大会➂
さあ、次はどの色の予選かな。
戦いたい気もあるけど、この衣装の憂鬱さっていったらない。
たぶんアンジュさんも同じ気持ちのはず、この恥ずかしい衣装を身に付けてから私とアンジュさんの気持ちはいつもシンクロしている……と信じたい。
あっ、大会の進行役の人が何か言っている。
『はい、それでは興奮冷めやらない中、次の色の予選へと進みたいと思います! 次は赤い紐をお持ちの皆さんの出番です。赤い紐をお持ちの皆さんはこちらにお越し下さい! 』
次は赤でしたか。
じゃあ、リュート様の出番だね。
「赤の予選のようですね。では、行って参ります。」
リュート様は変な緊張もないようでスタスタと会場へと歩いて行こうとしている。
あ、一応声援を送らないとね。
アレン君の時もそうやって送り出したし。
「リュート様! きっと応援などなくても大丈夫でしょうが……頑張って下さいね! 」
あ、リュート様が凄い勢いでこちらを見た。
そして、人ってあんなに首が速く動くんだ〜と感心してしまうほど高速で何度も頷いている。
心なしかその足取りは軽いようだ。
うんうん、やっぱり応援は大事だよね。
そんなやり取りをしている私の隣ではアンジュさんとアレン君が何やらボソボソお話中だ。
『リリーナお姉様ったら、相変わらずの無意識ですわ。』
『はあ〜〜、あーやってまた一人増えるんだよな。』
二人とも、私を見ながらため息を吐くのはちょっと失礼なのでは?
だけど二人の他にお祖父様とお祖母様、ついでにサスケさんまで似たような表情……一体何があった?
『さあ! それでは予選を開始しましょう。……………始め!! 』
あっという間に赤の予選が始まったようだ。
先ほどの青の予選と同じように、倒れた選手は黒い衣装の人たちに運ばれて行く。
さて、リュート様は何処かな?
アレン君よりも大きいリュート様はあっさりと見つかった。
ただ、リュート様が大きくても参加者の中にはそれ以上に大柄な人たちが沢山いる。
リュート様は基本自分に寄って来た人を相手にしているようだ。
対戦相手は自分よりも体格が劣る相手を選ぶようで、リュート様の元へはひっきりなしで人が突っ込んでいく。
まあ、結果返り討ちなんだけどね。
人数もだいぶ減ってきたようで、気付けば残り二十人ほど。
今までリュート様を格下に見ていたようで一対一での戦いが多かったが、ようやくその実力がわかったようで、五人ぐらいがまとまってリュート様へと飛びかかった。
リュート様はもちろんそんな相手には怯まず、五人まとめて放り投げている。
はあ〜〜、さすがですね〜。
あの力には私も敵わないと思う…………でも、簡単に負ける気もないけど。
お、どうやら決着がついたみたいだ。
リュート様の他に三人が立っている。
中には女性も含まれていた。
…………やっぱり、スバラシイ衣装をお召しになっている。
何アレ、動いたらイロイロ見えちゃう。
ただ、その女性は男性よりも鍛えられているように見える。
あの腕の筋肉、魔物でも素手でいけそうな気が。
予選を終えたリュート様がこちらにやって来た。
「おめでとうございます! リュート様は凄い力ですね。」
私の言葉に顔を綻ばせながらリュート様が
「ありがとうございます。あの……リリーナ様の応援の力があったからですよ。」
なんて言ってくれた。
クマさん改め、大型犬のような風貌でそんなこと言われたら何やら嬉しくなってしまう。
『さあさあ、次の予選を始めますよ! 次は黄色の紐を持った方々です。黄色の紐を持っている方はこちらにお集まり下さい! 』
おお、ドンドン行くね。
黄色だからアンジュさんだ。
正直、アンジュさんをあの中に放り込むのはかなり心配ではある。
別に実力を疑っているわけではないんだけど、ただ……あんなむさ苦しいところにアンジュさんがいることが違和感でしかない。
「リリーナお姉様、私頑張って来ますね。」
「ええ、くれぐれも気をつけてね。アンジュさんの実力はわかっていますが、心配なんで……」
私の言葉が終わる前に、アンジュさんが飛びついて来た。
「ああ! そんなに心配してもらってアンジュは幸せですわ! ふふ、リリーナお姉様、私頑張ってここでもリリーナお姉様の良さを広めますからね! 」
アンジュさんはそう言うと会場へと駆けて行った。
……今何とおっしゃいましたか?
確か私の良さを広めるとか何とか。
ま、まさか! あの変な掛け声再びですか!?
私はさっきとは別の心配をすることになったようだ。
ど、どうしよう、予選が終わった時にアンジュさんが大柄な人たちを従えていたら。
速やかに解散させなければ!
これは次の試合アンジュさんから一時も目を離せない。
…………既に見失っているけどね。
ああ! 何処にいるのアンジュさん!