⑬
ガサガサ
出てきたのは……
ん?誰?
お互いに相手を凝視している。
うーん、でもどっかで見たことがあるような……。
あっ!
「トーマ?」
するとあっちも同じタイミングで
「リリーナ…さま?」
とつぶやいている。
やっぱり、成長しているからすぐにはわからなかったけど料理長の息子のトーマだ。
会うのは6年ぶりだからすぐにはわからなかったよ。
確か前回領地に帰ってきた時にちょっと顔をあわせたきりだ。
トーマは兄と同じ歳で小さい頃はよく一緒に遊んでいた。
サナも含めて幼なじみのような関係だ。
6年も経つと人って成長するのね〜。
昔の面影は…まあ髪の色と目?ぐらいかな。
お〜〜よくトーマってわかったな私!
「ところでトーマ、こんなところで何をしているの?」
「へ?あ、ちょっと親父に頼まれて料理に使う香草を取りに来たんだ…じゃなくて取りに来たんです。」
ん?
なんか言葉づかいがおかしい。
「それよりリリーナ…さまこそ何でこんなところにいるんだ…いや、いるんですか?」
おい!
なんかいちいち面倒な話し方だな〜。
「トーマ、別に普通に話していいわよ。誰かいるわけでもないし。」
トーマは困った顔をしながら
「いや、でも……うーん。」
とはっきりしない。
私が良いって言っているんだから良いじゃない。
「変な敬語使われても疲れるだけですわ。名前も昔みたいに呼び捨てでいいわよ。」
「あー、そうだな…。じゃあそうさせてもらう。んで、何でこんなところにいるんだ?」
「私はお母様に頼まれて薬草を取りに来たのよ。」
「いや、俺が聞きたいのは何で領地にいるのか何だが…。」
あ、そうか。
普通に考えて私が領地にいるのっておかしいか。
婚約破棄されて帰って来たのに晴れ晴れとした気持ちで外をウロチョロしたらダメか。
あれ?そうしたら魔物狩りをしに領地まわったらダメ?
私が黙っていろいろ考えていたらトーマが慌てだした。
「あー、いやすまん!聞きにくいことを聞いて。別に俺に詳しく話す必要はないぞ。」
なんか良く分からないけどトーマがオロオロしている。
お前にもいろいろあるもんなぁ、とか言ってうんうん頷いている。
性格は変わらないらしい。
まあ、あまり婚約破棄のことは広めない方がいいだろうから話さなくてもいいか。
代わりにこちらからも質問をしてみる。
「ところでトーマは王都の学校に通ってましたよね?卒業後にこちらへ帰って来たのですか?」
トーマは昔から私達と一緒にいたおかげか剣術の腕前がかなりのモノだった。
そのため王都にある武術全般をメインに教える全寮制の学校に通っていたのだ。
「ああ2年前に卒業してこっちに帰って来て、今は領主様のお抱え私兵の1人だ。まあいろいろやってるけどメインは領内の治安維持だな。魔物狩ったり、盗賊やら山賊やらそのへんのを締め上げたり。やってる事は昔と変わらないな。」
あら、楽しそう。
ごほん!
いや、私も領内の平和をマモリタイ…。
「そうですか〜。お母様を助けてくれているんですね。」
「まあ、そうなるか。んで今日は休みだったんだが親父が急にご馳走の為に足りない材料を取って来いって家を追い出されたんだ。そしたら森の中にリリーナがいてビックリというわけ。」
おやおや料理長、お祖父様達が帰って来るから今から準備しているのね。
どんなご馳走かしら。
今から楽しみ。
「そうだったの…。まあ、私もお母様からのお願いでここに来ているから同じね。で、その香草は見つかったのかしら?」
「ああ、全部見つけた。で帰ろうとしていたんだが人の気配がしたから来てみたんだ。でも自分の勘を信じて正解だったな。まさかこんなところでリリーナに会えるとは思わなかった。」
久しぶりの幼なじみとの再会が嬉しかったのかトーマが笑っている。
そうだね、私も久しぶりにトーマに会えて嬉しいよ。
なんだかんだ言っても昔みんなで領地を守っていた事は忘れられない大事な思い出だ。
また私も守りたいなぁ。
「よし!じゃあ帰るか。リリーナも薬草は摘み終わったんだろう?」
「ええ、この袋にいっぱい採りましたわ。」
「おお、すげえ。いっぱい採ったな。よしそれじゃあそれ持ってやるから寄こせ。」
そう言うとトーマは私の荷物を背負ってくれた。
「あら、私自分の荷物くらい持てますわ。それにトーマだって結構な量を持ってるじゃない。」
「いいんだよ。女に荷物持たせるような男じゃないんだよ、俺は。それに一応リリーナはお嬢様だからな。一応。」
む、一応って2回も言った。
まあ、でもこれがトーマの優しさだって分かるから大人しく任せるよ。
「…ありがとう、トーマ。」
トーマの方を見るとちょっと恥ずかしそうな顔をして「おう」とだけ返事をした。