続•覚醒リカルド
うう〜〜、もう、もうお許しください。
お祖父様とお祖母様が来ないまま、ただ時間が過ぎるのを私は待っている。
たぶん時間にすれば5分ぐらいなんだと思う、だけどこの空間にいると永遠にも感じてしまうのは全て…………アレのせいだ。
おい、もう止めてあげなよ、サナが羞恥のあまり顔を両手で覆い始めているんだから。
なのに追い打ちをかけるように、またもや可愛いだの、何だの言ってサナを追い込んでいる。
……聞こえない、いや聞かない、もう私は何も聞こえないから。
いくら聞かないようにしても、嫌でも私の耳は声を拾ってくる。
我慢が出来なくなった私は父に近づき、耳元で話しかけた。
『お父様、私、もう無理です。』
『言うな、リリーナ。それは私も同じなのだから。ただお義父さん達以外に援軍を呼んでいるから、もう少し頑張ってくれ。さすがに私1人でこの部屋にいるのは耐えられない。』
何だ、父も1人では耐えられないと思い私を呼んだのか。
しょうがない、もう少し頑張りましょう。
でも、あの兄を視界に入れるとその考えもすぐに諦めてしまいそうになる。
コンコン
その時救いのノックの音が聞こえた。
私と父はお互いに顔を見合わせ、満面の笑みで来訪者を迎えることにした。
「どうぞ、お入りください!」
父が明るい声で声をかける。
私もドアのところまで行き、扉を開けた。
入って来たのはお祖父様、お祖母様、そして……アレクさま?
援軍というのがアレク様のことだったのか。
入って来た3人は兄とサナを見るとそれぞれ「ほう」とか「あらあら」とか「へえ」などと言っている。
「ふむ、この様子を見るとやっと収まるところに収まったようだな。」
お祖父様の言葉にやっと兄がお祖父様達に気づいた。
どれだけサナしか見えていないんだ。
「これはお祖父様、先ほど父上には報告しましたが、ついにサナが結婚してくれることになりました。」
兄はそれはそれは嬉しそうに報告している。
さすがに立ち上がって膝の上からサナはおろしたが、思いっきり肩は抱き寄せていた。
何だろう、離れる気がないんだね。
「ああ、おめでとう。サナだったら安心だ。……ところでリカルド、そんなにあからさまにベタベタしていたらサナに愛想を尽かされるのではないか?先ほどからサナが泣きそうだが……」
サナはお祖父様の言葉に、よく言ってくれたというような顔をしている。
ところがそのお祖父様の言葉に、お祖母様が口を挟んできた。
「あら、あなた。昔のあなたもあんな感じでしたわよ?私がいくら言っても聞いてくださらなかったではないですか。リカルドのあの行動はあなたの血ですわね。」
「うっ、リーフィア、何も今そんなこと言わなくても……」
お祖父様がタジタジだ。
そうか、あの情熱的行動はお祖父様譲りでしたか。
そんな中アレク様が動いた。
兄の近くに近づいて行き、そして
「隊長、サナさんおめでとうございます。心より祝福いたします。」
アレク様がとびっきりの笑顔でそんなことを言った。
何だろうあんな風なアレク様の笑顔は初めてだ、本当に嬉しそう。
だが、それも長くは続かなかった。
その笑顔が…………鬼になった。
「で、隊長、今何の時間か知っていますよね?」
あ〜〜、まだ騎士団のお仕事の時間ですね。
さすがに何かを察したのか兄がアレク様に言い訳を始めた。
「ア、アレク、落ち着こう、な!お、俺ももうそろそろ戻らないといけないな〜〜と思っていたんだ、うん。」
嘘だ、サナしか見えなかったくせに。
もちろんそんなことはアレク様にはお見通しだ。
「そんな嘘すぐにバレますよ。ほら、とっととサナさんから離れなさい。気持ちが通じて嬉しいのは分かりますが、これはこれ、仕事は仕事きっちりやって下さい。ここ最近心あらずで全く進んでいなかった書類が山になっているんですから。隊長の承認待ちのものが溢れかえっていますよ。まあ、気持ちが通じあったんですから3日くらい徹夜……大丈夫ですよね?」
先ほどと比べようもない恐ろしい笑みでそんなことを言っている。
アレク様も兄とサナのことを祝福する気持ちは本当だけど、仕事は溜まっていたようでここぞとばかりに兄にやらせようと目がギラギラしている。
「ちょ、ちょっと待て。3日徹夜って……サナを補給しないとそんなに仕事なんて……」
「出来ますよね?」
そう言うとアレク様は、渋る兄をガッチリ捕まえて爽やかに去って行った。
遠くから兄の「サ〜〜ナ〜〜!」という叫び声が聞こえる。
もしかして騎士団最強……最恐ってアレク様なの?
部屋に残された私たちはとりあえずサナを元気づけてみた。
「お疲れ様サナ、これからもよろしくお願いするよ。」と父。
「サナ、おめでとう。リカルドの暴走がひどい時は私に言いなさい。」とお祖父様。
「サナ……この人の血をひいているリカルドのことだから、はっきり言ってスゴく、すご〜〜くベタベタ、あまあまだから、アドバイスは…………人間諦めが大事ってことかしら?」とお祖母様。
お祖母様の言葉にサナが泣いている。
まあ、好きな人だから……大丈夫なの、かな?
私はサナの背中を励ますように軽くポンポンとしてみた。