大会⑦
対戦相手も決まったことだし大叔父様の家に帰ろう。
周囲は未だ熱が冷めないようで帰ろうとする人は少ない。
私たちはその隙間を縫うように…………と思ったけど、お祖父様のいつものワザで空いた道を、足早に帰路に着いた。
屋敷に戻ると、大叔父様の使用人たちがトーナメント参加決定祝いの準備をしていた。
それを見たアンジュさんの表情が少しだけ曇った。
だけどすぐに笑顔になり嬉しそうにアレン君にじゃれついている。
……本当は悔しいはずなのにそれを我慢して笑顔でいるのは辛いよね。
でも、アンジュさんが頑張ってそういう風にしているなら私もそれに倣おう。
お祖父様とお祖母様もたぶん気づいている。
アンジュさんを見る目が優しいもの。
と、ここでふと思い出したけど、サスケさんの姿が見当たらない。
あれ? いつからいないっけ?
サスケさんは結構一人で行動することが多いけど根が真面目なのか行き先は言っていくことが多い。
私はじゃれついているアレン君とアンジュさんに聞いてみた。
「アレン、アンジュさん。サスケさんの姿をしばらく見ていないような気がするのだけど、二人は行方を知っているかしら? 」
私の質問に二人は顔を見合わせ、首を傾げている。
「申し訳ありません。俺もアンジュもサスケの行方は知らないです」
二人は申し訳なさそうにそう答えた。
ふむ、二人も知らないとなるとお祖父様あたりに言ってどこかに出かけたのかな?
「祝いの準備にはもう少し時間がかかるからみんな部屋で休んでいて下さい」
大叔父様がそう言ってくれたので私たちは準備が整うまで部屋で休ませてもらうことにした。
私はともかく、倒れたアンジュさんには休息が必要だ。
たぶん本人は大丈夫と言うだろうけど。
各自用意された部屋へと戻った。
そしてここに来てようやく自分の今の姿を認識する羽目に……。
う、うう、そうだった。
アンジュさんのこともあり頭に血が上っていたため忘れていた私のこの姿。
アレン君やリュート様の前でこの姿を晒していたのだ。
な、何故誰も言ってくれなかったのだ!
鏡に映る私は北の国以外であればただの痴女……ここが北の国だから大丈夫なんて言葉は気休めだ。
とにかく一刻も早くこの姿から解き放たれなければ。
私が鏡の前でワタワタしているとドアがノックされた。
どうやらこの屋敷の侍女さんたちのようだ。
着替えを用意してくれていたようで、着替えるように促された。
ふう、これでやっとこの危険な物体から離れられる。
…………あ、忘れてた。
この国、基本のドレスがアレだった。
用意してくれた着替えは大会のモノより幾分マシ、この国以外では捕まってしまいそうなモノでした。
何故か私の持ち込んだ衣装は見つからず、泣く泣くこの衣装に着替えるはめに。
これはアレだね、お祖母様の仕業だね。
だって、このドレスを着るのを躊躇っていると侍女さんたちに『リーフィア様よりお預かりして参りました。着替えが終わったらよく見せてね、とのことです』と良い笑顔で言われ、あれよあれよとお着替えが済んでしまいましたからね。
この国にいる間はこれが普通と諦めるしかないらしい。
疲れているであろうアンジュさんにはこの魔の手が伸びていないことを祈るばかりだ。
着替えが済み、お茶を飲んで一息ついていると部屋のドアがノックされた。
「リリーナ、私だ」
声の主はお祖父様だった。
私はドアを開けてお祖父様を迎えた……のだが、はて? 何故、お祖父様はサスケさんを引きずっているのでしょうか?
お祖父様はサスケさんを引きずったまま部屋の中に入って来た。
よく見るとお祖母様も一緒。
私は何がどうなっているのかわからないまま、とりあえず静かにドアを閉めてみた。
「あの、何故サスケさんはお祖父様に引きずられているのでしょうか? 」
この質問は外せない。
むしろなんでそんなに何事もないように振る舞えるのか、そっちの方が謎だ。
サスケさんはここ最近では珍しく、シノビ特有の真っ黒衣装を身に纏っている。
顔も隠しているため表情はわからないが、なんとなく機嫌が悪いような気がする。
まあ、ずっとお祖父様に引きずられていれば普通は機嫌が悪くなるか。
「ああ、コレか。こうしていないとすぐに抜け出そうとするからな」
…………いや、それって答えなのかな?
抜け出すって、シノビの衣装を着ているってことは何かしようとしていたんだろうけど。
私が首を傾げているとお祖母様が助け舟を出してくれた。
「もう、それではリリーナにはわからないでしょう? あのね、サスケはある屋敷に忍び込もうとしていたのよ。それに気づいたこの人が速攻で捕まえたの」
ある屋敷に忍び込もうとしていた?
サスケさんは他国で何をしているのかな。
「補足すれば、サスケはすでにその屋敷に忍び込んでいたぞ。それを引っ張って帰ってきたんだ」
すでに忍び込んだ後でしたか。
それを引っ張ってくるって……お祖父様さすがです。