閑話 ???の夢
ーーあ〜、またこの夢か……。
最悪で最高の夢……。
ガタゴト、ガタゴト。
馬車が王都を目指して走っている。
俺と姉さんと母さんの3人で乗合馬車に乗っている。
ある辺境伯が治める領地から王都へと向かう俺たち。
最近魔物の動きが活発になってきている領地から王都へと向かおうとしていた。
乗合馬車には護衛が2人乗り込んでいた。
最近活発になってきた魔物に対する対策のようだ。
もう何回も見ている夢……。
俺はこの後何が起こるか知っている。
だけど夢の中の俺はどうすることもできない。
「さあ、もうすぐ魔物の出る地域を抜けるわ。」
と母さんが言う。
俺と姉さんは嬉しそうに頷く。
その時だ。
馬車が突然止まった。
俺と姉さんは母さんに抱きついた。
馬車内の人達もみんな戸惑っている。
護衛の2人が外へと出て行った。
するとすぐに大声で叫んだ。
「魔物の襲撃だ!!」
馬車内は騒然となった。
母さんは俺と姉さんを抱きしめて「大丈夫よ」と何度も言った。
外からは戦っている音が聞こえる。
中にいる人で外に出て行こうとする人が出てきた。
大人の男の人達の何人かが手に護身用のナイフや剣を持ち出て行った。
そうこうするうちに1匹の魔物が馬車内に入ってきた。
慌てて俺たちは外へと飛び出した。
外では護衛の2人や大人が戦っていた。
しかし、どうやら押され気味らしい。
すると馬車内に入り込んでいた魔物が外に飛び出し近くにいた俺たちに狙いを定めた。
俺は襲われる恐怖に目をキツく閉じた。
「うっ!!」
俺をかばうように抱きしめてくれた母さんが苦しそうな声を出した。
「か、母さん!」
「お母さん!」
俺と姉さんが慌てて母さんに声をかける。
母さんの背中は鋭い爪で傷つけられ血が流れ出ている。
魔物はなおこちらへ襲いかかろうと窺い見ている。
再度魔物が母さんに襲いかかろうとした。
俺は震える体を無理やり動かし母さんをかばい目を閉じた。
ーー?
いつまでも来ない衝撃に疑問を感じ目を開けると、そこには1人の少女が立っていた。
その子は不釣り合いな剣を持ち魔物の攻撃を全て防いでいた。
周りを見渡せば他にも今までいなかった人達が戦っている。
また少女に視線を戻せばその子は舞うように魔物と戦っていた。
その姿はこの場にはそぐわないとても綺麗なものだった。
ただ少女の剣は的確に魔物の急所を狙っているようで、反撃も受けずに次々と倒している。
そしてあっという間に魔物は全滅した。
少女がこちらにやって来た。
「助けに来るのが遅くなってごめんなさい。こちらの方はあなた達のお母様ですか?さあ、早くこの薬を使って下さい。とても効くのでお母様は大丈夫ですよ。」
少女はそう言うと俺に薬を渡してきた。
そしてすぐに他の怪我人のところにも行き薬を配っている。
少女達に助けられ俺たちは奇跡的に全員無事だった。
母さんの背中の傷も思ってたよりも浅く、もらった薬を塗ったら痛みがひいてきたようだ。
少女は全員の無事を確認するとみんなを馬車に誘導した。
馬車にも大きな故障はなく出発出来るようだ。
俺たちは少女達に何度もお礼を言った。
少女は「気にしなくてもいいですよ。」と恥ずかしそうにしている。
すると離れた場所から声がした。
「おーーーい、リリーナ!もうそろそろ行くぞーーー!」
その声に反応した少女は一礼をしてその場を離れて行った。
少女が去った馬車内では先程の少女の話題で大盛り上がりだった。
話によればあの少女は辺境伯の娘で名前はリリーナ様。
領内の治安維持の為に自ら先頭に立ち魔物狩りをしているようだ。
俺とそんなに変わらない歳なのに。
俺はさっきのリリーナ様の戦う姿が頭から離れなかった。
会ったのはこの時だけだが俺はリリーナ様の為なら何だってしようという気持ちが芽生えていた。
ーー夢の中の俺はいつだって最後にはリリーナ様の為なら、という気持ちになる。
それは今の俺の気持ちともまったく同じだ。
リリーナ様には自由に生きてもらいたい。
この夢を見るたびにそう思っている。