暴走の果てに➃
私の精神力が底をつきそうな今、アレン君探しが続けられている。
探すと言っても手がかりは……ある。
アンジュさん曰く、倒れている人達を辿っていけばアレンのところに行けますよ、とのこと。
確かに目印のごとく屈強そうな男達が転がっている。
どうやらアレン君は全滅を狙っているらしい。
もしかしたらもう達成しているのかも……。
それならそれでイイから早く帰ろう!
サナとアンジュさんに調教……いや、教育?を受けた人達がついてくる前に。
私達はどんどん屋敷の奥へと進んで行った。
今もまた3人ほどが折り重なって気絶していた。
たぶん戦闘力が違いすぎるから気絶で済んでいるんだろうね。
「リリーナお姉様、ほら見て下さい!」
アンジュさんが私の腕を引いて、声をかけてきた。
アンジュさんが指し示す方を見てみるとアレン君が舞っていた。
いや、あれはもう芸術だね。
襲ってくる敵を舞うようにかわし、軽く投げたり蹴ったり。
軽いんだよ、だけど……敵はみんな壁に穴をあけて頭から突っ込んでいったり、扉ごと吹き飛んでいったりしている。
アレン君自身は元いた位置から全く動いていない。
そしてアレン君は1番奥にいた人に話しかけているようだ。
ここからはよく聞こえないため私達は近づくことにした。
「さあ、あんたご自慢の部下はぜ〜〜んぶ片付いたよ。びっくりする程弱いね。1度魔物と戦ってみればいいんじゃない?運が良ければ強くなれるかもよ。まあ、たぶんその前に全滅だと思うけどね。」
アレン君に話しかけられた人は顔を強張らせながら後ずさりをしている。
見た目は明らかに強面のおじさんだ。
でも、今はアレン君に対して恐怖しているみたい。
「ま、待て!お前の強さは良くわかった!ど、どうだその実力なら公爵様も気に入る。公爵家に仕えるチャンスだぞ。お前なら公爵様も気前良く給金を弾んでくれるはずだ、もちろん俺が口添えしてやる。だ、だから落ち着けよ、な?」
おじさんは必死でアレン君をなだめている。
しかしアレン君はその歩みを止めない。
おじさんはどんどん後ずさりしている。
「お、お前が今仕えているところよりも2倍、いや3倍金を出す!しかもこの国の公爵家だぞ!」
アレン君が歩みを止めた。
それを見たおじさんは安心したようにアレン君に話しかけた。
「あ、ああ。大丈夫だ。ちゃんと俺が公爵様に話しをつけてやる。な〜に、こんだけ暴れたのもその実力を見せつける為のもんだ。公爵様だってわかってくれるさ。」
おじさんは急に機嫌良くアレン君へと接し始めた。
アレン君が仲間になると思ったんだね。
でも……そんなことありえないよ。
だってアレン君はあなた達みたいなのが大嫌いだから。
「なあ、あんた馬鹿だろ?なんで俺がリリーナ様に喧嘩を売った相手の仲間にならなきゃならないんだ?あんた達、俺らをここに連れて来た時話していたよな。俺たちを人質にリリーナ様を脅すって。しかもリリーナ様にも危害を加えるって。俺は、その話を聞いた時に決めたんだ。この屋敷にいる奴を全てブッ飛ばすって。安心してくれ…………例外なくあんたもだから。」
そう言うとアレン君はおじさんにあっという間に近づき、その腕を捻じ上げた。
「どうやらあんたがこの誘拐の中心みたいだからさ、念入りに相手してやるよ。どうする?どこから潰そうか?大丈夫、殺しはしないよ。今までやってきたことを洗いざらい喋ってもらうから。」
アレン君はそのまま今度はおじさんの襟首を持って壁に叩きつけた。
「うぐっ」という言葉を残しおじさんは気絶したようだ。
「弱いくせに俺らに喧嘩を売るなんて、本当に馬鹿だな。」
あの軽く投げて気絶させるのって流行っているのかな?
やっていることがお祖父様みたいだよ、アレン君。
私は一通り暴れたであろうアレン君へ声をかけた。
「アレン。」
私の声にすぐにアレン君は反応した。
「リリーナ様!」
アレン君は満面の笑みで私に…………抱きついてきた!
え?え?え〜〜?
さっきのアンジュさんと同じなんだけど、なんだけど!
家族以外の異性に抱きつかれたことなどない私は、プチパニック状態になってしまった。
どうしたらいいのかわからず何故か手をばたつかせてみたりしてみた。
だけどアレン君は私を抱きしめたままその顔を私の髪にスリスリしてきたのだ!
うわ〜〜ん、どうしたらいいの?
困り果てた私は少し顔を動かしてみんなの方を見てみた。
…………見なければよかった。
まずサスケさんはこっちを見ていない。
アレはわざと見ないようにしているね。
サナは非常に生ぬるい目で私達を見つめている。
……っく、サナ!今度兄とイチャついていたら同じことするからね!
そしてアンジュさんは、両手を組んで目をキラキラさせてこちらをジッと見つめている。
う、う、誰も助けてくれる人はいないのね。
「ア、アレン、あの〜〜もうそろそろ離していただけると有り難いな〜〜なんて思っているのですが……。」
私の言葉にアレン君はそのカッコ可愛い顔で一言
「イヤです。」
ええーー!