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第一試合

 今、試合会場は音がしない。

 さっきまでの歓声やヤジも全く聞こえない、静寂に包まれている。

 観客の顔は九割が口を開けっ放しだ、ついでに目もこれでもかと言うほど開かれている。


 アレン君の対戦相手のザックさんは…………うん、アレは完全に意識がないよね?

 ザックさんは現在、試合の行われている場所の地面にめり込んでいる。

 何でかと言いますと……いや、言わなくたってわかるよね。

 そう、アレン君がやっちゃってくれました!


 簡単にまとめると


 ① 開始直後アレン君のボディブローが一般の方には見えないスピードできまる


 ② 間髪入れずにアッパー


 ③ 打ち上げたところで地面に叩き落とす


 結果、今の状態が生まれる。

 正直オーバーキルというやつでは?

 いや、死んではいないけど。

 今もピクピク動いているし、でも早く治療はした方が良いんじゃないかな。

 私がザックさんを心配していると、ようやく復活した司会の方が大きな声で宣言した。


『こ、これは! 勝者アレン選手!! 何という番狂わせ……ノーマークだったアレン選手がザック選手を電光石火の早業で見事倒しました! 』


 アレン君の勝利宣言がされると、いつもの黒装束の方々が急いでザックさんを回収しに来た。

 でもいつものようにすぐ回収出来ていない。

 何故なら……めり込んでいるから。

 見かねたアレン君がザックさんを掘り起こしている。

 掘り起こされたザックさんは急いで運ばれて行った……うん、大丈夫、生きてた。


 会場はさっきまでの静寂が嘘のように歓声が響いている。

 そりゃそうだろうね、この国の人にしてみればアレン君のような体型の人に負けるなんて思ってもいなかったんだろうし。

 会場からはアレン君を褒め称える声やブーイングも聞こえる。

 その中には『妖精王子』などという明らかに恥ずかしい呼び名も……。

 こちらへ戻って来ようとするアレン君の耳にもその言葉は聞こえたようで、無言で声が聞こえた方に殺気を放っている。

 おお〜い、さすがに関係ない人にもばらまくのは如何なものかな?

 アレン君が殺気を放った方向に急に人がいなくなった。



「アレン、お疲れ様。流石だわ」


 私の言葉にアレン君は少し照れながら


「いえ、今回の相手は俺のことを舐めてきていたのでやりやすかっただけですよ。それに……トーナメント参加者の中ではあまり強くない人のようでしたし」


 アレン君ったら謙遜して〜〜。

 アレン君のボディブローは素敵だったよ?

 やっぱり素手ならアレン君が群を抜いているよね。


「アレンの技はカッコ良かったですよ。この調子で頑張っていきましょうね」


 私とアレン君が話していると、リュート様が近づいて来て私達だけに聞こえるように小声で話しかけてきた。


『リリーナ様、アレン殿、例の者たちがまた良からぬことを考えているようです。十分お気をつけ下さい。さっき私がいることに気づかず迂闊にも話しておりました。特にリリーナ様にはアンジュ嬢に使用した薬を使ってくる可能性が非常に高いです。本来であればこの場で斬り伏せたいのですが……』


 リュート様はそう言うと腰の剣に手を当てた。

 私はリュート様の手をそっとその剣から外し、リュート様にこう言った。


『リュート様、ご心配下さりありがとうございます。でも私はこの試合で決着をつけたいんです。大丈夫ですよ、私はこれでもあのお祖父様とお祖母様の孫ですからね。あんな卑怯な手を使ってくる相手には負ける気がしません。私は強いですよ? 』


 私の言葉にリュート様は…………ってアレ?

 何でそこでちょっと顔を赤らめながら、ボーッと私を見つめてくるのかしら?

 隣のアレン君は、『あっちゃ〜やっちゃったよ』みたいな顔をしているし。



「ふ、ふふ、流石は妖精姫のお孫様だ。いや、もはや妖精姫ご本人と言っても過言ではないですね? その言葉とその眼差し、この大会で幾人の者を虜にしてしまうのでしょうか。願わくば私だけの妖精姫になってほしいものですね」


 リュート様は小声ではなく普通に大きな声で話している。

 あの、少々……いや、かなり恥ずかしいセリフがありませんでしたか?


「リリーナ様はご自身の言動が他人にどう作用するかもっと知った方が良いと思いますよ? このままでは際限なくリリーナ様のファンが増えますからね」


 いやいや、アレン君ってばヨイショし過ぎだよ〜〜。

 なんてやっているうちに試合は進んでいた。

 気がつけば次が私の試合。

 選手入場口には対戦相手であるあの子が既に待っていた。


 私がいることに気がついたようで無言でこちらを睨んでくる。

 相変わらず見事な体格だ。

 でも、今日は私も遊んではいられない。

 悪いけど姉の方と対戦する前のウォーミングアップがわりになってもらおう。


「リリーナ様……えーっと、殺したら負けですよ? 」


 アレン君ってば応援じゃなくてルールの念押しかい?


「ふふ。分かっていますよ……妹の方はそんなに時間はかかりませんよ。ちゃんと生存させます」


 私の言葉にアレン君がちょっと引きつっているけど、変なことは言っていないはず。

 リュート様は笑顔で頷いてくれているしね。

 よし! いっちょ頑張りますか。


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