バレた
「私は……失礼だとは思いましたが、お断りさせていただきました。大旦那様もそれで良いとおっしゃられて。昨日お会いしたばかりの方で、ましてや貴族の御子息のダミアン様と私では釣り合いが取れませんから。」
「それで、ダミアン様は納得されたご様子だったの?」
私の言葉にサナがガックリしている。
ということは……
「それが……やっぱり友達になってほしいとおっしゃられて。」
そうだと思った。
なかなか諦めが悪いみたいだね。
「昨日見た感じだと、一筋縄ではいかなさそうな方だったわね。でも、サナがどうしても嫌な時は絶対私に言ってね。何とかするから。」
「ありがとうございます、リリーナ様。今日のところは特に何をされたというわけではありませんので大丈夫です。」
サナはそう言ってくれたけど、このことを兄が知ったら暴走しそうだよね。
すぐにでもサナと結婚する!なんて言い出しそうだ。
その兄は夕食後帰宅した。
そして懲りずにまた私の部屋に来たのだ。
……ドアのノックについては、まあ、変わらずでしたよ。
「サナ!…………って、アレ?サナは?」
「お兄様、お帰りなさいませ。私の部屋に入るなりサナの名前を叫ぶのはよして下さい。」
「あ、ああ。うん、わかった。で、サナは?」
「サナはお祖父様と出かけて、今日は疲れているようだったので先に無理矢理休ませました。本人は大丈夫と言っていましたが、無理をさせるのは嫌でしたので。」
「サ、サナは体調が悪いのか?医者を呼んだ方がいいんじゃないか?いや、それよりも元気が出る食材を集めた方が良いか?よし!俺が精がつくものを仕留めて来る。」
兄が1人で暴走しそうだったので、慌てて止めた。
「お兄様!サナは病気なわけではありませんよ。ゆっくり休めば明日には回復しているはずです。なので、そんなに心配なのでしたら、1番の薬は静かにしていることです。お兄様が騒いではサナもゆっくり休めませんから。」
私の言葉に兄は地味に凹んでいる。
小さな声で『俺ってうるさいのか?』なんてつぶやいているよ。
普通に叫んでいるから騒がしいと思います。
「わ、わかった。じゃあ、サナに会うのは明日にする。」
兄はそう言って部屋を出て行こうとした。
しかし、部屋を体半分出したところで止まった。
「どうか致しましたか?」
私の問いかけに兄は、頬をかきながらボソッと
「あのさ、一応言っておくんだが……、あ〜〜、アレだ。レオン王子がお前が帰って来たことに気がついたようだぞ。」
「へ?」
お、思わず貴族の令嬢にあるまじき言葉が出てしまった。
え、え?聞き間違いでなければ、レオン様が私が王都にいることに気づいたって?
「うん、アレだ。誘拐事件のことは表向き俺とアレクが解決したことになっているんだが、王には報告する必要があったんだ。で、まあ、いろいろあってその報告がレオン王子にも行ったわけで…………その、なんかすまん。」
い、いや、仕事だから、べ、別に良いんだけど。
今知りたいのは、その情報を知ったレオン様が何かしようとしているかどうかだ。
これは絶対確認しなければならない。
「あ、あの、お仕事ですから報告は必要ですわ。そのことで私が何か文句を言う資格はありませんもの。ただ……1つ教えて頂きたいのはレオン様は何もしませんよね?」
私の言葉に兄は、申し訳なさそうな顔をした。
え?その顔って
「あ〜〜、リリーナ、俺が言えることはとりあえず逃げとけっていうことだけだ。」
「お兄様、それはアドバイスになっておりません。もう少し詳しい情報をいただけませんか?それから、まだお話しは終わりませんので、部屋に戻って来て下さい。」
兄はおとなしく部屋の中に戻って来た。
困った顔はしているけどね。
兄は椅子に座りながら、話しかけてきた。
「で、何が聞きたい?」
「レオン様は私が王都にいることをお知りになって、何かおっしゃってましたか?」
兄は一生懸命思い出そうとしているらしい。
「そうだなぁ、確か『チャンスだ』って小さい声で言っていたと思う。かなり小さい声だったから聞き違いかもそれないけどな。」
どういう意味で言ったんだろう?
「そう、ですか。あ、あと、レオン様とスミレ様は接する機会はあるんでしょうか?」
婚約はされているお2人だが、その仲はどうなっているのだろうか。
これは単純に気になっていたことだ。
「レオン王子とスミレ姫はレイチェル王妃の指示で、1日1回は会話の機会を設けることになっているんだ。まあ、毎日2人でお茶会だな。」
「そうなんですか……、それでお2人は少しは、少しは仲良くなられたんでしょうか?」
私の質問に兄は意外な答えを口にした。
「ああ、会話は弾んでいるぞ。」
そして問題は次の言葉だった。
「リリーナ、お前の話題でな。」