好きの意味
レオン様の突然の御言葉に私達は固まった。
普段あまり狼狽えたりしないお祖父様とお祖母様もびっくりしているようだ。
今まで避けてこられたスミレ様との婚約。
婚約自体は成立していたようだが、レオン様がお認めになられない為遅々として進まなかった案件がまさかの解決。
そりゃ、この件では散々悩まされていたであろう父も、大きく口を開けたままフリーズくらいしますよ。
誰1人言葉を発せない中で、何とか頭が正常に機能し始めた私がレオン様に質問してみた。
「あ、あのレオン様、私がこう言うのもおかしいとは思いますが……本当ですか?」
一応確認は必要でしょう。
事が事だし。
レオン様は私のある意味失礼な質問にも神妙なお顔で答えてくれた。
「ああ、信じられんかもしれないが本当だ。どうやら記憶を失う前の私は女性全般が苦手のようだったが、良いのか悪いのか今の私は平気だ。それに王と王妃の間に子は私だけ……婚約者が存在するのに結婚をしないというのは王族としてあるまじきことだろう?」
ほ、本当にこの人はあのレオン様なのでしょうか?
どうしよう……真っ当なことを言い過ぎてて、逆に信じられなくなっている自分がいる。
今までが、今までなだけに父もびっくりし過ぎてまだ口が開きっぱなしだ。
「そ、そうですね。ところで結婚のお話しはスミレ様にもされたんですか?」
本人に話しが行く前に聞いてしまっていたら、なんか申し訳ない気がする。
レオン様のことをずっと好きだったスミレ様にとって、とっても大事な話だもん。
「ああ、スミレ姫にも伝えている。リカルドから聞いているかもしれないが私とスミレ姫は毎日2人だけのお茶会が強制されている。これも手紙を送ったことに対する処置のようだな。ただ、このお茶会に関してはプラスになった。」
「プラス……ですか?」
「そうだ。今までスミレ姫との接触を避けてきたのは周知だろう。人に関する記憶がない中で、ようやく何かを感じられたリリーナがいたのに、他の女性を婚約者として受け入れることは私には難しかった。特にスミレ姫は私にしてみれば突然現れたようなものだからね。だから接触を避けていたんだが、強制的に話しをするようになって気づいたんだ。彼女と私は同志だってね。」
「同志?」
さっきからレオン様の言葉の一言を繰り返すことしか出来ない。
「ああ、同志だ。私とスミレ姫の共通の話題といえばリリーナ、君のことぐらいなんだよ。」
兄が言ってたやつか……。
お茶会で出される話題が私のことで、兄がよく質問されるとかいう。
「私とスミレ姫は…………リリーナのことが好きなんだ。あ、ちょ、ちょっと待ってくれ。何でいきなり構えようとするんだ。」
レオン様の言葉に急に覚醒したお祖父様とお祖母様が殺気を放ち始めた。
突然の変貌にレオン様も大慌ててで止めている。
私も話しが途中だと思い、お2人をなだめることにした。
「お祖父様、お祖母様、落ち着いてください。レオン様が私のことを好きと言うのは、今までの意味とは違うと思います……たぶん。だから、だからもう少しだけレオン様のお話をお聞き下さい。」
私の言葉でお祖父様とお祖母様はひとまず殺気を引っ込めてくれた。
でも、まだ疑いの眼差しでレオン様を見ている。
少し怯えた目でお祖父様達を見ていたレオン様も、殺気が消えたのを確認してまた話し始めた。
「あ、その、なんだ……私の言い方が悪かったみたいだな。すまない。リリーナのことを好きというのは、何ていうかもう本能的なもののようなんだ。確かに記憶を失ってから初めてリリーナに会った時は即結婚を申し込んでしまったが、あれは口が勝手に動いてしまって……たぶん、記憶を失ってもどこかにリリーナを求める私が残っているんだな。だけど今は少しずつ落ち着いてきたんだ。きっとスミレ姫の影響なんだと思う。彼女とリリーナの話しをしているうちに、リリーナのことは何ていうか、舞台上の役者に憧れるような気持ちに変わってきたんだ。まあ、これは例えだから、本当はもう少し……いやもうちょっと好きなんだけど。」
最後の方はお祖父様達の視線が厳しくなってきたのがわかったのか、小さい声になっていた。
えーっと、要約すると好きは好きだけど、前のような追い詰められたような想いではないということなのかな?
「…………話しは何となくわかりました。それではレオン王子はスミレ姫と御結婚なされて、リリーナには以後関わらないということですね。」
父の言葉にレオン様が慌てて反論し出した。
「ま、待ってくれ宰相!以後関わらないということはちょっと違うと思うのだが……。いや、今までの拗らせ議事録のようなことは誓ってしない。ただ、普通に私とスミレ姫にたまにでいいんだ、本当に半年に1回、いや1年に1回ぐらい、会って話しをしたいんだ。出来れば……友人のような……」
友人……レオン様とスミレ様と?
ど、どんな感じで?
レオン様の懇願するような視線を受けながら、私はどう答えて良いのか必死に頭を働かせていた。




