まずは妹
『さあさあ、続きましては…………おお!これは非常に楽しみな対戦です! あの妖精姫のお孫様のリリーナ選手と我が国の独身男性の憧れユメール選手の対戦です。これは見応えがありそうですね』
司会の人が興奮しながら話しているところに私とユメールは出て行った。
私たちの姿が見えた途端会場からは歓声が鳴り響く。
ユメールは私の方を凄い顔で睨んできた。
独身男性の憧れとのことだが、そんな顔して大丈夫なのかな?
……ちなみに、私のそんな心配は大きなお世話のようだ。
「ユメール様ーー! その眼光の鋭さ最高です! 」
「俺もユメール様とどつきあいたいぜ! 」
「そんな弱そうな奴じゃユメール様の実力が発揮できないよ」
ほうほう、本当に独身男性から人気があるようだ。
この国大丈夫?
独身男性のヤジに対して黙っていなかったのはお祖母様世代の方たちだ。
「妖精姫の再来だ!! 」
「あの伝説の舞がまた間近で見られるのか?! 今日まで生きてて良かった! 」
「どこのボウズだ! 妖精姫のお孫様を馬鹿にしておるのは?! こっちに来い、わしが相手じゃ! 」
あれ?
試合が始まる前に場外乱闘が始まっているよ。
どうやらユメールに声援を送っていた独身男性にお祖母様世代の方たちが噛みついたようだ。
普通ならお祖母様世代の方たちを心配するところなんだろうけど……普通ならね。
この国にいると普通って何だっけってなるんだよね。
今も明らかに腰の曲がったお爺さんが屈強な若い男性を片手で投げ飛ばしている。
年齢って関係ないんだね。
『おおっと、注目の試合とあって場外も大いに盛り上がっていますね。皆さんそろそろお待ちかねの試合が始まりますよ! 一旦場外乱闘は中止して下さいね。それではお待たせいたしました。トーナメント第五試合、始め! 』
私は目の前のユメールを見た。
うん、相変わらず恐ろしい表情でこちらを睨んできている。
どれだけ私のことが嫌いなんだか……。
「予選といい、お城でのことといい、ことごとく私の邪魔ばかりして……今度こそ……今度こそ叩き潰してくれますわ! 」
ユメールは鬼の形相でそう言うと、手に持っていた巨大な斧を高く構えた。
本当、貴族のお嬢さんとは思えない怪力だ。
この国の常識を改めて考えさせられる。
対する私の武器といえば……
「ちょっと! あなたふざけているの? そんな、そんな棒でこの私と戦うと言うの?! 」
そうなのです。
私の本日の武器、それは……木刀とは名ばかりのただの木の棒なのである。
うん、さっき道端で拾ったのよ。
なかなか良い感じに手に馴染んでいるのよね。
……ふふ、だって私決めていたもの。
ちゃんと戦ってなんてあげないって。
私は木の棒を持ってユメールの前に無防備に立っている。
「あら、私は本気ですよ。この木刀……いえ、木の棒ね。これであなたと戦います。さあ、もう試合は始まっているんですよ?遠慮せずに向かってきたらいかがですか? 」
私の言葉にユメールはますます顔を赤くして怒っている。
本当に猪突猛進ってやつだね。
ユメールはそのまま大きな声をあげながら私に突撃してくる。
私はその突撃を軽くかわし、その背中に木の棒で一撃をお見舞いしてあげた。
ゴロゴロゴロッ
おおっ、思いの外転がって行ったね。
まあ、ダメージ自体はあまりないようですぐに起き上がった。
「なんなの……あなた本当になんなのよ! そんな貧相な体でこの私を何回も……。もう良いわ。……試合での勝利などいらない。私が欲しいのはあなたの命だけ。そんな木の棒でこの私の武器を防げないでしょう? さあ、覚悟しなさい! 」
ユメールはそう言い放つと同時に、私へ懲りずに突撃してきた。
本当、いつも突っ込んでくるね。
この攻撃を避けることははっきり言って簡単だ。
だけどそれじゃあ、この人の心は砕けない。
なら……やることは一つだね。
ユメールは斧を大きく振りかぶって私目がけて振り落とそうとしてきた。
観客席からは悲鳴も聞こえる。
ふむ、私が殺されるとでも思っているのかな?
でもそう簡単に殺されたりしないよ。
私は木の棒でその斧を受け止めた。
「え? 」
「「「へ? 」」」
ユメールと観客の皆さんから似たような声が聞こえた。
木の棒だって持つ人によってはこんなことも出来るのですよ。
私は未だ驚きの表情を浮かべているユメールの斧をそのまま弾き飛ばし、そしてそのまま木の棒でユメールの体も突き飛ばした。
ユメールは転がりながら場外へ。
先程とは違い起き上がって来ることはなかった。
うん、大丈夫、派手に吹き飛んだけど生きているはず。
『しょ、勝者、リリーナ選手!! これは圧倒的な強さ! あっという間の出来事に私も、観客の皆さんも驚いております』
司会者の勝利宣言に会場からは歓声が上がった。
「す、すっげーー! 」
「おい、あの武器なんだ? ただの木の棒にしか見えないぞ? 」
「なんであんな体でユメール様を? 」
「おお〜〜! これぞ妖精姫じゃ! 新妖精姫の誕生じゃ 」
「おい、覚えておけ。あれが、いやあの方が妖精姫だぞ。若いもんは知らないだろうが、妖精姫は別名龍使いとも呼ばれているんじゃ。妖精姫には龍神がついておるからな。怒らせたら…………やばい、昔の話なのに震えが止まらん 」
みんな好き勝手言っているけど、特に最後の人、凄くその昔の話が気になるんですけど?