⑲
無事タコもどきを倒しナン村へと帰った私達。
トーマにはクリス様のことをその道中で説明した。
どうやらトーマは昔のクリス様のことを覚えていたようでその変わりようにビックリしていた。
ただ、クリス様が男性ということは知っていたようだ。
もしかして誤解していたのは私達兄妹だけか……。
おかしいなぁ。
どう見ても綺麗な女神様だったんだけど。
森の中で助けた子供も無事村へと着いていた。
魔物が村に来たときに父親が怪我をした為、薬草を探して森の奥へと入ってしまったようだ。
今回の魔物騒ぎはたぶんそれまで森の奥にいた狼型と猿型がタコもどきに追い出されるように村の方へ来てしまったためのものだろう。
でもどうしてあんなところにタコ?
突然変異にしても自然発生するようなものでもないと思うのだが。
まだまだ魔物は謎が多い。
私達は今持っている薬を全て村人に渡し、村を後にした。
屋敷への帰り道、クリス様に気になっていたことを聞いてみた。
「あのクリス様、どうしてこちらへいらっしゃったのですか?」
「ああ、なんか屋敷内が慌しかったから通りかかったリリーナの侍女のサナだったかな?彼女に事情を聞いて私もすぐにリリーナ達を追ったんだ。リリーナが強いのは知っていたけどやっぱり何があるかわからないからね。実際危ない場面にあたったし。」
「そういえばお礼もしていませんでした。クリス様先程は本当にありがとうございました。助かりました。」
「いや、気にしなくていいよ。もともとリリーナの手助けがしたくて来たんだし。でも1つお願いがあるんだけどいいかな?」
「私でできる事ならおっしゃって下さい!」
「うん。別に難しくないよ。私も一緒に王都に行きたいんだ。」
え?
クリス様も王都に来るの?
観光……なわけないよね。
クリス様の国の方が大きいし、栄えている。
「別に構わないと思いますが、クリス様が面白いと思うようなものはないと思いますよ?」
「いやたぶん面白いものが見られる予感がするんだ、私はね。」
そんな話をしながら屋敷にたどり着いた。
母や祖父母が出迎えてくれた。
「お帰りなさい。怪我はしていないようね。村は大丈夫だったかしら?」
「お母様、村は怪我人が数人いましたが大丈夫です。魔物は倒したんですが見たことがない魔物でした。何故か森の中に海の生物であるタコ型の魔物がいました。理由は不明です。」
「そう…。魔物はまだわからないことがたくさんあるから何とも言えないわね。ただ見回りは強化していきましょう。トーマ、他の部隊とも連携して警備にあたってちょうだい。」
「はい!かしこまりました。」
こうして久しぶりの魔物狩りは幕を閉じた。
ーー出発日当日
結局、私と母とクリス様それからサナも連れて王都に出発する事になった。
クリス様がいるから馬車になるのかと思えば、クリス様も時間をかけて馬車を使うより馬が良いという事で各自、馬に乗って出発した。
今回は朝早くに出発し、ちょっと強行軍になるが今日中に王都に着く予定だ。
前回のような襲撃も予想したが今回はなさそうだ。
まあ、来ても良いけどたぶん瞬殺だ。
クリス様の弓も凄いけど、何より母がヤると思う。
私とサナの出番はきっとないだろう…。
なんだかあっという間に王都に着いてしまった。
とりあえず我が家に向かう。
結局すぐに帰ってきてしまった。
屋敷に着くとセバスチャンが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。リーザ様お久しぶりでございます。」
「あら、セバスチャン本当に久しぶりね。リーフはいるかしら?」
「旦那様はまだお帰りになっておりませんが、もうそろそろお戻りになるかと。しかしリカルド様なら…」
ドドドドッ!
バーーーン!
セバスチャンの言葉を遮るように物凄い音がした。
「リリーナーーー!帰ったかーーー!」
ドカッ!
母が無言で兄の頭を殴った。
凄い!あの鍛えている兄を一撃で沈めるなんてさすが母だ。
兄は頭をおさえてうずくまっている。
「くう〜、ってあれ?母上?何でここに?」
「リカルド…あなたは本当に変わらないわね。まず久しぶりに会う母とクリス様に挨拶ではなくて?」
「え…。クリス…さま。ってええーーーー!な、何でここにクリスが…。」
ドカッ!
再度母の鉄拳が兄を沈めた。
懲りないね。
「リカルド久しぶりだね。元気だったかい?」
「くう〜〜、同じ場所を2回も。ってクリス…あ〜〜うん、久しぶりだな。しかし何でここに。」
「理由かい?それはもちろん見学だよ。いろいろ面白そうなことが起きそうだからね。」
クリス様の言葉を聞いて兄は難しい顔をしている。
何だか小さい声でボソボソ言っている。『あー面倒なことになりそうだ…。だいたいクリスが来たらレオン王子が………』
それより兄よ、もうそろそろ母にきちんと挨拶した方が…。
この後、兄が3度目の鉄拳を母からプレゼントされた。




