生クリームの女神っ!
わたし、甘瑠16歳!
ぶっちゃけヒャッハーな高校ライフを謳歌していたんだけど、なんとなんとっ!
突然、異世界に来ちゃいましたっ!
きっかけは授業中に食べた『雪見アイスまんじゅう』。キレた先生が投げたチョークが当たった拍子に、喉に詰まらせて昇天しちゃったんだよ! (お母さんゴメンね!)
気が付くとドラゴンや騎士が目の前に居て、超凄い! どうやら素敵ファンタジー世界に来ちゃったみたいなんだっ!
これって「小説家になろう!」でよく見かける異世界転生ってやつだよね!?
ってことは、何か素敵な能力を神様がサービスしてくれたよね!?
「アマルは渡さないよ!」
「王子とて負けるわけにはいきません。私の愛は本物なのです!」
「ううん! ボクだって本当にアマルが好きさ!」
と、いうわけで(?)私の目の前では今、王子様と騎士様が戦っている最中なんだ。
目的は、ズバリ私!
性的な目的で……って、違う! 一応「恋人」にしようと奪い合っているんだって。
ほら、私って可愛いし、可愛いは正義?
髪は明るめのブラウン、カラコン装備でパッチリだしスカート丈短いし。可愛さは世界が変わっても通じるみたい。ありがと、お母さん!
二人は目の前で対決してはいるけれど、剣や魔法で戦ってるワケじゃないの。
この世界では「甘いもの」を作って愛する女性にプレゼントして対決するんだって、激やばいよね!?
並べられた調理台の上には小麦粉に砂糖、そして卵!
二人は一生懸命作ってる。
ちなみにここは可愛いお城の見える「広場」なんだけど、見物しているのは町の人だけじゃないの。
ドラゴンさんやぷよぷよしたゼリーみたいな生き物とか、兎に角「ファンタジー」って感じなんだっ!
「後は焼くだけさ!」
王子はカボチャパンツに白タイツ、卵形の顔にさらさらの金髪。瞳の色は神秘的なブルー。気品あふれる顔立ちで、イタズラしたくなっちゃう年下の美少年って感じ♪
「ふふ、王子。私もです!」
対する騎士さんは私好みの細マッチョ!
外国映画で見た! って感じの堀の深い顔で美形青年! 無理やり押し倒されたら抵抗不能って感じだよっ!?
わたしは少し離れた位置で、ちょこんと座って待っている状況。
と――。
しばらくして、菓子が出来たみたい。
王子はふわふわの焼きパン、騎士はクッキー。
ほかほかの出来立てを恭しく持ってきて、私の前で肩ひざを付いて差し出したの。
「どうぞお召し上がりください、アマル」
「私のも是非、アマル!」
「美味しいほうを勝者としアマルを貰い受けるんだよ、騎士ウィロー」
「異論はありません、ショコラ王子」
二人は互いにバチバチと火花を散らした。
「やー、もー! 困っちゃうなぁ……」
私は顔を赤くしつつも、ふんわりパンとクッキーをそれぞれを手にとって一口、食べてみた。
もぐもぐ……。
しゃくしゃく……。
二人の青とエメラルドグリーンの瞳が私を見つめている。
だけど、正直あまり美味しくない。
甘みが足りないっていうか、何か……どっちも何かが足りないんだ。
「んー……?」
私が小首を捻っていると、
「どっちが美味しい!?」
「私のは!?」
ショコラ王子と騎士ウィローがずいっと近づいて聞いてくる。
「もしも、勝負が付かない場合、剣と剣で勝負をつけるしかないね!」
「王子の身体に傷をつけるのは騎士道に反しますが……これは正式な愛の勝負!」
ずしゃぁあっ! と二人は立ち上がった。
私は正直超大慌て。
こんなイケメン二人が争って顔に傷でも付いたらどーすんの!?
どっちも私のモノになっちゃえばいいのにっ!
神様!
こんな時こそ、異世界転生の秘めた力発動だよね!?
二人がいよいよ剣を手にしようとしたその時。
「だ、だめぇえええええっ!」
私は気が付くと叫んで飛び出していた。そして二人の間に割って入り、両手を広げた、その瞬間。
しゅぱぁああああああ!
と、真っ白な何かが私の両手の手首からそれぞれ飛び出した!
「えっ!? なにこれー!?」
「わっ! アマル!?」
「な、なんだっ!?」
これには流石の王子と騎士ささんも驚いて、剣を落としたの。
気が付くと王子の顔も、イケメン騎士さんの顔も白いもので覆われていた。
「あわわわあ!? スッ、スパイダーマ●のアレ!?」
慌てて両手を見ると、飛び出した白いモノは、甘い香りの「生クリーム」だった。
神様……私にこんな能力をくれたんだね!?
って!?
「アマル! 君がくれたこの白いものは……何なんだい!?」
「甘い! これは……まるで天国の食べ物か!?」
二人ともめっちゃ驚いてる。そりゃそうだよね。
「えっ!? その、生クリームみたい……だけど」
「「生クリーム!?」」
二人は心底驚いてる。どうやらこの世界では生クリームって物が無いみたい!
観客席にまで飛び散った生クリームを舐めた町の皆さんやドラゴンも、美味しい! 初めて食べたと大騒ぎ!
「そ、そうだ! これを二人のお菓子につけると……」
私は威力を調整して、マヨビームみたいにぴぴーーっと白いクリームを塗りたくった。
ふわふわのパンにクリーム。
そしてクッキーにクリーム。
どっちだって美味しいに決まってる!
私たちは同時に手を伸ばして、同時に食べた。
すると……
「「「うっ……美味いっっ!?」」」
これこれ! これなのよ!
口いっぱいに広がるパンとクッキーと生クリームの芳醇な味わい!
これぞ真のスィーツ!
「アマル! 君は……生クリームの女神だったんだね!」
「アマル! 君こそが、世界を救う救世主だ!」
「いやぁ、そんなぁ……手から生クリームが出せるだけなんですぅー!」
照れ照れで身体をくねらせていると、王子と騎士が私の手を取った。
「私たちは三人でひとつ、互いに奪い合うこともありません!」
「王子の言うとおりだ。これからは……王子と私、二人が御身をお守り申す!」
感極まった二人に、ぎゅって私は抱きしめられた。
「きゃ!?」
ヤバイ! 王子も騎士様もすっげーいい香り!?
すんがーすんがーと香気を吸い込んで、密かに大興奮だよ!
私の出す白いクリームで異世界を救う!
うん、こんな冒険も……悪くないね!
<おしまい>