に混乱した。
コンコン
その時兄の部屋をノックする音が響いた。