閑話 リカルドの危機
俺は寝ても覚めてもサナのことばかり考えている。
朝起きれば、サナはもう起きてリリーナの相手をしてんのかなぁ。
リリーナは朝からサナと一緒でいいなぁとか。
男だらけの食堂で飯を食っていれば、サナの作ったサンドイッチ食いてえなぁ。
リリーナはサナのメシ食ってるのか、いいなぁとか。
騎士団の訓練で懲りずに俺を本気で倒してサナに近づこうとしているやつを踏み潰していれば、サナはこいつらよりずっと強いなぁ。
リリーナはサナに背中を預けられていいなぁとか。
何をしていてもサナが出てくる、ついでにリリーナも。
何でサナは今俺の近くにいないんだろう?
サナが俺の侍女だったらずっと一緒に入れたんだよなぁ。
はぁ〜〜、早く帰って来ないかな〜〜。
いっそ俺が西の国に行くか?
でもなぁ〜〜、絶対ジイさんにヤられるよな。
認めたくはないけど、俺の今の実力じゃあ100回挑んだってまぐれでも勝てないわ。
何であんなに強いんだ、あの人。
俺は1番苦手な書類整理をしながらそんなことを考えていた。
バシッ!
「痛った〜〜!」
「ほら、きっちりしっかりハンコ押して下さいよ。」
俺の頭を辞書ほどの厚みのある本で叩いたのは副官のアレクだ。
こいつ年々俺に対する扱いが雑になってきている……。
「ったく、口で言えよ。何ですぐに叩くんだ。」
「ふう…………さっきから10回は話しかけましたよ。なのに貴方は……。いい加減シャキッとして下さいよ。サナさんがいなくて寂しいのは分かりますが、貴方はこの騎士団の隊長なんですからね。」
アレクはそう言って自身の仕事に取りかかった。
俺はしょうがないから、机の上に塔を作っている書類に地道にハンコを押すことにした。
はぁ〜〜、サナのお茶が飲みたい。
サナのお菓子が食いたい。
サナと魔物狩りに行きたい。
サナに…………サナにとにかく会いたい。
俺はアレクに叩かれないように、ハンコを連打しながらサナに思いを馳せていた。
この日の俺のハンコ押しは新記録を樹立したのであった。
その日の夜、俺は父から話しがあるから部屋に来るように言われた。
一体何の話しやら。
「リカルド、見合いをしなさい。」
「嫌です。」
俺は父からの言葉を一蹴した。
何で今更見合いなんぞせねばならんのだ。
父は眉間にシワを寄せながらもう一度同じことを言った。
「いいから見合いしろ。」
「嫌です。」
俺達は睨み合いを続けた。
しかし何で今なんだ?
それに俺と見合いなんか望む女性がいるのか?
言ってて悲しくなるが俺と話しが合うとは思わないんだが。
「リカルド、非常に貴重なお前と見合いをしたいと言ってくれている令嬢なんだぞ。一度会うくらいはしてもバチは当たらんだろ?」
「…………何か目的でもあるのではないですか?」
「令嬢が是非お前に会いたいと言っているらしい。」
「…………。」
何だろう、すごく嫌な予感がする。
俺の野生のカンが危険を告げている。
もう、なんか絶対厄介ごとの匂いしかしない。
「父上、断りましょう!」
「無理だ。何故なら見合いは明日だからな。」
「あ、明日?何言っているんですか?俺、明日も仕事がありますよ。」
明日って何だ?
普通もっと前に言うだろう。
「心配しなくても明日は休めるようにしてある。アレク殿にも頼んで仕事はある程度終わらせるようにしてもらったからな。」
あの野郎〜〜。
だから今日あんなに書類整理させたのか。
言われるがままにハンコをつきまくった自分を殴りたい。
だいたい見合いなんかしても婚約、ましてや結婚なんてしないぞ。
俺には…………俺には?
うん?何でだ?サナの事が頭に浮かぶ。
俺が反論もせず唸り出したことを良いことに父はこれで話しは終わった、と俺を部屋から放り出した。
俺は自分の部屋に入ってからもずっと考えている。
まず見合いは嫌だ。
何故ならそんな俺のことを知らないようなやつと結婚なんて考えられないからだ。
結婚するなら俺の性格を知っていて、なおかつ領地のことを一緒に守れる人が良い。
………………!!
「ああああーーーー!!」
俺は思わず叫んでしまった。
俺は、俺は、……何てことだ。
何でこんな簡単なことに気づかなかったんだ?
「おれ、サナのこと愛しちゃってんじゃん。」
気づけばこれほど気持ちがストンと収まることはないと言うほどキレイに収まっている。
おいおい、何で気づかなかったんだ?
馬鹿か?俺はバカなのか?
今までの考え、行動、何をとったって全部サナのことが好きな証ではないか。
何で今まで気づかないんだ、俺って奴は……。
しかも明日は見合い当日だぞ。
サナのことに気づいたのに見合いなんて出来るか!
先方には申し訳ないけど断るしかないな。
それに俺、休みをもぎ取って西の国に行きたいし。
「サナ!待ってろよ!」
自分の気持ちにようやく気がついた俺は気分良く眠りについた。
明日待ち受ける危機も知らずに。