当然の流れ➂
私とアレン君はアレク様から渡された灯りを頼りに、井戸の底の横穴を進んだ。
横穴は一見するとただの土壁にしか見えなかったが、力を入れて押すと扉のように開いた。
中は多少ジメジメするけど、涼しくて歩くには快適な温度みたい。
私たちが横穴に入って歩き始めてから数分後、何か物音が聞こえた。
耳を澄ますと前方から聞こえるようだ。
「なんの音かしら?」
「リリーナ様、俺がちょっと先を見てくるのでこちらでお待ちください。」
「待ってアレン。灯りが1つしかないから2人で行きましょう。」
渋るアレン君をなだめて、結局2人で先を進むことにした。
歩を進めるたびに何か聞こえる。
これは…………え?もしかして話し声?
私たちはお互いに驚きの表情を浮かべた。
『………だから。……………いいよな。』
『俺…………この………………』
うん、どう聞いても話し声だね。
どうやら男の人が話しているようだ。
騎士団の人……ではないよね。
アレク様もずっと使ってなかったって言っていたし。
じゃあ、誰?
私たちは姿が確認出来るギリギリまで近づいてみることにした。
どうやらこの先、少し開けた場所になっているようだ。
私たちは壁に隠れるように話し声のする方を覗き込んでみた。
するとそこには、まさかの物体が。
何アレ?
えっと、小屋?
何故か突然小屋と呼ぶには雑な作りの、例えるなら子供の秘密基地のようなものが現れた。
昔、兄が似たようなものを作っていたけど、兄が作ったものの方がまだマシな作りだった。
話し声はその小屋らしきものの中から聞こえるようだ。
私とアレン君はお互いに顔を見交わして、うんと頷き小屋へと近づくことにした。
出来る限り物音を立てぬよう細心の注意を払って。
近づくと話し声がはっきり聞こえる。
『本当、ここは良いアジトだな。』
『ああ、ここなら騎士団の連中にもバレないしな。』
ううん?何やら不穏な空気が……。
アジトに、騎士団にバレない、何だかおかしな人たちがここに小屋作っちゃいましたか?
もう少し情報が欲しかったため、話し声に耳をすませた。
『それにしても、まさかワルシャワ侯爵が捕まっちまうなんてな。』
『何でも、べらぼうに強い騎士団のヤツらにヤられたとか。』
『ふん!何が騎士団だ。ワルシャワ侯爵が捕まっちまったせいでやりにくくなったが、ここなら誘拐してもバレないさ。とっとと攫って来てたんまり身代金をいただこうぜ。』
はい、アウト!
一瞬ワルシャワ侯爵って誰だっけとは思ったが、例のエリスさん誘拐事件の犯人じゃん。
こいつらはその残党ってわけね。
一体何人いたんだか。
しかも本人たちは気づいていないようだけど、騎士団のお膝元ですよ。
たぶんさっきの横穴はこちら側から開かないようになっているのかもしれない。
だからこんなところにアジトなんて作っちゃったんだ。
気づいていないとはいえ何て運の悪さだろう、その上滅多に使われることがないはずの通路がこの国の王子と姫の暴走によって使われることになるとは。
これはもう私たちが何とかしないといけないよね?
『アレン、とりあえずここを通らないと外に出られないから捕まえましょうか?』
『ええ、そうですね。しかし本当にしつこいです。とっとと捕まえてヤツらの言う騎士団の連中に預けちゃいましょう。』
私たちは小声でそう相談すると早速行動を開始した。
と言ってもやることなんて1つしかないんだけどね。
ドガッ!バキバキッ!!
はい、キレイにアレン君の蹴りが小屋もどきに決まりました。
雑な作りの小屋もどきは音を立てて崩れ落ちていく。
そして中から慌てた声が聞こえてくる。
「な、何だ!いきなりアジトが壊れたぞ?!」
「わ、わからん!痛って〜〜、何が起きているんだ?」
混乱状態の残党がわらわらと出てきた。
ふーん、こんな小屋の中に結構入っていたね。
出てきたのは全部で5人。
私とアレン君は出てきた残党を次々と投げ飛ばしていく。
まあ、今日は帯刀していないからね、投げ技メインだよ。
兄にやったようにボディに1発だと危ないからね。
しかも壊れた小屋にはバッチリ縄も常備されていた。
何が起きたかわかっていない5人をこれでもかとぐるぐる巻きにする。
ちなみに5人全員が投げ飛ばされたショックで気を失っていた為、下手な抵抗もなくすんなりことは運んだ。
「リリーナ様、あっけなかったですね。」
「そうね、この人たちまだ誘拐はしてなかったのよね?」
今さらながら小屋の中に誘拐された人がいたらどうしようかと思ったり。
ざっと見た感じ大丈夫だったみたいだけど。
それにしても、いつもながら私の行くところ変な人がいるような気がする。
そろそろ本気でお祓いでもした方が良いのかしら?
これが当然のようになっているけど、望んでなんかいないからね!
心の中でそう叫びながら、アレン君を手伝い5人の残党を引きずって出口を目指した。