⑨
はぁ〜〜良い天気〜〜。
昨日に引き続きの好天に恵まれ私とサナは気持ち良く出発した。
昨日父から頼まれた母への手紙も忘れず預かっている。
とにかく母に会ったらすぐに渡すように言われた。
順調に行けば途中の町で1泊して明日の夕方には到着出来るはずだ。
まあ、無理すれば今日中に着くことも可能だが非常事態でもないのでのんびり行く。
何故かサナがやたらと後ろを振り返っているが、領地に行きたくないのかな?
「ねえ、サナ。あなた領地に帰りたくないの?」
「?いえ、そんなことございませんわ。久しぶりの帰郷に嬉しく思っております。」
「では何故何回も後ろを気にしているの?何か気になるものでもあったかしら?」
「う……。いえ、特にはございません。むしろないのがおかしいぐらいで…」
ないのがおかしいって何?
謎かけ?
サナの言葉に疑問を抱きながらも久しぶりの自然の空気に心が弾む。
サナはそれからもチラチラ後ろを気にしていたが何事もなく1泊する予定の町に到着した。
特に何も行事があるわけではないので部屋はすぐに取れた。
部屋に入り少し体を休める。
「リリーナ様…やはりお部屋はもう1部屋取った方がよろしいのでは?」
「あら?サナは私と同じ部屋では嫌なの?昔はよく一緒に寝ていたのに…」
「一体いつのお話ですか。主人と同じ部屋というのはやはり…」
「サナ、私は久しぶりにあなたとお話をしたいの。領地を出てからはこんなこと出来なくなってしまったもの。ねえ、お願い!今日は昔のこととかお話しましょう。」
「ふう、…分かりました。そうですね、リリーナ様とゆっくり昔話などする時間は王都に行ってからはなかったですものね。今日は久しぶりにお話しましょうか。」
ようやくサナも納得してくれた。
王都では何かと忙しくてサナとはゆっくりお話出来なかった。
久しぶりに昔話に花を咲かせよう。
私達は早めに夕食を済ませ部屋でのんびり過ごすことにした。
サナが入れてくれたお茶を飲みながら小さい頃の話をする。
「…もう、だからあの時は心臓が止まるかと思ったわ。」
「はい、私もビックリしましたよ。まさか、上からリカルド様が降ってくるなんて…」
「本当にね。突然お兄様が現れた時は思わず剣に手をかけていたわよ。歩いていて人が落ちてくるなんてそうそうないもの。」
「しかも理由が木の実を取る為って…怪我がなくて本当に良かったですわ。」
「あの時って確か…そう!お兄様はクリス様の為に取っていたのよね!」
「クリス様…あっ、確か療養の為に来られていたっていう…」
「そうそう。詳しい御身分とかは分からなかったけれど立ち振る舞いを見た感じはとても高貴な方のようだったわ。結局半年ぐらいいらっしゃったのよね。近くの森の薬草を摂るようになってからは凄く具合が良くなったって言ってたもの。最初見た時は本当に儚げで消えてしまいそうだったわ。」
「そうですね、とても綺麗な方だった記憶がありますわ。」
そうなのだ。
私がレオン様に会う1年くらい前に私の家に療養に来られていた方がいたのだ。
名前はクリス様。
たぶん正式な名前は違うのだと思う。
お忍びで来られていたようだ。
歳は兄と同じくらいに見えた。
来た当初は横になっていることが多かったが、日増しに元気になっていった。
兄は絶対クリス様を好きだったんだと思う。
外に行く時は必ず付き添っていたし、よく笑って2人で話しているのを見かけた。
クリス様は優しい方で私を見かけると笑顔で話しかけてくれた。
調子が良い時は1度2人で近くの森に出かけたことがある。
その時見せてくれたクリス様の弓の腕前はとても素晴らしかった。
何よりその弓を引く姿に私は胸がドキドキした事を覚えている。
同性のはずなのにあんなに胸が痛くなったことはクリス様以外では今までなかったことだ。
私が何も言わずただ弓を引く姿を見続けている事にクリス様は気付くと照れたように微笑んでくれた。
まるでおとぎ話に出てくる女神様のようだった。
「きっとクリス様は成長されてますます綺麗になっているんでしょうね。お兄様は会いたいって思わないのかしら?」
「リカルド様がですか?どうでしょうね、懐かしむ気持ちはあるとは思いますが」
「お兄様は婚約者もいないのだし、クリス様がお兄様と結婚してくれればとても嬉しいのですけど…」
私の言葉を聞いてサナは首を傾げている。
「あら?お兄様とクリス様では合わないかしら?」
「いえ、合わないわけではありませんがかなり難しいのでは…」
「まあ、そうよね。かれこれ8年くらい会ってないものね〜。」
私達はこの日の夜眠るまでずっとおしゃべりを楽しんだ。
こんなに楽しいのは久しぶりだ。
明日には領地にも着くし、今日はグッスリ眠れそうだね。