悪あがき
3分ほどして、玄関のドアを叩く音が響いた。
外からは兄の声が聞こえる。
あ、玄関の扉の鍵を開けておくのを忘れてた……。
私は鍵を開けようと扉に向かおうとしたのだが
ドカッ!!バキッ!!
あ……私の前には可哀想な姿の扉が落ちている。
その扉を踏みつけながら兄とアレク様が屋敷内に入ってきた。
ちなみにアレク様は器用に壊れた扉を避けて入ってきたけどね。
「お兄様、扉の破壊は……いえ、いいですわ。こんな時ですものね。」
「おう、リリーナ。うん?そこにいるのはエリス嬢か?良かった、無事救出出来たんだな。」
お兄様は柱の陰でまだ気を失っているエリス嬢を見て、ホッとしている。
「はい、気を失ってはおりますが、怪我もないようです。」
「そうか。で、犯人はどうした?」
「今お祖父様とサナ、アレンが追っていますので、たぶんそろそろ捕まるのではないでしょうか。」
それを聞いた兄は、サナもか……とつぶやいていた。
気になるのはサナなのね。
「よし、じゃあ俺達も犯人探しに行くか。」
「…………あの、もちろん犯人が誰かわかってて行こうとしているのですよね?」
私は、一応念の為に兄に確認してみた。
入って行くのは良いけど、わからないまま探しても意味がない。
しかし、半ば予想はしていたが兄がこちらを見て、ニコッと笑った。
「ああ、そうか。で、犯人は誰だ?」
やっぱり!
「こちらのお屋敷の主、ワルシャワ侯爵が命令していたようですよ。実行犯はガラの悪い人達でしたけど。お兄様はワルシャワ侯爵を知っていらっしゃいますか?」
「うーん?あまり記憶にはないなぁ……なあ、アレク。お前知っているか?」
兄がアレク様に話を振った。
アレク様は考え込むような様子を見せたが、思い出したのか話し始めた。
「確か父の反乱事件の時に前侯爵は処分されましたね。そして今のワルシャワ侯はあまり良い評判は聞きません。確か前侯爵の処分の時に、領地も結構没収されていたようなんですが、その後も散財を続けてかなり財政的に困窮しているとか。安易な誘拐はその辺の財政の穴埋めの為でしょうか。」
なんて言うか、親子で迷惑な人達だ。
そして続けてアレク様はこう言った。
「たぶん隊長も見れば分かると思いますよ。確か前にワルシャワ侯爵を見て、ボソッと『騎士団で鍛えたい身体つきだな〜』って言ってましたから。一言で言えばポヨポヨです。」
うん、確かにポヨポヨだ。
「まあ、アレクが分かるみたいだから大丈夫だろう。じゃあ、今度こそ行ってくるから、リリーナ達はエリス嬢を連れてここから脱出してろ。」
「はい、わかりました。」
私達が動き出そうとした時、叫び声が聞こえた。
「待ちやがれ!いい加減大人しく捕まれ!」
この声はアレン君?
私達が声のした方を見るとポヨポヨをガタイのいいのが肩に担いで、その周りをガラの悪いのが囲みながらこちらに向かってきた。
ああ、自分で走ると遅いから担がせているんだ。
それにしても、良くうちのメンバーからここまで逃げて来られたね。
どこかに隠し通路でもあったのかしら?
「なんでこんなことに……お、そこにいるのはリリーナ嬢か?よし!お前達そこにいるリリーナ嬢と近くにいるククール家の娘を捕まえろ!」
ワルシャワ侯爵の命令により、ガラの悪そうな男達がこちらに向かってやってきた。
運の悪いことにエリス嬢が犯人側に一番近い。
人質に取られては大変だ。
しかも間の悪いことに、どうやらエリスさんが目を覚ましたらしい。
「う、う〜〜ん。え?真っ暗?ここはどこ?私は何でここにいるのかしら?」
目を覚ましたエリスさんが周りをキョロキョロ見回している。
自分が目隠しされているのに気づいていないようだ。
私達は慌ててエリスさんの方へと向かった。
男達が近づいて来たが、エリスさんの近くにいたアンジュさんがロッドで撃退している。
しかしどこから湧いてくるのかエリスさんへと男の手が伸びた、その瞬間、その男に蹴りを食らわせたのがアレク様だった。
そしてアレク様がそのままエリスさんを抱えて走っていった。
ちなみに兄は、ワルシャワ侯爵をアレン君と2人で挟み撃ちにしていた。
凶暴な笑みを浮かべた2人に挟まれ、ワルシャワ侯爵は汗が止まらないようだ。
私はというと……
アレク様とエリスさんを追おうとしていた男達を撃退していた。
アレク様はどこまで行ったのかしら?
エリスさんもアレク様によって安全な今、私達が気にするものなどない。
トドメは刺さないまでも、動けない状態まで持っていった犯人側はみんな地に倒れている。
ワルシャワ侯爵は兄とアレン君によって縄でグルグル巻きにされた。
そしてタイミング良くアレク様が戻ってきた。
その腕にはエリスさんがいる。
何故か未だに目隠し状態だけど。
アレン君にお祖父様とサナの事を聞いたら、途中の部屋に捕まっている人を見つけた為、その人を保護しているようだった。