会場にて②
お祖父様が王様を睨んでいる。
え?いいの?こんな人前で王様にその態度……。
しかも王様も怯えちゃっているよ。
クリス様と私は話しかけることも出来ず事の成り行きを見守った。
どうやら王様の言葉がお祖父様の逆鱗に触れたらしい。
『だ、か、ら、何故それを王が言うのだ。』
『い、いや、私は良かれと思ってだな……』
『良くない』
『だが、リリーナ嬢にも悪い話しではないとおも……』
『思わない』
あれ?もしかしなくても私の話し?
本人差し置いてヒートアップしているようだけど。
どうしようかと考えていると王様と目が合ってしまった。
王様は助けが来た!と思ったのかすぐに私とクリス様を呼んだ。
「おお!クリス、リリーナ嬢良く来てくれた。うん、うん、2人でそうやっているとお似合いだな。」
その言葉を聞きお祖父様がまた顔をしかめた。
もう王様お祖父様の前で何も言わないほうが良いと思う。
クリス様はお祖父様の反応を見て、そのことには返事をせず違うことを質問した。
「父上、先程剣神殿とリリーナのことをお話しされていたようですが?」
「あ、ああ。そのことか……うむ、ちょっと剣神殿にリリーナ嬢の事でお願いをしていたのだが……」
「却下した。」
王様の言葉を遮るようにお祖父様が短く返事をした。
おお、一刀両断だ。
「むむ、せめてリリーナ嬢にも話しをしてからでも良いではないか。なあ?リリーナ嬢。」
まあ、一応王様のお話しは聞きますよ。
私は「はい」と答えた。
すると王様は嬉しそうにこう言い出した。
「おお、聞いてくれるか!剣神殿に似ず優しいな。で、話しというのはなリリーナ嬢に是非武術の指南をしてほしいのだ。正直この城の兵士でもリリーナ嬢には太刀打ち出来ないだろう。それに武術の指南をしてほしいのは我が子達なのだ。リリーナ嬢であれば貴族としての立ち居振る舞いも完璧だろうし、ぴったりなのだよ。どうだろう、考えてはくれんか?」
え?まさかの指南役?
しかも王族にって…………ちょっと厳しくないかい?
私の顔色が曇ったのに気づいたのか王様が慌てて言葉を付け足した。
「いや、無理にとは言ってはおらん。ただ、今まで培ってきた王妃教育の成果やその武術の実力を埋もれさせるのはもったいないと思ってな……。」
あれ?もしかして褒めてくれているのかな。
王妃教育を頑張ってきたことを労われることはあったが、その内容を評価されることは今まであまりなかった気がする。
なるほどそれを活かせる場所を探すっていうのも良いかもね。
だけどここで王族の方へ指南をするというのはちょっと違うと思う。
「私のことを評価していただいて本当に嬉しいですわ。しかし、申し訳ありませんが私はまだお祖父様と旅を続けたいと思います。それにもしも私が指南をすることになれば……魔物狩っていただきますよ?」
私の返答に王様ははじめは残念な表情をしていたが、魔物の話しが出た時ビックリしていた。
「魔物……狩るのか?」
「はい、1人で狩れて一人前ですね。」
私の言葉に何故か王様がガックリしている。
するとお祖父様が突然笑い出した。
「はっはっは!ほれ、見たことか。お前の思い通りにこの子は動かんよ。大方この話でリリーナを引き止めて婚約にでも持ち込もうとしていたんだろうがな。残念だったな、諦めろ。リリーナには他の国も見せたいからな。」
ん?どこから婚約なんて言葉が引き出されたんだろう?
「父上…………リリーナ相手にその手の戦法は効きませんよ。」
クリス様がため息を吐きながら王様に話しかけた。
その言葉を聞き王様は『む、真正面からぶつかるべきだったか……』と何やら反省している。
とりあえず断ったから良いよね?
王様とお祖父様がまた何か話し出した時会場では音楽が流れ始めた。
するとクリス様が私の手を引いて
「リリーナ、私と踊ってくれないかい?リリーナとダンスをしたかったんだ。」
断る理由は見つからない。
それに体を動かすダンスは好きだ。
「はい、喜んで。」
私とクリス様は既にダンスが始まっている場所へ向かった。
クリス様とのダンスはとても踊りやすかった。
今まで兄とか偶にレオン様と踊ったことはあったが、まあ息が合わなかった。
兄はあの通りだから強引に突き進むし、レオン様はまずどこを見ているのかわからないし近づくとその分離れるから踊りにくいったらなかった。
その点クリス様は私のペースに合わせてくれるし、とても楽しかった。
しかし、ダンスに夢中になって気づかなかったが、何故周りは踊ることを止めているのだろう?
今、踊っているのは私とクリス様だけだ。
何故かみんなはその様子を眺めている。
音楽はまだ続いているのに……。
そして曲が終わり、踊るのを止めたら
『『『『『パチパチパチパチ!!』』』』』
盛大な拍手が鳴り響いた。
何事!
私が周囲を見回すとみんなが口々に
『クリストファー様とリリーナ様はお似合いだな』
『リリーナ様はまるで妖精のように舞っていらっしゃったわ』
『なんて綺麗なダンスなのかしら、もっと見ていたいわ。』
なんて言っている。
居た堪れない気持ちになった私はその場で礼をするとクリス様を引っ張って会場の隅に逃げ出した。