⑭
私とトーマは放していた馬を呼び屋敷に戻った。
屋敷の入り口でトーマから荷物を受け取る。
「トーマ、ありがとう。」
「ん、別に何てことないから気にすんな。じゃあ俺は親父のところに荷物持っていくから…。」
私も母に薬草を渡そうと中に入ろうとすると。
「…なあ、リリーナ。」
トーマから声をかけられた。
「何かあったら俺に言えよ。俺、頭はあんまり良くないけど力はあるしさ…。相談しにくいこともあるかもしれないけど…幼なじみなんだからさ!たぶん王都で何かあったと思うけど、俺は…リリーナが帰って来て嬉しいと思ってる。」
トーマは頭をガシガシかきながら。
「まあ、とにかくあれだ。えーっと、1人で悩むなってことだ!俺やサナはお前の味方だからな。」
それだけ言うとトーマは屋敷の中へ入って行った。
相変わらず仲間思いの熱血漢だ。
でもそこが良いところだもんね。
トーマは私が悩んでるようなこと言ってるけど、別に悩んではいない。
まあ、気になることは何点かあるけれどそれもそこまで悩むものではないし。
周りから見たら何か悩んでいるように見えるのかな。
ちょっと考えてみようか?
・レオン様に婚約破棄される。
・領地に引っ込む。
・命狙われる。
ん?
あれ?
もしかして……意外と大変な状況?
私以外の貴族の令嬢がこの状態だったら……大問題だね。
私ってば婚約破棄に浮かれて、魔物狩りに心奪われていたけど不味いんじゃない?
何故かトーマに悩みがあるなら相談しろと言われてから悩み始める私。
でも、今私に出来ることは特にない。
「とりあえず母に薬草届けよう…。」
私は今度こそ屋敷の中へと入っていった。
ーー2日後
あっという間にお祖父様とお祖母様が帰ってくる予定日になった。
家の中は久しぶりの前領主夫妻の帰宅にソワソワしている。
今朝になって正午頃到着予定だと手紙が来た。
今頃料理長はてんてこ舞いだろう。
私も珍しく髪を結いあげ、久しぶりに会う祖父母に恥ずかしくない姿をしている。
もうそろそろ到着かなぁと考えていると部屋をノックする音がした。
「リリーナ様!大旦那様達が着きましたよ。」
「分かったわサナ。今私も向かうわ。」
サナが呼びに来てくれたので私も玄関へと急いで向かう。
階段を下り始めると、玄関の方から声が聞こえた。
きっとお祖父様達だと思いそちらに目を向けると、お祖父様達以外にもう1人いるみたい。
誰かな?
玄関には母とお祖父様とお祖母様、それから…?
と私が考えているとお祖父様とお祖母様が私に気がつき笑顔で抱きしめてくれた。
う、嬉しいけど、く、くるし〜〜。
お祖父様もお祖母様も力が強くていらっしゃる〜〜。
私が苦しんでいる事に気付いた母が笑いながら止めにはいってきた。
「ふふ、お父様もお母様もその辺にしておいて下さいね。久しぶりに会えて嬉しいのは分かりますがリリーナが潰れちゃいますよ。」
その言葉で今の私の状態に気付いた2人は慌てて力を弱めてくれた。
ふう〜、母よありがとう!
危なく感動の再会で気を失うところだったよ。
「いや〜すまんリリーナ!」
「ごめんなさいね、リリーナ。」
2人が同時に謝ってきた。
「いえ、ちょっと苦しかったですが久しぶりにお祖父様とお祖母様に抱きしめてもらえて嬉しかったですわ。」
私がそう言うと2人はホッとした表情になった。
「久しぶりに会ったのに嫌がられたらどうしようかと思ったぞ。」
「リリーナに嫌がられたら傷心の旅にすぐ出かけるところだったわ。」
傷心って…。
きっとすぐに旅に出るのは変わらない気がする。
ところでお祖父様達との再会で盛り上がっててもう1人の存在を忘れているけどいいのかな?
私が今更ながらそちらに視線を向けるとバッチリ目が合った。
あれ?もしかしてずっとこっちを見てたのかな?
そこにいたのは背の高い……男性だよね?
いや、男の人にしては凄く綺麗なお顔立ちで。
髪も後ろに一本にただ結ってあるだけだがとても綺麗な髪だ。
何ていうかおとぎ話に出てくるような綺麗な人である。
あれ?前にもそんなことを考えたことがあるような?
私がジッと見ている間中ずっとニコニコしていたその人が口を開いた。
「私が誰か分かりますか?」
え?
まさかの知ってる人?
でも私の知り合いにこんな綺麗な男の人はいないけど…。
私が答えずにウーンと考えていると母が笑いながらヒントをくれた。
「リリーナ覚えていないの?あなた森でよく弓を射る姿を見せてもらってたじゃない。」
?
!!
え⁉︎ええーーーー!
「ク、クリ、クリスさ…ま?」
私が変に刻みながら答えた名前を聞くとその人は満面の笑みを浮かべた。
「良かった。名前、覚えていてくれたのですねリリーナ。」
ひ、ひえーーー!
ク、クリス様がオトコ!
私の女神が男神!
思わず訳のわからないことを脳内で繰り返しているとクリス様が話しかけてきた。
「リリーナは相変わらず面白いですね。これなら退屈しなさそうです。」
退屈しないって。
私は遊び道具じゃないよ。
って、何でここにいるの?
私の考えに答えるようにお祖父様が言った。
「しばらくの間、彼もこの屋敷に滞在するからな。リリーナよろしく頼むぞ。」
な、何ですと〜〜。
ただでさえクリス様がオトコだっていう現実を受け止められていないのに、よろしくされても〜〜。
考えることがあり過ぎて頭がクラクラしてる。
でもトドメとばかりに。
「リリーナ、仲良くしましょうね。」
このクリス様の発言に胸が痛くなる私がいた。