覚醒リカルド
「それからリカルド様は、照れて真っ赤になっているサナさんにいとも簡単に、『照れているサナも可愛いな。これからもずっと近くでいろんなサナを見ていたいんだ。』って今までのヘタレ……いえちょっと女心が分からない感じのリカルド様と思えない恥ずかしいセリフを連発されたんです!」
アンジュさんが興奮冷めやらないぬ感じで訴えかけてくる。
確かに今までの兄とは別人だ。
これは今までの反動のせいか、完全に何かの栓が抜けたのかもしれない。
「それで、肝心の2人はどこにいるのかしら?」
「あ、それでしたら、リカルド様がサナさんを抱えるようにして走り去って行きました。」
え?それってイロイロと大丈夫なの?
い、いきなり襲いかかってなんていないよね?
私がちょっとドキドキしながらそんなことを考えていたらアレン君が何やらブツブツ言い始めた。
「……そうか、俺ももう少し積極的に攻めるべきなのか?しかし……そこでもし拒否されたら立ち直れる自信が…………どうする、俺。」
なんか言っていることはよく聞き取れなかったけど、顔がスゴく真剣だ。
どうしたのかなアレン君。
私たちがそんな話しをしていたらセバスチャンがやって来た。
「リリーナお嬢様、お帰りなさいませ。旦那様がお呼びですよ。」
どうやら父が呼んでいるらしい。
私はアレン君、アンジュさんと別れて父の部屋を訪ねた。
コンコン
「ああ、入って来なさい。」
私は部屋の中に入って…………すぐに部屋を出たくなった。
心は入室を拒否していたけど、頑張って踏みとどまり何とか入室に成功したのである。
「リリーナ、言いたいことはわかるが…………まあ、アレだ、諦めなさい。」
諦めろって言われても。
目の前には今まで見たことのないようなデレデレした表情の兄が、これまた今まで見たことのないような可愛らしく真っ赤になっているサナを膝の上に乗せて、お茶を飲んでいる。
え?ナニ?兄がサナの口に甲斐甲斐しくクッキーを運んでいる。
それはアレですか?給餌行為ですか?
サナはもう涙目になっているが…………って!う、うう〜〜私は見ていないからね。
兄がサナの目に浮かんだ涙を舐めとったところなんて!
っていうか何なのコレ?
何が悲しくて兄と、昔から姉のように思っているサナのこんな姿を見なきゃいけないの?
私は精神的ダメージを計り知れないほど受けた。
「お、お父様……もう部屋に戻ってもよろしいでしょうか?」
何しに来たのかわからないけど、もう私の精神的耐久性はゼロに等しい。
「残念だがそれは許可できない。だいたいまだ何も話していないだろう。」
うう〜〜、それはそうだけど、もう耐えられないよ〜〜。
う! まただ、兄が一生懸命サナにクッキーを食べさせていたが、どうやらサナの口元にその欠片が付いていたようで、兄はそれを…………何で手じゃなく、サナの口元に自分の顔を寄せて口でとったの?!
も、もう許して下さい!
本当に無理です!
ああ、サナ、不甲斐ない主人でごめんなさい、あなたのその縋るような目にも私は応えてあげられない。
「で、では、よ、要件を出来るだけ早めに教えて下さい。本当にお願いします。」
私の必死の願いが届いたのか、父が話し始めてくれた。
「わかっている、わかっているさリリーナ。私も速やかに終わらせたいと思っている。要件というのはもう、言わなくてもわかっていると思うが、やっと、いや本当にやっとリカルドがサナを射止めた。…………大丈夫だぞ、リリーナ、サナは恥ずかしがっているがリカルドの気持ちを受け入れてくれた。先ほど2人で報告に来てくれたんだ。リカルドは長年の拗らせ続けた想いが暴走してこのような感じになっているが、きっと、たぶんもう少ししたらもうちょっと落ち着くだろう。うん。」
いや、父よ、なんか無理やり自分を納得させようとしているけど、兄は本当に止まるのかい?
今も私たちの会話が聞こえているのか、聞こえていないのかわからないけど兄がナチュラルにサナを口説いている。
いや、もうまとまったのだから、口説いているというのは語弊があるのかもしれない。
…………き、聞こえない、聞こえないんだから!
兄がサナをこれでもかと言うほど褒め称えている声なんて。
「そ、そうですか、それはとても喜ばしいお話しですね。……で、では私はこれで失礼させていただきたいと思います。」
いや、もう本当に無理だよ。
サナもずっと涙目だけど、私も泣きたいよ。
兄よ、イチャイチャするのは良いけどお願いだから人前でするのはやめて。
これ以上の甘い空気はお腹イッパイで胸焼けしそうです。
でも、父はまだ退室を許してくれない。
「リリーナ、すまん。もう少しだけ待ってくれないか?今、お義父さんとお義母さんも呼んでいるから。」
う、うう〜〜。
は、早く来て下さい、お祖父様、お祖母様!
リリーナは挫けそうですよ。