準備➁
私とアンジュさんは、大会に参加することはもう決定事項と諦めた。
この衣装については……うん、全ての戦闘を瞬殺しよう。
いつもは戦いを楽しむけど、今回ばかりはそんなこと言っていられない。
可能な限りこの姿を晒さないように頑張ろう。
コンコン
私とアンジュさんが、未だ試着したままの姿のところで部屋のドアがノックされた。
「どうだい? サイズなどは問題なかったかな? 」
大叔父様だ。
大叔父様の問いかけにお祖母様が答えている。
「ええ、大丈夫よ。」
そこへリュート様とアレン君の声も聞こえてきた。
「リリーナ様、大会の衣装で少し手合わせしてみませんか?」
「アンジュも慣れた方がいいだろう?」
わかっている、二人は純粋な好意でそう言ってくれていることは……。
だがしかし!
私とアンジュさんは声を揃えてこう答えた。
「「大丈夫です! 大会まではこの衣装は封印します! 」」
慣れなきゃいけないことはわかっている。
だけど、心の平安も大事だ。
やっぱりメンタルが弱くなっているといつもの調子は出ないからね。
当日のみの恥ずかしさにとどめておきたいこの乙女心をわかってほしい。
そんなわけで私とアンジュさんは急いで服を着替え、当日までこの衣装は厳重に封印することにした。
この日から私たちの訓練はやる気が違う。
男性陣はそこまでではないが、私とアンジュさんは鬼気迫るものがあった。
何故なら、少しでもあの衣装で戦う時間を減らさなければいけないから!
「ちょっと、サスケ! 何でも良いからシノビの技教えて。」
「は? 何、言ってる。前に、技は、東の国、行かないと、無理って、言ったぞ。」
「無理でも何でも、大会までに使えるものは何でも使えるようにしないといけないの! そうじゃないと、私とリリーナお姉様は……いえ、私のことはいいわ。リリーナお姉様を視覚的に守れるものがあればそれで良いんだから。だからお願い! 私を助けると思って教えて! 」
渋るサスケさんにアンジュさんがグイグイ押し迫って行く。
もはやあとちょっと近づけば、口づけ出来そうな距離感だ。
何気にいつもは飄々としているサスケさんが、ちょっと赤くなっている。
「わ、わかった。だから、そんなに、近づくな。お前、自分が、女、だって、わかって、いるか?」
「そんなことわかっているわよ。それより『わかった』って言ったんだからちゃんと教えてね。」
サスケさんはアンジュさんに押し切られるように、本当に渋々何か技を教えてあげるらしい。
まあ、なんだかんだ言ってもサスケさんはアンジュさんに甘いからね。
私はと言うと、お祖母様に相手をしてもらっている。
お祖父様はリュート様とアレン君を見ているようだ。
「ほらリリーナ、もっと早く相手の懐に入り込みなさい。」
別のことを考えている余裕なんてなかった。
対峙していたお祖母様は、あっという間に攻め込んでくる。
「さあ、もっとスピードを上げて。まだまだ出来るでしょう? 」
出し惜しみなんてしていられない。
常に全力でいかないとお祖母様と戦うことなんて出来ないのだから。
私は勢いよくお祖母様へと剣を打ち込んだ。
「ふふ、そうよ。その調子。でも……お足がお留守になっているわね〜。」
そう言うとお祖母様は私の足元へ蹴りを入れてきた。
咄嗟にジャンプしてその攻撃を避けたが、お祖母様はそれを予想していたらしくすぐに体当たりしてきた。
「リリーナは強いけど、この国には油断のならない者もいますよ? 特に勝てば何をしても良いと思っている輩も存在するから注意することね。勝ったと思っても最後まで気を抜かないこと。試合終了の合図があるまでは本当に何でもありだからね。」
お祖母様は私に言い聞かせるようにそう言った。
「実際私が出た時は、気絶したフリをして私が後ろを振り向いた瞬間襲いかかってきた人もいたわよ。」
「お祖母様はその時どうされたんですか? 」
一応、確認してみる。
何となく予想はつくけど……。
「ふふ、リリーナの考えている通りじゃないかしら? 後ろからの攻撃を振り向かずに避けて、とりあえず鳩尾と顎に一発入れたわ。もう少し耐えるかと思ったけどそこで本当に気絶しちゃったみたいね。……最初からやらなきゃ良いのに。」
うん、予想以上にヤッてた。
その不意打ちした人、相手が悪すぎたね。
たぶんお祖母様の外見に完全に騙されたパターンだ。
「さてと、おしゃべりはこの辺にして、もう少しやりましょうね。」
お祖母様が笑顔でそう言ったが、結局そこから休憩なしの五時間ぶっ続け特別レッスンの運びとなった。
はっきり言って、魔物なんて大したことない。
そう感じた一日だった。