無理です
抱きついた……と思ったが、アレク様は抱きついてきたエリスさんをスッと避けて、倒れないように腕をそっとつかんだ。
「むやみに男性に抱きつくのは、いかがなものかと思いますよ。」
アレク様はエリスさんに注意をしている。
対するエリスさんは注意を受けても凹まず、逆にアレク様を熱く見つめている。
「アレク様とおっしゃるのですね。アレク様……私と結婚してく……」
「無理です。」
アレク様が速攻で断った。
「な、何故ですか?」
エリスさんが果敢にも理由を尋ねている。
「……理由ですか?……そうですね、しいて言えば何もかも納得出来ません。まず、隊長に謝罪がありませんよね?勘違いだったとはいえ、この間まで隊長を訪ねて訓練所まで突撃してきていたのに、いきなり私のところに来られても受け入れられるものではありませんよ。それに……元はと言えば酔っ払い騒ぎにしろ、誘拐にしても、自業自得な面は否めません。貴方はククール伯爵家の御令嬢ですよ、街に行くにしても共の1人もつけないなんてあり得ません。だいたい…………」
アレク様のお小言、いやアレはお説教なのかな。
なんか、前にアレク様の父である前公爵にスカートを切った時にチクチクとお小言を言われた事を思い出してしまった。
似ていないと思っていたけど、こういうところは影響があるのね。
なんて思っている間もアレク様のお説教は続いている。
さっきからエリスさんの反論を一切受け付けず話し続けている。
「…………いいですか?いきなり男性の匂いを嗅ぎ出すなんて以ての外ですよ。たとえ理由があるにしろ、人目のあるところでそのような行動をとれば後で自分が困ることもあるのですよ。……聞いていますか?それに隊長は、女性に強く出れないのでその行動を咎めることなどしませんが……」
話しはまだ終わらないようだ。
なんか一旦火がついてしまったら止まらないみたい。
私はそっと兄に聞いてみた。
『ねえ、お兄様。アレク様はいつもあんな感じなんですか?』
『うーん、いつもではないが……アレだ、スイッチが入るとああなる。無理に止めようものならこっちにも飛び火するから気をつけろ。』
ということは、止める気ゼロだね。
だけど飛び火を怖がっている場合でもないかもしれない。
さすがにエリスさんが涙目になってきたもの。
それにエリスさんだけの問題でもないよね。
私は勇気を出してアレク様に話しかけた。
「アレク様、もうそろそろ父に報告へ行くお時間ではありませんか?」
私の言葉にようやくアレク様の怒涛の口撃が止まった。
「うん?あ、そうか。あまりに熱くなってしまい報告の事を忘れるところでした。ありがとうございます、リリーナ様。では、私はこれで失礼致します。さあ、隊長も行きますよ。」
そう言うとアレク様は兄を引き連れて父の元へと向かった。
私とエリスさん、そして一言も話さないアレン君が残された。
アレン君はたぶんアレク様のあのような姿を見たことがなかったからか、呆然としている。
「エ、エリス様?大丈夫ですか?」
大丈夫ですか?というのもおかしいが、この言葉しか出てこない。
「ふ、ふぇ、うっうう……。や、やっと会えたのに嫌われてしまいました〜!」
そう言うとエリスさんは泣き出してしまった。
確かにアレだけ言われては泣くしかない。
エリスさんの目からはどんどん涙が溢れてくる。
私はハンカチを差し出して、エリスさんに話しかけた。
「エリス様……こちらをお使いください。あの、よろしければ私の部屋にいらっしゃいませんか?」
私の言葉に泣きながらも小さく頷いてくれた。
私はエリスさんの手を引きながら自室へと向かうことにした。
部屋に戻り椅子に掛けさせてからも、一向に泣き止む気配がしない。
このままでは涙が枯れるのでは?と思っていたら、ようやくすすり泣き程度に落ち着いてきた。
その間、私は何も話しかけなかった。
いや、話しかけられなかったというのが正解かな。
こんな風に泣ける程誰かを好きになったことがない私にはかける言葉が見つからない。
「ぐすっ、う、リ、リリーナさ、ま、申し訳、ありませんでした。」
エリスさんが喋った。
目を真っ赤にしながら謝罪の言葉を口にした。
「いえ、大丈夫ですよ。ああ、目が真っ赤ですわ。今、冷やすものを用意させますね。」
私は控えていた者に冷やしたタオルを持ってくるように頼んだ。
ちなみにサナはお祖父様に呼ばれていていなかった。
「リ、リリーナ様は、アレク様の事を知っていらっしゃるんですか?」
まだ少し泣きながらエリスさんが尋ねてくる。
「詳しくはないですわね。お兄様の優秀な副官ということぐらいかしら。」
正直私だってアレク様のことはよく分からない。
あと知っていることと言えばアレン君とアンジュさんのお兄さんということぐらいだもん。
「そう、ですか。あの、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。……帰ります。」
そう言うとエリスさんは自身の屋敷へと帰って行った。
もちろん護衛はついている。




