大会⑥
試合会場をあとにした私はすぐにアンジュさんの元に向かった。
目を覚ましてくれていれば良いけど……。
私がアンジュさんの元にあと少しでたどり着くと思った時、私の目の前に誰かが立ち塞がった。
「あなたが妹が言っていた子ね。……ふーん、本当にこんな子に負けたの? さっきのあなたのお友達もたいしたことなかったし、ユメールはきっと油断していたのね。いいこと、私たちはこの国の貴族の女性の中でも最も尊ばれる存在なの。そんな選ばれた私たちがこんな貧相な子に負けたなんてデマが流れたら大変よ。だから……あなたにはトーナメントでコテンパに負けてもらうわ」
今、私の前でわけがわからないことを言っちゃっているのは、アンジュさんを卑怯な手で負かしたにっくきアイツ。
もう大会とかどうでもいいからここでヤッてもいいかな?
私が何も言わないのを自分の良いように捉えたらしいこの人は、上機嫌でこう続けた。
「ふふ、今になって恐ろしくなってきたのかしら? それはそうよね〜、私たちは選ばれた存在なのだから。でも……もう遅いわ。トーナメントで私に当たらないうちに負けた方が良いわよ? 」
言いたいことを言い、高笑いをしながらユーロはいなくなった。
……ふーん、選ばれた存在ね〜〜。
なら、私はその存在を完膚なきまで叩き潰そう。
だいたいあんな性格がひん曲がった人が尊きとかこの国大丈夫なの?
あんなのに時間をとられるなんて……さあ、早くアンジュさんのところに行こうっと。
私がみんなのところに戻ってみるとアンジュさんが起き上がっていた。
良かった、うちの領地の薬は信用していたけどやっぱり心配だったからね。
「リリーナお姉様……」
アンジュさんはそう言うとその目に涙を浮かべ、フラつきながらこちらに来た。
そして私の前に来ると勢いよく頭を下げたのだ。
「アンジュさんどうしたの? まだ体調も良くなっていないのでしょう。さあ、頭を上げて? 」
「……ごめんなさい。わ、私、リリーナお姉様を守るって言っていたのに……。こんな簡単に負けてしまうなんて……。しかも変な薬に負けるなんて……。本当に……本当にすみません! 」
そう言ったままアンジュさんは頭を上げてくれない。
下を見ると地面にシミが……アンジュさんの涙がしみ込んでいる。
私はそんなアンジュさんのことを優しく抱きしめた。
「り、リリーナお姉様? 」
「アンジュさん。あなたは悪くないわ。悪いのはあんな卑怯な手を使ってきたあの人よ。だからそんなに自分を責めないでちょうだい。そんな姿が見たいわけじゃないの、私は元気なアンジュさんが見たかったのよ? それに大丈夫……私が必ずアンジュさんの仇をとるわ。だから……泣かないで」
私はそう言うとアンジュさんの涙を拭いた。
普段明るいアンジュさんをこんな風にするなんて……どうしてくれよう。
「う、うう、リリーナお姉様がカッコ良すぎます〜〜」
アンジュさんがそう言っていつものように抱きついてきた。
うん、いつもの調子に戻ったかな?
でも、いつもよりその力は弱い。
明らかに薬の影響だ。
私は今一度、ユーロを叩きのめすことを心に誓った。
「このあとはどのように進むんでしょうか? 」
アレン君がリュート様に質問している。
「そうですね、トーナメントの対戦相手の発表をして今日は解散のはずですよ」
トーナメント……出来ればユーロとユメールは私が戦いたい。
特に姉のユーロは、絶対直接ヤりたい。
「リリーナお姉様……少し恐い顔をされていましたが何かありましたか? 」
アンジュさんが不安そうに問いかけてくる。
ごめんね、アンジュさんを不安にさせるつもりはこれっぽっちもないんだよ。
「いえ、ちょっと気を引き締めていこうと思って……。大丈夫よ、そんな不安そうな顔をしないで」
私はアンジュさんを安心させるため出来るだけ笑顔でそう答えた。
「そろそろ組み合わせが発表されるようだぞ」
お祖父様がそう言うのと同時に大会司会者の声が響いた。
『お待たせいたしました! これから、今大会の予選を突破された方によるトーナメントの対戦組み合わせを発表致します』
ウオォーーーーーーーーー!!
会場中から叫び声のような歓声が聞こえる。
本当に戦いが好きなんだね。
『では、さっそく発表したいと思います! まず記念すべき第一試合は……アレン選手対ザック選手!』
お、さっそくアレン君が呼ばれた。
「第一試合ですね。どうやら俺はこの国でかなり侮られているようですから、第一試合でこの国の人たちに俺の力を見てもらおうと思います。それに……アンジュに汚い手を使った奴に当たるまで負けるつもりはありませんから」
アレン君もアンジュさんのために勝とうとしている。
そうだよね、お姉さんが実力ではなく薬で負けたのは許せないよね。
『第六試合、リリーナ選手対ユメール選手! 』
来た!
ふふ、ふふふ、直接対決だなんて最高だね。
トーナメントは武器の使用が認められている。
私の武器はもちろん剣だけど……マトモになんて戦ってあげない。
別に卑怯な手なんて使わないけど、あんな人たちに私の愛用の剣は使いたくない。
試合が楽しみだよ。
「り、リリーナお姉様が凄い殺気を出しながら笑ってる? 」
「リリーナ様……うわ〜〜、対戦相手生き残れるのか? 」
私の隣でアンジュさんとアレン君がコソコソ何か言っている。
ダイジョウブダヨ、手加減……まあ、多少は出来るはず?




