3、拠点侵入
すっかり夜になっているが、50体ほどのオークがせっせとダンジョンを横へ奥へと穴を掘る。オークの乗せられぶりに、ライカ以外相当頭が弱いことが分かった。レイはそんな中ダンジョンを離れ、村でもともとあった食材を使い料理をしていた。
「初めて見る食材ばかりだけど、味はそう地球と変わらないわね・・・」
両親に無理やり叩き込まれた腕前で、大量に作っていく。オークに振舞って好感度を得るという一番簡単なことをするつもりだ。恐怖で支配するよりも、信頼に足る人物と思わせといて働かせるのが一番である。レイは、オークたちの貧相な食事を手間を変えるだけで豪華にし、一日のやる気の源である食事から改善することにした。
「アンタ・・・あれ本当なのか?」
「あれって世界征服のこと?」
「ああ。あの魔王ですら無理だったのに・・・正気の沙汰とは思えないな」
「魔王?」
長は休んでてくれと仲間に無理やり説得させられたライカは、未だ張り詰めた顔で料理する玲のとなりで話していた。玲はそんな彼女に魔王の話を聴くと、今更かと言われながら説明を受ける。
300年ほど前。魔族の長である魔王は人間達を征服するために宣戦布告した。だが、王国同士の対立が無かったその頃の連合軍により、魔王は倒れた。長を失った魔王軍はその後散り散りとなったというだけの内容だ。
「最強の魔王が無理だったんだ。たしかにアンタが連れてる機械の兵士は強いけど、規模が違いすぎる・・・
結局は少数派の私達は影でひっそりと暮らしていくのが一番なんだよ・・・」
「なにも今すぐ戦争しようなんて言ってないじゃない。それに今は人間同士も対立してる。
それを利用する手だってあるわ」
「中途半端に知ってるんだな・・・・・・」
得意げな顔でライカに返事をする。だが、人間の規模がどれぐらいか分からないものの、今のままでは足元にすら及ばないことくらいは分かる。
「この世界の地図ってある?」
「周辺地図ならあるが・・・ほんと何者なんだか・・・」
「いつか教えてあげる。見せて」
いつも所持しているのであろうか、どこからかすぐに取り出すとテーブルに広げる。あまり詳しくは記載されていなかったが、赤の点線でまるで囲まれたところが目立つ。
「ここは?」
「・・・狩りで生活している奴らの拠点だよ。といってももう村みたいに立派なものになっちまってる。奴らはアム村と呼んでいるらしい。人間では弱い癖にウチらみたいに数が少ないものを狙う奴らだよ!」
ライカは俯きながら大きな手を力強く握り締める。必死に絞り出した声が震えており、怒りが伝わった。距離からしてオーク野村からはだいぶ離れているが、ダンジョンにはかなり近い。
「なるほど・・・取り敢えず、ご飯できるからそろそろ呼んできて」
「・・・・・・分かった」
順調に行っているように見えるが、まだわからないことが多すぎる。ダンジョンマスターとう職業が実際の自分に同関係するのかという身近なことからこの世界の状況といった広いことまでさっぱりだ。ここまでこれたのも、最初に選んだ能力の選択が正しかったという運の良さによるものだ。少なくともダンジョンマスターとう名前ではあるが、自分が離れても命に問題は無いことは既に理解している。
だが、玲は気が付いていなかった。世界征服というなら他にやり方はいくらでもあるのに、最初に目覚めたダンジョンを無性に広げてたいという衝動にかられていることを。
「お疲れ様。たくさん食べて精をつけて」
「あ、ありがとう・・・」
肉じゃがのようなものと、スープとパンをそれぞれ配っていく。美人になっているという事も分かっている玲は、誰もが見とれるような笑みとそれぞれ向けていった。疲労でげっそりとしていた顔が、だらしない表情に変わるのが彼女にとって滑稽だった。前の世界で顔について褒められたことは一度もなく気にもしていなかったのだが、いざ自分が創りあげた画面の顔の整いを思い出すと自信が付く。
「でもこれ俺たちの食料だよな・・・これからどうすれば・・・」
「人間どもから奪えばいいのよ。私が貴方たちにしたみたいに配下になることを提案する・・・断られたら・・・」
黒い笑みを見せると、息を呑む音が聞こえる。
「私はまだあなたたちに信頼されていないのはよく分かってる。せっかくだから証明するために貴方達を襲う人間たちの拠点を奪ってきてあげるわ」
「で、できるのか?」
「出来るわ。だけど約束して。何があっても絶対に裏切らない従順な配下になることを」
「わ、分かった!頼む!あいつを何とかしてくれ・・・」
歓喜と戸惑いの声でで盛り上がる中、唯一ライカだけが冷静な顔でいる。
傍に耳打ちをしてくる声はまだ震えている。
「ほ、本当に大丈夫なのか・・・?」
「平気よ。任せてダンジョンをとにかく広げることだけ専念して」
自分で用意した料理をすぐに胃に流し込むと、機巧兵士を連れダンジョンに戻った。途中の歩きにくい道は綺麗な獣道となっている。オークたちが整えたのだろう。
ダンジョン内は、元あった広い部屋の奥に新たな長細い通路ができており、その先に同じような広さの空間が出来上がっていた。半日にしては十分すぎるせいかだろう。だが、まだまだ迷宮と呼べるには程遠い。
「もう今日は休んでおこう・・・そういえば貴方に名前をつけることってできるのかしら?」
『可能です』
「なら・・・アイリス、これからあなたの名前はアイリスよ」
『了解しました、マスター』
念のためアイリスに警護を任せる。
家具も何もない地面に座ると、そのまま横たわり眠りについた。
「ん・・・そうだ。異世界に来たの夢じゃないのよね・・・」
鳥の鳴き声が聞こえる。
あちらこちらが痛い体を起こすと、ゆっくり固まった筋肉を伸ばした。
早速地図で確認した村に行こうと思い外に出ると、ライカが木を背もたれにして待っている。
「おはよ・・・どうしたの?」
「もしかしてもう行くつもりなのか?」
「ええ。取り掛かるなら早いほうがいいでしょ?」
「そうか・・・すまない・・・」
複雑そうな顔で頭を下げるのに対して玲は驚く。
自分たちが利用されることについて何か言ってくるかと思っていたのである。
「・・・昨日言った約束を守ってくれれば良いわ。」
「ありがとう・・・」
すぐに殲滅するのではなく、偵察に行くだけだが敢えて言及するような真似はしない。
数日はかかると伝えて後ろから振ると、整備されてない道を方角通りに向かった。
オークの村への道と景色は大して変わらないが、進みに連れて切り刻まれている木やモンスターの死骸といった戦いの跡が多く目にする。
数分歩くと、茂みから大きな音がした。距離をとる玲と入れ替わるようにしてアイリスが構える。
「随分と大きいスライムね・・・さっさと倒して頂戴」
『了解』
最初に出会った足元程度の大きさのスライムと違い、玲と同じくらいかそれ以上だ。アイリスに気づいた巨大スライムが突進してくる。その攻撃に対し、巨大スライムの真上に跳躍すると、急降下しながら尖った膝を真上から突き刺す。巨大スライムは真っ二つ引き裂かれるが、それらが小さくなった個々のスライムと分裂した。それだけではなく、段々元の巨大スライムのサイズへと戻っていき、あっという間に2体の巨大スライムとなってしまう。
「こ、これは・・・」
『分裂型と思われます。物理では相性が悪いようです』
襲いかかる巨大スライムをひたすら切り裂いていくが、キリがない。1体だったスライムは、もう軽く20は超えている。
「に、逃げるしか・・・でもあの早さだと・・・」
アイリスを足止めに使えば逃げることは可能だが、オークたちが配下となる肝心なカードを失う事になる。そこまでして生き残るというのは彼女のプライドが許さなかった。
「我に宿せし雷よ―雷獣―」
もう詰みかと諦めかけたその時、フードを深く被った人が現れた。
空中に魔法陣のようなものを綴ると、そこから雷でできた獣が3匹現れ、スライム達を喰い殺していく。分裂するも、感電したように焦げて黒焦げになった。雷獣と戦闘になっていない数体の巨大スライムがフードの者に襲いかかるが、紙一重で交わしながら力強く蹴りを入れる。その反動でフードが剥がれ、顔が明らかになる。金色のミドルヘアーに、尖った耳の青年。強力すぎる魔法や寿命などの理由により、この世界で差別されるエルフだ。
(間一髪ね・・・しかもこれで魔法が使えるようになった)
助けてもらった安堵と、思わぬところで初の魔法を習得できたことに興奮する。一番使えそうで選んだ『魔法模写』が役に立つ。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう・・・助かったわ・・・」
「村から近いとは言え、機巧兵士だけでは危険すぎます」
「魔力が切れちゃったのよ・・・」
エルフが機巧兵士に魔力を流し込みながら話す。
敬語を使うか悩んだが、出来るだけ素の自分を出したほうが裏もバレないだろうと判断した。以前なら誰に対しても敬語から入っていたが、今はこの美しさでカバーされることも考慮する。最も今回は相手が見とれるというより警戒しているような雰囲気を出しているせいで、これから使う口調を統一する為だけになってしまったが。
「・・・村って拠点のことよね?よかったら帰り道を案内してくれない?迷っちゃって・・・」
「・・・エルフに頼るなんて珍しいですね。付いてきてください」
怒気が混じったような声で振り返り、先行する彼についていく。今のところは順調だが、これエルフほど強い者が村にたくさんいると流石に侵攻するのは無理だ。
これからどうしようか頭を巡らせているうちに、木の塀でできた村に着く。
「私はこれで帰ります」
「帰るって森に用があったんじゃないの?」
「・・・あれは帰り道の途中です」
「なんだよセレン、まだここに残ってたのかよ」
暗い反応の最中に、男たちが寄ってくる。それぞれ腰にナイフを装備しているが、体型からして戦力とは思えない。リーダーであろう一番前の男が睨むと、胸ぐらを掴んでくる。
「エルフのくせにいつまでも居やがって!誰もお前を必要として無えんだよ!」
「・・・ちょっといいかしら?」
「なんだお前?見ねえか顔だが随分とべっぴんじゃねえか・・・よかったら俺たちと遊ばないか?」
エルフの名はセレンと言うようだ。顔が見えないものの、手を強く握り締め、聞こえない程度の大きさで舌打ちする音が聞こえる。急に冷たい態度を変え、ニヤニヤといやらしい笑みを向けてくることから何を考えているかなどすぐに分かった。今すぐにでもアイリスに八つ裂きにするよう命令したい気持ちを抑え、慣れた笑顔の仮面を被る。
「良いけどセレンに少しだけ用があってね」
「あ?俺よりこいつを優先するのか?」
「仕事関係よ。時間が空いたら幾らでも付き合ってあげるわ・・・勿論ベットの方もね」
「へへっ、そりゃいいや。仕方ねえが今は我慢してやるよ」
デレデレとした顔を覚めた思いで見ながら、セレンに一緒に来てと目で合図を送る。
中はかなり広く、拠点ではなく村であるということに納得させられる。小さいな店がところどころあり、オークの村よりずっと立派だ。
「どういうつもりですか?」
「食事でも付きって欲しいんだけど」
返事を聞く前に手を引っ張ると近くの店に向かった。
まとめ
オークに食事つくる→ライカから周辺に人間の拠点(村)の存在を聞く→機巧兵士の名前をアイリスにする→翌日→ライカに礼言われながらひとりで拠点に向かう→途中強いスライムに襲われる→エルフに助けられる→そのまま拠点に案内してもらう→絡まれる→うまくエルフと一緒に逃げる