1、プロローグ
テンプレプロローグの為、短いです。
笹岡玲は日常に退屈していた。
猛勉強して一流の大学へ行ったものの、そこに待ち構えていたのはまたしても競争。どこまで行っても争い続けることだろう。そんな繰り返しにうんざりする。
一人っ子の玲は、家庭環境はそこそこ良く、人間関係も円滑だ。
だが、本当の自分というのを表にすることはいつの間にか無くなっていた。内心ではお互いに蔑み合い、表面では取り繕う。中学生になる頃には完全に仮面をかぶることに慣れていた。自分が一番と考え、常に利益を求め愛想をよくするのが当たり前だ。特にそうしろと教わったわけでもないが、両親を見ているうちに自然と身についた。
影で両親が話す自分のことといえば、進路のことだらけで本人の気持ちというものを考えずにレールを勝手に敷く。玲はひたすら従順なふりをし続け、いつか一人になった時の為に利用してやると考えていた。そして期待以上の成果を常に出してきた。
だが、その肝心の両親がつい先日交通事故で逝った。飲酒運転に巻き込まれたらしい。身内への死の悲しみは特に無い。卒業したら一人で暮らしていく予定だったし、両親の遺産で生活に困ることはないが、自分の中の何かが消えた気がした。
「笹岡さんも大変ね… 本当に残念だわ」
「ありがとうございます」
「ご両親はいつも―」
(うざい…)
近所のおばさんの執拗な話を聞かされる。いつも影でさんざんあることないこと言いふらしていることは、周知の事実で無視していたが、面と向かって心にもないことをペラペラ話されると怒りを通り越して呆れる。内心毒を吐きながらも笑顔で返すことは絶対に忘れない。ここで醜態をついても、誇張して言いふらされるだけである。学校でした時と同じように、適当な用事を理由に別れた。
「これからどうしよ…」
面倒事を終え、上着とズボンを脱いで下着姿になる。普段なら絶対にありえない姿だが、最近になっては気にする必要はない。ほとんど付けもしない大型TVを付け、この歳までフィルタリングまでされて存在を忘れていたパソコンの電源を入れる。おまけに帰りに買ってきたお菓子を並べるといった自堕落生活だ。
パソコンのフィルタリングを解除すると、今まで禁止されていたせいで気になっていた女性向けアダルトサイトを火遊びのつもりで見るが、あまりにも予想どうりのものでがっかりしながらほかのサイトを見る。内蔵が飛び出ている事故のグロ画像や、心霊動画も呆気なかった。そんななか一つのサイトに目が止まる。
「退屈のあなたに最高の世界を… ネットゲームも試してみようかしら」
なんの変哲もない英語のタイトルだったが、妙に惹かれるものがあった。自分でもゲームはこれから先良くないと分かっていながらも、始めてしまう。ほかの説明は全て英語で書かれていたが、特に苦労せずスラスラ読んでいく。どうやらレベルやHP、MPといったもの無いようだ。
他の世界観なども読んでいくと、細かく設定されていた。
種族が多い世界であり、他種族は人間と魔族に分類される。2族は対立しているが、人間は王国同士で戦争を繰り返しているようだ。どこも現代のように発展しておらず、中性のヨーロッパのイメージが近い。画像の地図を見ただけでも地球よりはるかに大陸が分類されており、unknownと書かれた土地もかなりの広さである。
魔法に関してはいくつか属性があるようだが、相性は時計回りに火・氷・風・雷・土・水、互いに闇・光と相性がいいよくある設定だ。魔法の発動に関しては、魔力が使える限りと書いてあるだけで理解できなかったが、やってみればわかると思い深く考えなかった。
最初のキャラクター設定から色々と選んでいくと、職業と能力の選択まで出てくる。無数にあるそれらの中から特に気になったのが、ダンジョンマスターだった。説明には『自ら迷宮の主となり、領地を広げていく』とシンプルな内容だ。
3つまで選べる能力の選択はかなり真剣に悩んだ末、魔力で作動し壊れても再利用可能の機械でできた兵士を最初から所持することができる『機巧兵士』・魔法を一度見たら覚えることが出来る『魔法模写』・名前通り魔力が格段に増える『魔力増大』を選択した。
「ゲームなのに本気になっちゃってるよ、私…」
数時間悩んで職業と能力を決めるとなると、外見や服にも力を入れたくなる。
銀色の肩までかかったロングヘアー。高身長であってほんの少しつり上がった金色の目。鼻は高くし、唇は薄く綺麗に仕上げた。グラフィックはとても2次元だとは思えないほど綺麗なものであり、誰が見ても美人だ。最後に紫と黒が混じった、いかにも魔女の服を着せた。
そのままスタートをクリックすると、画面全体にWARNING!という文字が大きく出る。
「ん?…警告。この世界に未練がある方はおやめください… ここまで本格的となると相当ハマるゲームなんでしょうね」
苦笑いしながらOKを選択すると、画面の白い光が視界に広がる。
玲は遠のいて行く意識を手放した。