会場にて
結局エスコート役が足りないのは事実で。
1番クリス様と親交があるであろう私がクリス様のエスコートを受けることになった。
双子は最後まで渋っていたが最終的にお祖父様が間に入って落ち着いた。
そして今私は終始ご機嫌のクリス様に手を引かれ会場に向かっている。
ふう、この国の王子様にエスコートされてパーティーって……令嬢方の視線がコワイ。
私の心配をよそにあっという間に会場前に着いた。
ドアが開き中に入ると…………。
……王様のウソツキ。
どこが『ちょっとした』パーティーなの?
まず参加者が多過ぎる。
そして部屋もデカ過ぎる。
何より私たちが入場した途端一斉に視線が集中した。
何これ?新手の嫌がらせか何か?
さすがにお祖父様とお祖母様は普通にしている。
だけどパーティー自体初めてのサナやサスケさん、庶民暮らしが長かったアレン君とアンジュさんも私同様会場の雰囲気に飲み込まれている。
サナとサスケさんは小さな声で
『帰りましょうか?』『賛成』なんてやり取りをしている始末だ。
クリス様にエスコートされているからさぞかし刺さるような視線に晒されると思っていたが、周りを眺めればそんなことはなく、むしろ何故か令嬢方のキラキラした視線が私に向けられている。
これは一体どういうことかしら?
私が首を傾げていると令嬢方のうちの何人かがこちらに近づいて来た。
クリス様がいる為あちらから声をかけることが出来ないようだ。
そんな中クリス様が苦笑しながら令嬢方に声をかけた。
「君たちはリリーナに挨拶したいんだね?……そうだね、私だけがリリーナを独占したら御令嬢方を敵に回してしまいそうだ。さあ、どうぞ。」
クリス様がそう言って私から少し離れると令嬢方が私の周りに集まってきた。
みんなグイグイ来るからちょっと怖かったが、敵意はなさそうだからとりあえず静観してみる。
するとその中の1人が私の前に進み出た。
「初めましてリリーナ様。私、バルト伯爵家のウエンディと申します。」
うん?バルト伯爵家のウエンディさん?
確かユーリさんの……。
「もしかしてユーリさんの主の?」
「はい!この度はうちのユーリを救っていただいて本当にありがとうございました。もしもリリーナ様達にご助力いただけなければ今頃どうなっていたか…………。」
そう言うとウエンディさんは思い出したのか、少し震えていた。
「いえ、私たちは偶々現場に居合わせただけですわ。それよりも、ユーリさんの主を想うその気持ちがきっとウエンディ様を救ったのです。ウエンディ様は良い侍女をお持ちですね。」
「……ユーリの言っていた通りの方ですわ、リリーナ様は。それにリリーナ様たちに救われたのは私だけではありません。ここにいる令嬢たちも皆危険な状態でした。それが今、この場に立てることをどれだけ喜んでいることか。」
そう言ってウエンディさんは後ろにいる令嬢方を見た。
ウエンディさんの後ろに控えていた方たちはみんな目に涙を浮かべなが口々に礼を言っている。
周りを見ればサナ、サスケさん、アレン君、アンジュさんもそれぞれ囲まれていた。
まるで大感謝パーティーだ。
どうやら私的には本当に偶然助けただけだった話がかなりの大事になっている。
ちらっと視界に入った王様は満足気に笑みを浮かべ頷いているし。
「皆様……。さあ、せっかく王様が開いてくれたパーティーですわ。無事だったことを祝して楽しみましょう?いつまでも泣いていたらせっかくのパーティーがもったいないですわ。ウエンディ様、もし良かったらこちらをお使いください。」
いつの間にか大泣きしているウエンディ様にハンカチを差し出した。
ウエンディ様が持っていたハンカチは既にその機能を果たしていないからだ。
ハンカチを受け取ったウエンディ様は『リリーナ様、お優しいです〜。』と余計泣かせる結果になってしまった。
「ふう、リリーナは御令嬢方にも人気だね。本当にライバルが多くて困るよ。」
クリス様がそんなことを言って私に近づいてきた。
その顔は困っているようにも見えるし、どこか誇らし気な感じもする。
「それにリリーナの友人たちもかなりこの国では有名になってしまったね。」
確かに。
今もちょっと離れた場所でサナとサスケさんが何やら勧誘されている。
アレン君とアンジュさんも揉みくちゃになっているようだ。
「……そのようですね。正直なところ戸惑いの方が強いですわ。」
「そうだろうな。君たちは損得抜きで人助けが出来る人たちだからね。こんなにも感謝されていることが不思議でしょうがないってところかな?さあ、剣神殿のところに行こうか。」
私はクリス様に連れられてお祖父様とお祖母様のところへ向かった。
2人はちょうど王様と話しをしているところだった。
王様はさっきまで笑みを浮かべてこちらを見ていた人と同一人物だとは思えないほど、顔色が悪い。
もしかして……お祖父様に何か言われたのかな?