乱入
バーーーーーン!!
私が必死でレオン様への返事を考えていたら、部屋のドアがノックもなくいきなり開けられた。
…………まあ、確認しなくてもわかるけど。
一応、念のためにドアの方を向いてみる。
うん、やっぱり兄だった。
私は兄のそういった行動に半ば諦めの境地だが、兄は今回この部屋のメンバーを甘く?みていたのだと思う。
母がいれば容赦なく鉄拳制裁が発動されるのはわかっていたが、まさかここでお祖母様が動くとは。
お祖母様は無言で席を立ち、音もなく兄に近づいたと思ったら次の瞬間には兄が床とお友達になっていた。
お、恐ろしいほどの早業に皆唖然としている。
兄も何が起きたかわかっていないようだ。
そんな中お祖母様が兄に話しかけた。
ただ、お祖母様の足は床とお友達になっている兄の背中にある……。
「リカルド、あなたいつもこんな風にドアを開けているのかしら?」
そう言っているお祖母様の顔は笑みを浮かべてはいるが、目がやばい。
私だったら即座に理由も聞かず土下座したくなるぐらいの目だ。
そんなお祖母様に対して兄は果敢にも、反論している。
「お、お祖母様、そんなことはないです。ふ、普段はきちんとシテマスヨ。」
後半、お祖母様の視線を浴びた兄は何故かカタコトになっていた。
まあ、気持ちはわかる。
兄のドアの開け方については私も思うところはあるが、一応自国の王子の前で騎士団の隊長がお祖母様に踏みつけられているというのはいかがなものでしょう?
私は父とお祖父様にどうにかしてもらおうと視線を投げかけたのだが…………2人とも視線を合わせてくれない。
こ、これは2人ではお祖母様に太刀打ち出来ないということですか?
私が他に何か良い手はないか思案していると、今度は私がお祖母様に話しかけられた。
ちなみに未だ兄はお祖母様の足の下だ。
「リリーナ、リカルドはいつもこのようにしているのかしら?」
こ、こっちに質問の矛先がきた〜〜。
なんて答えれば正解なの?
正直に言うべき?
で、でも、嘘をついてもお祖母様にはすぐにバレてしまう気がする。
兄を見ると、必死に口パクで何かを私に伝えようとしている。
えーっと、あれは……『タスケテクレ』かな?
私は兄の姿がさすがにかわいそうになり、何とかしてみようとお祖母様に返事をした。
「あ、あのお祖母様落ち着いて下さい。お兄様はきっと、私を心配して急いでこちらに来られたのだと思います。普段は……あの、そうですね、急いでいると忘れてしまうこともたまにある……かも?」
前半は何とかフォローしようとしてみたのだが、お祖母様の顔を見ているうちにそれも難しくなってきた。
「……そう。ということは、『いつも』なのね?リリーナは嘘が下手だから……。」
え?私って嘘が下手だったの?
どうやらお祖母様にはバレバレのご様子。
兄……どうか安らかに。
「さあ、リカルド行きましょうか?」
お祖母様は床に潰れている兄の襟首を持ち、引きずるように兄を部屋から連れ出していった。
部屋に残された私たちはお互いに顔を見合わせ、目で会話を済ませた。
『今のことは触れずにいこう』と。
さて、何の話しをしていたんだっけ?
なんか頭が働かないなぁ〜。
「あ〜、こほん。それでレオン王子はいつ頃スミレ姫と御結婚予定ですかな?」
お祖父様が何とか会話の修復をしようとしている。
「あ、ああ。そうだな、だいたい半年後を予定している。王妃教育については結婚してからも続ける予定だがな。さすがにこの短期間で終わらせることは難しい。リリーナも10歳の頃から続けてくれていたんだよな。スミレ姫は東の国で王族としての教育は受けているから、あとはこの国についてのことや、武術。王妃は自分の身を守れなければ話しにならないから。」
スミレ様って戦えるの?
まあ、シノビが近くにいるから守ってもらえるとは思うけどね。
私の考えていることがわかったのかレオン様が苦笑いしながらこう言った。
「リリーナは武術の分野では全く苦労していなかったようだが、普通この項目で王妃教育につまづくのが恒例らしいよ。スミレ姫もそこで苦労している。いつもお茶会の時に言っているよ。『リリーナさんだったらこんなことササっと出来てしまうんですよね。……嫌味な方ですわ。』ってね。」
あれ?もしかしなくても貶されてる?
私の表情からそれを察知したのかレオン様が慌ててフォローし始めた。
「ああ、すまない。スミレ姫の言葉はそのままの意味にとってはダメなんだ。私も最初は気づかなかったんだが、何ていうか捻くれ者らしくてね。本当に気に入っている者にはそんな感じで接してしまうらしいんだ。まあ、一応今のところその言葉が出るのはリリーナぐらいのようだね。よっぽど気に入っているみたいだ。」
それって、本当に嫌われているのではないのかしら?
なんか納得出来ないんだよね。