閑話 それぞれの想い➂
スミレの場合
「…………という話しでした。我らの集めた『証拠』はしっかり役立ったようです。」
「そう、良かったわ。これでレオン様の立場も回復するはずよね。」
「はい。今回は宰相殿もレオン王子の味方になってくれたようです。」
「宰相……リリーナさんのお父上ですね。ふん、リリーナさんも役に立つお父上がいて良かったわね。」
私の言葉にシノビ……ハンゾウが生ぬるい目で私を見ている。
わかっているわよ、でもしょうがないじゃない!
「スミレ姫様、このまま何事もなくいけば姫様はこの国の王妃です。もうそろそろ何とかしませんか?その性格。リリーナ様とお友達になりたいんでしょう?リリーナ様は姫様のその態度を理解出来ていませんよ?何もしなければ…………このままもう2度とお会いすることは叶わないかと。」
「…………。」
私はハンゾウの言葉に何も言わなかった。
そんなこと、そんなこと私が1番わかっているもの。
リリーナさんにもう一回会いたい。
会って、きちんと挨拶したい。
だいたいあのお茶会は最悪だった。
リリーナさんに会えたことで舞い上がってしまって、いつも以上に口が回ってしまったんだもの。
しかも途中でレオン様が現れたから…………うう〜〜、どうして私はこうなのかしら。
最近は毎日レオン様とお会いしているから、レオン様は私の言いたいことがお分かりになるようだ。
もちろん私だってレオン様には捻くれたことなど言わないわ。
だけど毎日のお茶会の話題はリリーナさんのこと。
そうなれば、自然と私の口からはリリーナさんの文句とも取られる…………いえ、言っている言葉は完全に文句ですわね。
レオン様も最初は私がリリーナさんのことを嫌っているとお思いになられたようだけど、途中から私の言葉と表情が合っていないことに気付いたみたい。
そんな風に私のことを理解してくれるレオン様のことを、私はますますお慕いすることになった。
そして私の言葉を誤解せずに聞いてくれるレオン様と、リリーナさんのお話しをすることは私にとって、かけがえのない時間。
だけど、そんなお慕いしているレオン様にも何故ここまでリリーナさんへ好意を持っているかや、何故ここまで捻くれた言葉を発してしまうかはお話ししていない。
お優しいレオン様は、疑問に思っていても無理に聞き出そうとはしない。
そこがまた素敵なんだけど…………こほん。
「姫さん。」
私に声をかけてきたのは、いつの間にか部屋に来ていたサスケだった。
「あら、サスケ。どうしたの?」
「あ〜、姫さん。ハンゾウの、言う通り、もう、良いだろう?リリーナさまは、『大丈夫』な人、だろ?リリーナさまは、姫さん、傷つけないぞ。」
「…………。」
ふう、わかっているわ。
リリーナさんはあの人達とは違う。
私のことをいじめたり、虐げたりしない。
私の捻くれた言葉にも、今も完璧な拒絶はしていないもの。
でも、だからこそ、そんなリリーナさんだからこそ私に興味を持ってもらいたい。
私はこんなやり方しか知らない。
「姫様、たぶんリリーナ様達は今度また旅に出られると思いますよ。そうしたら当分王都には戻らないはずです。」
「あ〜、結婚式、出ない、って。」
「出席しないの!?」
私の言葉にハンゾウとサスケは呆れ顔だ。
「それはそうでしょう。今までの姫様とレオン王子の行動を考えれば、結婚式に出るなんてリスクが大きいと思うでしょ。」
「宰相も、欠席に、オッケー、出してた。」
「し、臣下なんですから、出席は義務でしょう!リリーナさん、弛んでますわ。」
うう、出てもらえないなんて。
せっかく結婚式の場でリリーナさんにきちんとご挨拶しようと思っていたのに。
でも、今までの私の言葉や手紙がこの事態を引き起こしているのよね。
私が目に見えて凹んでいるのを見て、2人は顔を見合わせてため息をついている。
「とにかく結婚式に出てもらいたいなら、まずまともな手紙から始めましょう。話すと訂正が難しいでしょうから。手紙なら何回でも書き直しが可能です。もちろん私が検閲致します。」
「で、俺、手紙、リリーナさまに、渡す。」
2人が協力してくれるみたい。
手紙……書けるかしら?
でも、このままずっとリリーナさんに会うことが出来なくなるなんてイヤ。
是非とも私とレオン様のお友達になってほしい。
完全にマイナススタートだけど。
自業自得だっていうことはわかっているわ。
「…………わかったわ。書いてみる。」
私がそう言うと、早速ハンゾウが紙とペンを持ってきた。
え?今すぐなの?
「善は急げと言いますからね。さあさあ、書いてみてください。」
私はハンゾウに急かされ、ペンを握らされた。
わかったわよ、やるわよ。
「あ〜〜あ、言ってるそばから……。姫様、いきなり暴言はやめましょう。何で書き始めが『結婚式に出ないなんてどういうことなのかしら?臣下失格』とか書いているんですか。はい、やり直し。」
ハンゾウが私が書いた紙をその場で破いた。
「な、何するのよ。」
「破いたんです。こんなの残しておけないでしょう?はい、これにもう一度書いて下さい。」
「姫さん、マトモなの、よろしく。」
私はこの後ひたすらダメ出しをされながら手紙を書き続けた。
これは…………ハンゾウから合格をもらえるのはいつになるのかしら?




