⑮
久しぶりのお祖父様達との晩餐。
話題は何故か私の婚約破棄の話。
もっと面白い話をしようよ。
「ふむ、それでレオン王子は新しい婚約者を連れてリリーナに婚約破棄を宣言したのか。」
とお祖父様。
「あらあら、自分で望んでおいてそれを自ら破棄するなんて……おバカさんね。」
とお祖母様。
「レオン王子には感謝だね。」
とクリス様。
ってクリス様感謝って。
あれ?
ところでクリス様の前で普通に婚約破棄の話してるけどいいのかな?
それにクリス様ってどこの国の人なのかな。
お祖父様達と来たってことは西の国の人?
「今はリーフに頼んで王子の動向を探ってもらっているわ。」
「そうか、ならもうそろそろ調査結果が来る頃だろう。」
モグモグ。
私の話題なんだけど特に話すこともない。
なので料理長渾身の出来のローストビーフを食べ続けている。
モグモグ。
ふ〜、美味しい。
ん、なんか視線を感じる。
ゆっくり視線の先を見ればクリス様がニコニコしながらこちらを見ている。
な、何ですか?
私が視線に気づいたのが分かったクリス様は。
「リリーナが一生懸命食事をする仕草はとてもカワイイね。剣を振るう姿とは違った魅力だよね。レオン王子ももったいないね。あ〜もしかしたらレオン王子はリリーナのこんな姿を知らないのかな。」
ググッ。
危なく喉に物が詰まりそうだったよ。
何ですかカワイイって!
恥ずかしいセリフをこんなところで言うなんて……何者ですか?
私達のそんなやり取りをお祖父様や母は生暖かい目で見ていた。
ちょっと!
そんな目で見ないでよ!
何なの一体。
なんか今までに感じたことのない恥ずかしさだ。
ここは一旦話題を変えるしかあるまい。
そうだ、気になっていたし丁度良い。
「と、ところで私クリス様がどこの国の方か知らないんですが教えていただけますか?」
私の言葉を聞いてみんな顔を見合わせている。
そんなにおかしいこと言ったかな?
さっきまでの雰囲気の方がおかしかったよ。
するとお祖父様が。
「そうか、リリーナは彼が誰か知らなかったのか。」
「そうだねリリーナが知っていたのは私の名前だけだったもんね。なんせ今日会うまで私のことを女性だと思っていたようだから。」
とクリス様がニコニコしながら言った。
ひえ〜〜、バレてた!
その言葉をうけてみんな笑っている。
ええ、私が悪うございましたよ。
だってどう見ても女神にしか見えなかったもん。
私がいじけていると。
「はは、いじめ過ぎると嫌われるからこの辺で答えようか。私はね西の国の第3王子、名前はクリストファー。クリスは愛称だよ。リリーナはこれからもクリスって呼んでね。私の上2人の兄上達は優秀でね、私は気ままに過ごさせてもらっているよ。今回は丁度リリーナのお祖父様達が西の国に滞在していてね、帰国するっていう話に便乗させてもらってついてきたんだ。」
うすうす気づいてはいたがやっぱり高貴な方だったか。
その割にはフットワーク軽いね。
いいのかな、第3王子が勝手に国を出てきて。
まあ、一応許可ぐらいはとっているよね…。
でも西の国ってうちの国よりかなり大きいのよね。
何でそんな国の第3王子がこんなところに来ちゃったのかしら?
「まあ、手短に言うと西の国の王とわしが知り合いでな。その関係もあって昔うちの領地で療養してたんだ。うちのあの薬草は特殊でなここにしか生えんのだ。」
昔のことは分かった。
じゃあ何で今回またお祖父様達についてやってきたの?
見るからに健康体だけど……。
ついでに聞いておくか。
「今はとてもお元気そうに見えますが、何故今回お祖父様達と一緒にいらしたんですか?」
直球を放ってみた。
「あ〜それは、宝物を探しに来たんだよ。」
変化球が返ってきた。
宝物なんてあったか?我が領地。
魔物ならわんさかいるけど……。
クリス様の返事を聞いてお祖母様と母はニヤニヤしている。
何、その顔。
お祖父様といえば。
「おう、そうだな宝物だな」
なんて言ってる。
もう、訳が分からんよ。
いいよ、いいよ。みんなで盛り上がってくれよ。
私は再び料理長の料理で気を紛らせ始めた。
うんうん、料理長今日のデザートも絶品だよ。
甘過ぎないガトーショコラは私の機嫌を即座に直してくれた。
そしてその姿をまたニコニコしながらクリス様が見ていたが……私は華麗にスルーした。