控室にて
それから準備が整った私は控室のような部屋へ案内された。
そこにはすでにサナとアンジュさん、それからお祖母様が待っていた。
「うわ〜〜、リリーナお姉様とっても素敵です!」
アンジュさんが瞳をキラキラさせてこちらを見つめてくる。
そう言うアンジュさんも可愛らしい容姿にぴったりのフワフワのピンクのドレスだ。
「ありがとう。でもアンジュさんのそのドレスもとっても似合っているわ。アンジュさんの雰囲気にぴったりよ。それにサナも……そういう姿も良いわね。きっとそんな姿のサナを見たことをお兄様にお話ししたら絶対涙を流して悔しがるわね。」
私の言葉にサナは困った顔をしている。
「いえ、私はやはりこのような姿は慣れません。私は控室で待っていても良いのでは?」
なんてことを言い出した。
ダメダメ、今回はせっかくみんなで参加出来るんだから行かなきゃ。
するとお祖母様が助け船を出してくれた。
「あら、サナ。せっかくそんなにぴったりの衣装を用意してもらったんだから出席しなきゃもったいないわ。何だったら素敵な男性をゲットしてみる?」
お祖母様が茶目っ気たっぷりにそんなことを言い出した。
対するサナは「いえ、私は……そんな……」とタジタジだ。
でもこんなに綺麗に着飾ったサナだもの、もしかしたら口説かれるかも。
そうしたら兄が荒れるね。
その時部屋のドアがノックされた。
「私だが入っても大丈夫か?」
どうやらお祖父様のようだ。
お祖母様が「良いですよ〜」と返事をしている。
するとドアを開けてお祖父様とアレン君、サスケさんが入って来た。
アレン君とサスケさんも正装している。
アレン君は以前もそういう姿を見たことがあったが、やっぱり今回も凄く似合っている。
これはまたお姉様達に囲まれるパターンか?
そしてサスケさんはというと……あらあら、いつものほぼ黒い衣装とは全く違う、王子様オーラが溢れているよ。
そうだよね、サスケさんイケメンさんだったんだもんね〜。
シノビのはずなのにやたらと王子様風な衣装が似合っている。
「……リリーナ様、本当に綺麗です……。」
アレン君がすぐに私の前に来て褒めてくれた。
正装したアレン君に褒められるとなんかくすぐったいよ。
「ありがとうアレン。アレンもとっても素敵よ。でも前回も御令嬢方に連れ去られているから今回は気をつけてね。」
「確かに……。でも大丈夫です、今回はリリーナ様のお側を離れません!」
鼻息荒くアレン君はそう言った。
うん、でも御令嬢方のパワーを甘く見ないほうが良いよ?
私たちがそんなやり取りをしている横でアンジュさんがサスケさんにちょっかいをかけている。
「サスケは黒以外も似合うのね、意外だわ。」
「お前、馬鹿に、しているだろ。」
「あら、そんなことしていないわよ。とっても似合っているわ。これなら今回はアレンだけが連れ去られることはないわね。頑張って!」
「俺、シノビ。気配、消して、隠れる。」
「え、ダメでしょ。ちゃーんとアレンと一緒にリリーナお姉様に近づく奴らを排除しなきゃ。」
「…………ムリ。」
…………あ、意外とコミュニケーションとれてる。
その後もアンジュさんとサスケさんは面白い会話を繰り返している。
なかなか良いコンビのようだ。
暴走しがちのアンジュさんのストッパーになってくれると良いのだけど。
私たちがお互いの姿を褒めているとまたノックの音が響いた。
おや?今度は誰かな。
「クリスですが入室してもよろしいですか?」
ク、クリス様でしたか?
この間のことがあるからちょっと動揺してしまった。
私が1人心の中でオロオロしているうちにお祖父様が入室の許可を出した。
「失礼します。」
入って来たクリス様はまさしく王子様だった。
煌びやかな衣装に負けない圧倒的な王子様オーラ。
そして顔には笑みを浮かべて私の前にやって来た。
「リリーナ……ああ、よく似合っているね。私が選んだんだがリリーナにぴったりだよ。」
え?この衣装クリス様セレクションなの?
確かに私の好きな色だけど。
そんなクリス様のセリフに双子が危険を察知したらしい。
スッと2人が私の両脇にやって来たのだ。
そしてアレン君がクリス様に声をかけた。
「パーティーまで時間がまだありますが…………何故ここへ?」
アレン君……もはや王子に対する接し方じゃないよ。
けれどクリス様はアレン君の失礼な質問に笑みを浮かべたまま答えた。
「ああ、エスコート役が1人足りないだろう?だから私がリリーナのエスコートをする為に来たんだ。」
「な!べ、別にちょっとしたパーティーならエスコートがいなくたっていいだろう。」
「しかしエスコート出来る人間が実際いるんだ。いるに越したことはないよね?」
そう言うとクリス様は私の手を持ちこう囁いた。
「こんなに素敵なリリーナのエスコートが出来る日が来るなんて、思ってもいなかったよ。今日はよろしくね。」
う、うう、なんか逃げられない。
パーティーは何も問題が起こらないことを心から願うばかりだ。