貴族事情③
私とリュート様がお祖父様たちがいるであろう方を見ていると、背後から声をかけられた。
「リュート様、お久しぶりです。良かったら一緒に踊っていただけませんか?」
「是非、私ともお願いいたします。」
「あちらでお話しでもしませんか?」
……っは!
一瞬ちょっとだけ気を失ってしまったようだ。
あまりにも近くで、刺激的なモノを見たからだと思う。
私の目の前には貴族の令嬢……と思われる方々がいらっしゃる。
ええ、たぶん、いや、うーん?
だって、みなさまとても鍛えていらっしゃるのですよ。
露出の多いドレスからは鍛えられた、ムキムキの筋肉が見えまくっている。
私は、そっとリュート様と令嬢方から離れてみた。
戦えば負ける気はしないけど、でもなんかここは離れた方が良いような気がする。
だいたいリュート様のお知り合いかもしれないしね。
「……何ですか、私に用ですか?確か……ユメール様に、ホーリー様、ニコル様ですよね?」
やっぱりお知り合いでしたか。
3人の名前をリュート様が呼べば、3人の令嬢方はその頬を赤く染めている。
まあ、リュート様ってば鍛えられた筋肉にプラスしてイケメンですからね〜。
ただ、気になるのはリュート様の声は少々冷たく感じる。
私と会話している時の感じと違うような?
「リュート様、嬉しいですわ!名前を覚えていてくれたのですね。」
「さあ、一緒にあちらに行きましょう!」
「こちらですわ、さあさあ。」
最後に喋ったニコル様?がリュート様の腕を引っ張って連れて行こうとしている。
だけどリュート様はビクともしない。
しびれを切らした他の令嬢方も一緒になって押したり引いたり。
だが、しかしリュート様は微動だにしない。
「ふう、もういいですか?」
リュート様らしからぬ冷たい声と眼差しでご令嬢方を威圧している。
それに気づいた皆さんがビックリした顔でリュート様を見つめている。
きっとこのご令嬢方はリュート様に断られるとは思っていなかったのだろう。
たぶんこの3人のご令嬢は『モテる』んだろうね……北の国限定で。
なのにリュート様がこの態度で不思議に思っているんだろう、心の底から。
「何故ここから動こうとしないのですか?」
本当に理由がわからないという感じでご令嬢がリュート様に質問している。
自分たちの誘いを断ることが本当にわからないという感じだ。
その時リュート様が私の方へと向かって来た。
え?いやいや、このタイミングでこっちに来るのはダメでしょう。
ほら、なんかご令嬢方が殺気を宿したモンスターに変化しているじゃないですか!
こ、怖くなんてないよ。
…………ウソです、怖いです!
魔物よりも怖い、いや本当に。
そんな中リュート様がとびっきりの笑顔を見せてこんなことを言っちゃった。
「私は今、こちらのリリーナ様と過ごさせていただいているんです。」
ヒィ!
モンスターがいる!
笑顔のリュート様と違い、獲物を狙うような表情のご令嬢だったモノたちがいる。
戦って負ける気は全くない、ないけど、やっぱり怖いものは怖い。
「見たことがないですわね?」
「こんな貧相な体でリュート様と一緒にいるなんて……。」
「リュート様、きっとお守りですわね?なら適当な方に任せて、リュート様はご自由になさればよろしいではないですか?」
言いたい放題だった。
まあ、でもお守りっていうには当たっているか。
何たってお祖母様から頼まれちゃっているんだからね。
たださっきの感じだと、リュート様は本気でこの方たちと一緒にはいたくないような感じがあった。
ご令嬢方の言葉に、リュート様が若干殺気を出しながら返事をした。
いや、一応ご令嬢相手なんだから殺気はやめようよ。
「はぁ〜〜、せっかく優しく断っていたんだからそのまま何処かへ行ってくれませんか?だいたいあなた達、昔私になんて言ったか覚えていますか?まあ、覚えていたらわざわざ来ませんよね?せっかくだから教えてあげます。『こんな細さじゃいくら顔が良くてもお付き合いなんてできないわ』ですよ。しかも、別に私から誘っているわけでもないのにこの言葉。はっきり言って今更何で近づいて来るんだ?って感じです。さあ、わかったんだったら何処かへ行って下さい。邪魔ですよ。」
おお、ハッキリ、キッパリ断った。
なるほど昔まだ筋肉が付いていない頃馬鹿にされたんですね。
そりゃ、付いていくわけないか。
ハッキリ、キッパリ断られたご令嬢方は完全にモンスターになっている。
顔を真っ赤にさせ、目が血走っておられる。
いや、うちの騎士団の人たちより気合が入っていますね。
「私たちにこのようなことをして良いと思っているの?」
「そうよ、そうよ!」
「せっかく声をかけてあげたのに、ふざけないで下さいまし!そんな貧相な女なんて!」
そう言うとニコル様?がこちらに突進してきた。
これは……ヤってもイイの?




