北の国➁
ただいま野宿の準備中。
出発してから2日経ちましたよ。
基本野宿でここまで来たおかげで、まさかの4日で北の国についてしまいそうな勢いだ。
ちなみに馬車で移動しているわけだが、馬は今も元気いっぱいだ。
うん、普通の馬ならとっくにダメになっているって私も知っている、だけどこの子たちはうちの領地で育った子たちだから。
何故かうちの領地のお馬さんたちは、疲れ知らずなのである。
噂では昔、馬型の魔物を飼いならしたご先祖様がいたとか、その結果こんなことに……まあ、噂だからね。
「お祖父様、北の国ではお祖母様の弟、大叔父様にまずご挨拶されるのですか?」
北の国の交友関係が全くわからないため、心の安静のためにも事前情報が必要だ。
「まあ、そうなるな。」とお祖父様。
「あら?あなた、もしあなたが北の国にいることがバレればお祭り騒ぎだと思いますよ?」とお祖母様。
お祭り……ですか?
「リーフィア、私が北の国に最後に行ったのはもう何年も前だぞ。さすがにもうそろそろあのバカ騒ぎはないだろう?」
「あらあら、ずいぶん過小評価ですわね。たぶんその予想は裏切られますわよ?北の国の力に対する情熱をお忘れですか?あの私との結婚する時の一大イベントは、今でも北の国で人気の演目だそうですよ。」
何だろう、すごくいっぱい聞きたいキーワードが出てきている。
とりあえず演目について突っ込めばいいのかな?
「お祖母様……あの〜、演目と言いますと演劇ですか?」
「ええ、そうよ。私とこの人の結婚までのあれこれが演劇で人気なの。」
ああ、これはもしかしなくても北の国って行っちゃダメなところだ。
何でこんな大事な情報が、ちょっとした世間話みたいな扱いなの?
お祖母様もお祖父様も何かマヒしているんじゃないかな。
お祖父様とお祖母様の話しを私と同じような表情で他の人たちも聞いている。
何か話題を変えた方が良いと思ったのか、アレン君がお祖母様に質問した。
「あ、あの、そのぐらいお強い弟様でしたら、北の国でもかなり偉い人なんでしょうか?」
あ〜〜、それ聞いちゃいますか。
確かにちょっと気になっていたけどさ、聞いたら後悔しそうな気もするのよ。
「うん?そうね〜〜、確か今も国の代表を務めていたかしら。」
く、国の代表って?
私たちは顔を見合わせて、何かヤバイこと聞いたんじゃないかと思い始めた。
「リーフィア、リリーナたちは北の国のことを知らんから代表と言ってもわからんだろう。あのな、北の国は力の国、国をまとめるのも貴族の中でもトップクラスの力の持ち主達が何人かでまとめているんだ。何年かに1度大会が開かれ、そこで代表者が選出される。リーフィアの家は毎回選ばれていたはずだぞ。」
それって、かなりお偉い感じでは?
まさかの、いやある意味予想通りの答えに私たちは黙り込んでしまった。
「王族もいるが、基本発言権はない。まあ、たまに強い者が現れて代表権を得るものもいるがな。あの国は変わっているからな〜〜。」
変わっている、この一言で済ませて良いのでしょうか?
次々と明かされる北の国情報にビックリすることしか出来ないよ。
「でも、面白いと思うわよ?楽しみましょ。」
お祖母様がとても楽しそうにそんなことを言っている。
うん、変なことに巻き込まれないようにとにかくおとなしくしてよう。
私の決意を知ってか知らずか、サスケさんが私を見ながら
「絶対、何か、絡まれる。」と一言。
何ですかその予言。
だけどその意見に対して憤慨していたのは私だけのようで、アレン君とアンジュさんも
「アレン、絶対リリーナお姉様から離れてはダメよ。サナさんがいない今、私たちがリリーナお姉様を守らないといけなんだから。」
「ああ、わかってる。とにかく北の国に入ったらリリーナ様を1人にはしないようにしよう。」
あ、あれ?
みんなの中で私が問題児になっている?
なんか納得出来ないけど、今口を開いても勝てないような気がするから黙っていよう。
野宿をしながらひたすら馬車で走り抜いた結果、あと1時間で北の国というところまで来た。
いや、本当にこのメンバーだと早いね。
今回は道中に変な邪魔も入らず、順調過ぎる旅だった。
……なんて思っていたのですよ、さっきまで。
ところが現在、完全に絡まれていますね、うん。
どうやら護衛も付いていない、人数の少ない旅行者と思われたようだ。
「お前達、他の国から来た旅行者だろ?ここを通りたいならそれ相応の通行料を置いていきな。うん?へえ、綺麗なお姉ちゃん達連れてるじゃないか。おい、その娘達も置いていきな。素直に置いていけば命までは取らないぜ。俺たちは優しいからな。」
馬車を取り囲んでいるバカは大きな声で笑ってそんなことを言った。
うーん、何で旅に出る度こんな感じになるんだろう?
ちなみにアレン君、アンジュさん、サスケさんはやっぱり、みたいな顔をして私を見ている。
いやいや、私のせいじゃないよ?