決着
私の言葉にユーロが固まった。
そしてゆっくりと辺りを見回す。
彼女に見えているのは自身を軽蔑するような視線、または馬鹿にするようなものばかり。
「あ、い、いゃ……」
今までの威勢は何処へやら、観客の視線にユーロは小さな声で否定の言葉をこぼしている。
しかし観客からの責めるような視線に耐えられなくなったのか、それとももうどうでも良くなったのか、先ほどのように私をキツく睨みつけてきた。
「ぜんぶ、全部何もかもあんたのせいよ! 何で、どうしてこの私が勝てないのよ?!」
そんなの、決まってるじゃない。
「それは……ふふ、きっと貴方が弱いからでしょうね」
私は今までユーロに見せていない、それはそれは良い笑顔で答えた。
その顔を見たユーロは、今までよりももっと私を睨みつけてきた、まるでその瞳で呪うかのように。
まあ、でも怖くないけど。
「こ、これは……この試合はユーロ選手の反則が濃厚のようです!従ってこの試合はリリーナ選手の勝利と……」
その言葉が聞こえたと同時にユーロが私の元へと吹っ飛んできた。
どうしても私が許せないらしい。
それは私も一緒だし、どうせならここで引導を渡したい。
ユーローの手には針のようなものが見える、懲りずにもう一度毒を使うようだ。
今後自分がどうなるかなんてどうでも良いのかもしれない。
「お前なんか! 死ねばっ」
ドガッ!! バキッ!
私の愛用の木の棒でユーロの胴を一閃、同時にここまで一緒に戦ってきた木の棒も木っ端微塵になってしまった。
……ふう、まだまだ精進が足りないね。
なんて思いながらユーロを見ると見事に埋まっていた。
やり過ぎたような気がするけど、されたことを考えればイイよね?
また、復活してくる可能性も考えたけどユーロはそのまま動かなくなった。
あたりはシーンと静まり返っている。
……あれ?
もしかして皆さま、引いていらっしゃる?
私は内心焦りながら、でもそれを出さないようにゆっくりと観客席を見た。
その瞬間
「「「ウォーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」
あたりは割れんばかりの歓声で埋め尽くされた。
「おい、あれなんだよ? 木の棒をヒュッてやったらドンッってなって吹っ飛んだぞ!」
「俺、ぜんぜん見えなかった……」
「てか、なんで木の棒で人が埋まるんだ? 」
「お、おれも受けたい……」
いろんな事を言われている……最後の方はちょっとお近付きになりたくないけど。
「あれだ、あれこそが妖精姫だ!!」
「見たか若造! あの方こそ正真正銘の淑女の鑑だ! 」
あ、さっき場外乱闘していた人が騒いでいる。
『淑女の鑑』って……本当にこの国は独自の文化を歩み過ぎじゃないかな?
『こ、これまで!試合はリリーナ選手の完全勝利です!』
司会の声に歓声がまた一段と高まった。
そんな中、あの例の黒子達が埋まっているユーロを掘り出している。
今回は初めから穴を掘るようにスコップまで準備してるし、準備万端だ。
掘り起こされたユーロは憤怒の形相で気を失っている。
そのまま運ばれていったけど、何やら重装備の人達が後を追いかけて行った。
私が会場奥の控えに向かうとすぐにアレン君がやって来た。
「リリーナ様! お身体は大丈夫ですか? さっきあのバカが死の危険性のある毒を使用したと言っていましたが……っく、あーー、本当にあんなヤツ先に始末しておけば……」
何やら後半かなり不穏な発言が聞こえたんですが、あ、アレン君? なんか非常にお顔が怖いですよ?
私はなんとか顔が引きつらないように笑顔を作ってアレン君に話しかけた。
「アレン、私なら大丈夫よ。心配してくれてありがとう。でも、ほら、さっきも普通に木の棒を使えていたでしょう?だから……」
私がアレン君に一生懸命説明していると急に目の前が暗くなった。
そして私の近くでアレン君の震える声が聞こえる。
「本っ当にリリーナ様が……リリーナ様がご無事で良かった。俺、あの時、リリーナ様が倒れた時、絶対心臓止まってました。リリーナ様が毒に耐性があることはわかりましたが、今回は大丈夫だからと言って、また何かで同じように毒を使われた時に無事かどうか保証はないです! もしも、もしもあのままリリーナ様が立ち上がらなかったらと思うと俺は……」
どうやら私はアレン君に抱き締められているようだ。
いつもなら恥ずかしくてどうしたら良いのかわからない状態だが、震えるアレン君の震える声に自然と手が動いていた。
私は震えるアレン君の背中をゆっくりと撫でながら
「アレン、心配かけてすみません。自分なら大丈夫と思い、心配してくれる人の気持ちを忘れてしまっていました。本当にありがとう」
私が何回か撫でるとアレン君の震えはようやく治まった。
しかしその後、一瞬ビクッと震えたアレン君は「アッ!」っと一声発して一瞬にして後方に飛び退いた。
なかなかの跳躍力です。
しかもその一瞬の間に撫でていた私の手も優しく外してだ。
そして目の前が明るくなって見たアレン君の顔は……いや、言わないでおこう、だってたぶん私も一緒だから。