事件勃発④
どうしようかと考えていると、お祖父様が何かを思い出したようで口を開いた。
「ここは私の記憶が確かなら、たぶんワルシャワ侯爵の屋敷のはずだ。しかも侯爵はこの前の反乱騒ぎの時に処分されて、その息子が継いだはずだが……。この様子だとまるで反省はしていないんだろうな。」
お祖父様は呆れたような口調でそう言った。
この前の反乱ってアレン君とアンジュさんのお父様の公爵が起こしたものだよね。
確かあの時、公爵よりも悪どいことをしていた家が処分されたはずだけど、その内の1件ということか。
「でも、いくらこの間の反乱に関わっていたからといって、いきなり屋敷に乗り込むことは難しいですね。エリス様を隠されてしまってはただの不法侵入になってしまいますもの。」
私とお祖父様が考え込んでいると、サスケさんがボソッと何かを言った。
「え?サスケさん?何か言いましたか?」
「ああ。抜け道、使うか?」
え?抜け道?
そんなのあるの?
するとお祖父様がすかさずサスケさんに問いかけた。
「サスケ、この屋敷に入る抜け道を知っているのか?」
「ああ。だって、犯人、使ってた。俺、そこから、屋敷の、天井、潜り込んだ。」
じゃ、じゃあ、最初から言おうよ……。
私達のそんな思いが通じたのかサスケさんが困った顔で
「なんか、すまん。聞かれなかった、から、そのまま、突入、と思った。」
まあ、この間のみんなが誘拐された時なら問題ないだろうけど、今回は違うからね。
別にいつも突撃しているわけではないよ。
「ではサスケ、案内してくれ。」
お祖父様に言われたサスケさんが先頭を歩き、私達は屋敷の裏側へとまわった。
サスケさんが案内してくれた場所は、石壁が並んでいるいわゆる行き止まりだった。
「行き止まりですね。」
「確かに行き止まりだな。」
私達がサスケさんを見ると、サスケさんは石壁の一部を押し始めた。
すると大して力を入れていないように見えたのに、その石が動き空洞が現れた。
「確かに抜け道だな。ところでサスケ、これはどこに繋がっているんだ?」
「屋敷内、使用してない、部屋。」
「距離は?」
「急げば、1分弱。」
犯人達と鉢合わせになるのは面倒だけど、どのみち侵入しないと。
現場を押さえないと、こんなことがずっと続いてしまう。
何よりエリスさんを怖い目に合わせた犯人達を絶対許せない。
「よし、では今から屋敷内に突入する。サスケを先頭に、しんがりをアレンに任せる。とにかく今回の1番の目的はエリス嬢の救出だ。もちろん犯人達も全員叩き潰すつもりだが、エリス嬢の安全だけは確保してくれ。本来であれば、金を支払えば解放となるのだろうが、ずっとこのままにはしておけん。ここで断ち切るからよろしくな。」
お祖父様の言葉を受けて、まずサスケさんが中へと入っていった。
次にお祖父様、私、サナ、アンジュさん、アレン君と続いた。
抜け道とサスケさんは言っていたが、普段から結構使っている様子だ。
特にクモの巣があるわけでもないし、空気も悪くない。
私達は警戒はしながらも先を急いだ。
サスケさんが言った通り1分もしないうちに、行き止まりになった。
そしてサスケさんが何やらゴソゴソと動かすと、明るくなってきた。
どうやら出口は使っていない暖炉のようだ。
抜け道といえばやはり暖炉なのだろうか?
私達はとりあえず屋敷内に侵入することに成功した。
しかし、ここから誰かが来るなんて思っていないからだろうけど、こんなにすんなり入れていいのかしら。
「サスケ、エリス嬢のいる部屋はここから近いのか?」
「ああ。この部屋を、出て、左、突き当たりだ。」
「サスケはこの部屋から天井に上がってその部屋を見たのか?」
「ああ。ほら、あそこ。あの、板、外して、登った。」
サスケさんが指し示した方向を見ると、ちょっとだけ天井の一角がずれている。
そんなに簡単に外れるんだ……。
「では、すまんがサスケ、今の状態を探ってきてくれ。犯人がエリス嬢の近くにいないのであれば一気に突入するから。」
「了解。」
そう言うとサスケさんはピョンと跳んで天井に登っていった。
その姿をアンジュさんがジッと眺めている。
アレは完全に教えてもらおうとしている目だ。
この騒ぎが片付いたらまた教えて、教えないの一悶着があるのかな。
「今回はサスケさんがいてくれて助かりましたね。」
「ああ、そうだな。最悪ハンゾウを呼び寄せようかとも思っていたしな。」
あら、ハンゾウさんを?
なんかそんなに時間は経っていないのに懐かしい名前を聞いた気がする。
私とお祖父様がそんな話しをしているとアンジュさんが悔しそうにこうつぶやいた。
「私だって、立派なシノビになりますよ。そしてサスケよりもリリーナお姉様のお役にたってみせますわ。帰ったらサスケを捕まえなきゃ……」
ああ、サスケさん頑張って逃げて下さい。
アンジュさんの目が獲物を狙うものになってますよ。
私はそっとサスケさんの無事を祈った。