正攻法
レオン様はあっさりと私に会いに来た。
いや、人間疑いをもってしまうとそれしか見えなくなるんだなぁ、って改めて思ったね。
だって、誰1人としてレオン様が正面からやって来るなんて思っていなかったもの。
私たちはレオン様がどこからやって来るのかイロイロ予想していた。
闇夜に紛れてとか、変装してとか、2階から侵入するのでは?なんてのも考えていた。
しかし、今回のレオン様はそのどれにも当てはまらなかったのだ。
それは本当に正々堂々と正面突破を選ばれた。
私たちはまさか屋敷の入り口を正面から訪ねて来るなんて、これっぽっちも考えていなかったから警備が手薄になっていた。
それに、元々レオン様のお顔を分かるのが騎士団のメンバーと私、兄、双子ぐらいで屋敷に勤めている人間は絵姿ぐらいしか見たことがないのだ。
……はっきり言って警備計画に大きな穴が開いていたような気がする。
入り口には屋敷に勤めている人間がついていた。
そこへレオン様が訪ねていらっしゃったのだ。
「すまないがリーフ殿にこの手紙を渡していただけないだろうか?」
普段であればすぐには受け取らず、身元を明らかにさせたりするところを、今回はレオン様包囲網を敷いていて結構屋敷への騎士団メンバーの出入りが多かった為、怪しむこともなく父に手紙が渡ったようだ。
本当に捕まえる気あったのか、疑問しか浮かばない。
そして手紙を受け取った父は、そのままレオン様を屋敷内へと引き入れた。
どうやら手紙の内容を見て決めたらしい。
そういう流れで今があるわけで…………
私は今、レオン様の前に座っている。
テーブルを挟んで、向こう側にレオン様。
そして、父と、お祖父様、お祖母様も一緒にテーブルを囲んでいる。
まあ、ある意味最強の助っ人がいるので安心感はあるかな?
「…………では、何故単独でここまで来たのか教えてくれますか?レオン王子。」
父がレオン様に尋ねている。
レオン様は視線を私に固定したまま話し始めた。
「突然現れたことを先ずは謝罪する。申し訳なかった。」
レオン様が私たちに頭を下げた。
いくら公の場ではないにしろ王族がおいそれと謝罪の為に頭を下げるのはマズイのでは?
と、思っていたのはどうやら私だけのようで……父と祖父母は普通に受け入れていた。
「だが、こうでもしないとリリーナには会えなかったと思う。って、ああ、リリーナそんなに身構えないでくれないか?今日リリーナに話したいことは、結婚とか婚約とかそういう類いの話しではないから。もしも、そんな話しをしようものなら屋敷からつまみ出されるはずだからね。宰相とも約束をしてこの場を設けてもらったんだ。」
私はレオン様の言葉を受けて、父の方見た。
父は小さく頷いている。
「わかりました。では、レオン様はどのような話しをされに来たのですか?」
レオン様が大きく息を吸って、そしてゆっくり息を吐いてから話し始めた。
「1番の目的は…………信じてもらえないかもしれないが謝罪だ。この間リリーナに手紙を出しただろう?あの件でイロイロあって、記憶を失ってから初めて私とリリーナの拗らせ議事録を見る機会があったんだ。」
ああ、例の罰。
延々と議事録を読まされるっていう苦行ですね。
「それで初めて昔の自分がリリーナに何をして、どんな問題を起こしてきたかを知ったんだ。正直、議事録読み聞かせ初日はあまりの自分の不甲斐なさに寝れずに、一晩ベットを転がり回るという事態になったよ。それからも最後の婚約破棄の件まで聞かされて、私は、私は…………」
レオン様が泣きそうな顔をしている。
記憶を失う前の自分が行った行動に、今のレオン様が苦しめられているのはちょっとかわいそうだと思う。
顔は同じでも浮かべる表情が前とは全く別だから、同一人物に感じられない。
「リリーナ!本当にすまなかった。記憶がない自分が言ってもあまり効果はないかもしれないが、昔の行いを深く反省している。どうしてもこのことを直接伝えたかったんだ。」
レオン様はそのままずっと頭を下げ続けた。
今までのレオン様とのことを思い出して、私もちょっと泣きそうだ。
「レオン様……お顔をお上げ下さい。レオン様のお気持ちはよくわかりました。謝罪を受け入れます。こちらこそ至らぬ婚約者で申し訳ございませんでした。」
私はレオン様の謝罪を受け入れ、そして自分も詫びた。
いろいろあったけど結局私もレオン様を理解しようとはしていなかった気がする。
私達は本当はいろいろな道があったはずなのに、それをお互いに閉ざしてしまったのだと思う。
私の言葉にようやくレオン様が頭を下げるのを止めてくれた。
レオン様はジッと私を見ている。
ただ、その瞳は以前のような私を追いつめてくるようなものではなかった。
そしてレオン様が何か吹っ切れたようにこう告げた。
「リリーナ、私はスミレ姫と結婚する。」